昆虫採集の夏 学校の