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    Akira_s4

    @Akira_s4

    文字書きです。どこにも投げられないような短いのとか腐ったのとか投げてます。

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    Akira_s4

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    ディアマンド×アイビー、ディアアイちゃんの短いお話です。野宿と誘惑と鋼の理性。お付き合いを始めてそんなに経ってない二人の、ほんのり甘い夜の一幕です。

    #ファイアーエムブレムエンゲージ
    fireEmblemEngage
    #ディアアイ
    idea

    愛は誠実 どうやら微睡んでいる内に本当に眠ってしまっていたらしい。まだ重たい瞼をこじ開けるようにして開くと、精悍な横顔が見えた。彼はすぐにアイビーが起きた事に気がついて、ふっと眦を緩める。
    「起きたのか。もう少し眠っていても構わないぞ」
    「どのくらい私は眠ってしまっていたのかしら」
    「ほんの僅かな間だ。くべた薪が燃え尽きるより短いくらいだろうか」
    「そう……」
     気怠い身体を起こすと、被せられていた布がぱさりと落ちた。ブロディアの紋章が染め抜かれたそれは、彼が――ディアマンドがいつも身につけているものだ。
     どういうことかとアイビーが目顔で問うと、彼ははにかむように微笑んだ。
    「風邪を引いてはいけないと思ってな。無骨な外衣だがないよりはいいだろう」
    「このくらい、平気よ。貴方が風邪を引いてしまうわ」
    「私なら心配いらない。寒さには慣れている」
    「そういうことなら私だって……いえ、ごめんなさい。貴方の心遣いには感謝するわ」
     そうは言ったものの、ディアマンドの外衣は大きくて心地よい重さがある。返そうとして少し名残惜しさを感じたアイビーに彼はやんわりと外衣を押し返した。
    「そのまま着ていてくれ。夜明けまではまだ時間があるからな」
    「じゃあ、私が起きているから貴方が少し仮眠を取ったらどうかしら」
    「大丈夫だ、徹夜にも慣れている」
     なんとまあ、揺るぎのない男だろう。つくづくアイビーは感心してしまう。ディアマンドの口ぶりは堂々としていて、強がりを言っている風ではない。単に徹夜くらい何ともないという事実を述べているだけなのだろう。自信に満ちていても嫌味はなく、どちらかというと臆病なアイビーですら安心せずにはいられなかった。

     ――敵によって分断され、二人きりで本隊とはぐれてしまったという状況なのに、だ。

    「夜が明ければ合流地点までの道程も見えてくるだろう。なに、そう遠く離れてはいないはずだ」
    「みんなは大丈夫かしら……」
    「神竜様にはアルフレッド王子やフォガート王子がついている。むしろ私たちの方が彼らに心配されているだろうな」
    「そうね……オルテンシアは泣いていなければいいけれど」
    「セリーヌ王女が一緒だったはずだ。彼女が落ち着かせてくれるさ」
     ディアマンドの答えはいい斧で割った薪のようにすぱりと真っ直ぐで迷いがない。ここであれこれ心配しても杞憂にしかならないとようやく覚り、アイビーは軽くため息をついた。パチパチと薪のはぜる音の他には、虫の声と葉擦れの音だけしか聞こえない。こんな所に一人で放り出されていたらと思うとぞっとする。
    「……貴方と一緒でよかった」
    「ふふ、大袈裟ではないか?」
    「大袈裟でも何でもないわ。本当に……貴方がいてくれて、わたし」
     ぱちん、とまた薪がはぜた。起き上がったアイビーとディアマンドの距離は、はぜた薪一本分にも満たない。人目のあるところでは適切な距離を保つよう互いに意識をしているが、今は誰の目もなくて――二人きり、で。
    「アイビー王女」
     自分を見つめる瞳に、普段は見られない揺らぎを見て胸が甘く締め付けられる。彼が憎い敵国の王子だったのがもう随分昔のことのように思えるけれど、アイビーが彼の瞳に浮かぶ感情の機微を理解出来るようになったのは、ほんの少し前のことだった。こんな風に、甘く胸が疼くようになったのも。
     思い切って、彼の方に身体を傾ける。逞しい肩にもたれかかるように身を預けると、そこは思った以上にほっと出来る確かさでアイビーの身体を受け止めてくれた。
     ディアマンドは何も言わない。ただ、少し躊躇った後アイビーの肩に彼の腕が回される。抱き寄せるその手が無骨だから傷つけなければいいがと最初は緊張していたのに、もう慣れてしまった彼の器用さが少し羨ましい。
    (私はまだ、こんなにドキドキしているのに……)
     衣服越しに染みてくるディアマンドの体温はアイビーの肌には少し熱いくらいで、触れあった箇所で自分たちの体温が混ざり合っていくのが気恥ずかしくもあり、心地よくもあり。ほっとため息をつくアイビーにディアマンドはまたくつりと笑ったようだった。

    「やはりもう少し眠るか?」
    「いいえ。でも……こうしていて、いいかしら」
    「もちろん、喜んで」
     起きているには何か話をしていたい。だがアイビーは生来お喋りが苦手なたちだ。ディアマンドも、饒舌な方ではない。何かを話さなければと懸命に話題を考えたアイビーは、ふと疑問に思ったことをぽつりと呟いた。
    「貴方は、私をそっとしておいてくれたのね」
    「どういう意味だろうか?」
    「誤解をしないでね。貴方を侮辱しているわけではないのだけれど……目の前に無防備に女が寝ていたらよからぬ事を考えたりするものではないの?」
     ディアマンドの目が丸く瞠られる。まるで埒外の質問を受けたとでも言わんばかりのきょとんとした顔は常の彼らしくなく妙に可愛らしくて、アイビーはつい笑ってしまった。
    「そんな顔をしなくても」
    「いや……まさかそういう男だと思われているとは」
    「貴方がそう、というわけではないの。私は……立場上、そういう男たちの視線に晒されてきたから、あなたがそうしないことが不思議に思ったのよ」
     それもまたディアマンドには意外だったらしい。あのブロディアの王子なのだからそういう話の一つや二つ耳にしたことくらいあるだろうに、それを統べる彼本人はまるでそうした事とは縁がないというのがアイビーの笑みを深めさせた。
    「その……アイビー王女にとっては、そうした事柄は珍しくないのだろうか」
    「女の身で戦場に立つなら、私に限ったことではないかもしれないわ。他国の兵士に辱めを受けて自ら命を断った子もいる。私だって、敵国の兵士のいやらしい視線なんて珍しくもなんとも思わない……でも貴方たちは一度だってそういう目で私を見なかった」
     ディアマンドも他の仲間たちも、アイビーを値踏みするような目で見つめてはこない。ましてやディアマンドはアイビーに「そういうこと」をしても許される立場だというのに、二人が交わしたのは未だ清い口づけだけで他の男たちのように物欲しげな態度すら見せなかった。
    「貴方があんな男たちと違うのは嬉しいの。でも……そんな私には魅力がないのかしらって、不安になるときがあって」
     強引に散らされたいわけではない。けれど、あまりに大切にされると本当に愛されているのか不安になる。とんだ我が儘だと理解はしているが、アイビーにはこの揺れ動く気持ちをどう処理すればいいのか分からなかった。
     ディアマンドはじっとアイビーを見つめている。いつもは迷いのない瞳の奥に、はっきりと揺れ動く何かが見える。それをもっと間近で見たくてアイビーが身を乗り出すと、急に視界がくるりと回った。
    「きゃっ……!」

     衝撃はほとんどなかった。ただ、やんわりとその場に――外衣の上に横たえられたのだと知って、頬がカッと熱くなる。彼女の傍らに手を突き、覆い被さるように身を傾けたディアマンドは熱の籠もった眼差しでアイビーを見下ろしていた。
    「で、ディアマンド王子」
    「……こうされるのが、あなたの望みか。アイビー王女」
     問いかける声は少し掠れている。普段からアイビーの胸を高鳴らせる扇情的な声が、今は一際艶を放っているように感じられてますます頬に血が集まる。
    「あ、あの……わたし……」
     ディアマンドが更に身体を傾けて、彼の吐息が鼻先に触れる。見事な赤毛の向こうに綺麗な月が見えて、月にすら見られている事が恥ずかしくてアイビーはぎゅっと目を閉じた。
    (どうしよう……どうしたら?)
     無防備に煽った自分が悪いのだ。もし侮辱されたと彼が怒っているのなら。或いは、その一言に刺激されてアイビーに劣情を催したのなら。それは自分が受け止めなくてはならない。けれど。
    (少し、恐い……)
     覚悟はしていたし期待だってしていたのに、いざこんな風に押し倒されるとやはり恐怖を感じずにはいられなかった。それまでいかにディアマンドが優しく紳士的に自分を扱ってくれていたのかを思い知り、アイビーは泣きたい気持ちにさえなった。
     そんなアイビーの怯えを感じ取ったのか、ディアマンドは小さく笑って彼女から離れていく。恐る恐る目を開けると、もう彼の顔に艶めいたものは見当たらなかった。
    「そのように怯えるようでは、な。まだ機は熟していないということだろう」
    「ご、ごめんなさい」
    「あなたが謝る事ではない。私が、大事にしたいのだ」
    「大事に? 私、を?」
    「ああ。もちろん、王女が乱暴に押し開かれる方を望むのなら、そうするのも吝かではないが」
    「そ、そんな趣味はないわ!」
    「ははは、そうだろう? それなら、そうしてもいいとあなたが思えるようになるまでは私は自重するつもりでいる」
     自重、ということはやはり我慢はしているのだろうか。どこか超然とした風もあるディアマンドに、そうした生理的欲求があることもつい忘れてしまいそうになるけれど。
     大事にしたいのだと言う彼の言葉は、無理矢理に求められるよりもずっと嬉しかった。
    「そう……そうなの」
    「納得していただけただろうか」
    「ええ、とても。貴方という人を好きになって良かったと、改めて思うわ」
    「それは重畳。そんなわけだから、安心して休んで欲しい」

     ディアマンドの手を借りて起き上がり、また彼の傍らに腰掛ける。新たな薪をくべる彼の横顔を見つめ、頼もしさと愛おしさにアイビーの胸はいっぱいになってしまう。
     先程のような刺激的過ぎるのはまだ少し恐いが、もう少しだけ彼との距離を詰めたい。そう思ったアイビーは、自分の下敷きにされていた外衣を取り上げた。
    「ディアマンド王子、もう少しこちらへ」
    「うん? ああ、こうだろうか」
    「ええ、十分よ」
     ディアマンドの外衣は広げるとかなり大きく、アイビーなら一人まるごとすっぽり覆えてしまいそうだ。これなら二人で入っても十分で、ディアマンドと自分の肩に外衣を掛けて二人でくるまる。
     二人分の温もりであっと言う間に暖かくなった外衣の中でディアマンドに寄りかかると、そこは野宿とは思えないくらい安心出来る場所になった。
    「ん……暖かい」
    「なんだ、やはり寒かったのか」
    「今はもう、寒くないわ。これなら貴方も暖まれるでしょう?」
    「……ああ、そうだな。アイビー王女は、とても暖かい」
     そんな風に言われたのは、初めてだった。氷の王女、まるで人の温かさを感じない人形の様な姫君。そんな風に陰口を叩かれたことは沢山あるけれど。
     自分の体温がディアマンドを温められる。それはどんなに素敵なことだろう。
    「ずっと、こうしていられたらいいのに……」
    「……今はまだ、無理かもしれない。だが、いつかは」
    「いつかは、ずっとこうしていられる日が来るかしら」
    「その日が来るよう、前に進むしかない。私も……あなたも」
     絶対、とはディアマンドは言わなかった。いずれ彼はブロディアの王になり、アイビーはイルシオンの女王になる立場だ。普通の夫婦のように一緒に過ごせる日はもしかしたら永久に来ないかもしれない。けれどいつか、もしかしたらブロディアとイルシオンが雪解けの日を迎えて一つの国になれるとしたら。
     夢のような話だけれど、その未来を見ているのが自分だけではなかったのが嬉しく、あやふやな約束をしないディアマンドの誠実さがアイビーには好ましかった。
    「その時を、楽しみにしているわ……ね?」
     少し背伸びをして、ディアマンドの唇に触れるだけの口づけをする。少し乾いてかさかさした唇は一瞬驚きに引き結ばれ、それから柔らかく綻んで。
     アイビーに、優しい口づけを返してくれるのだった。
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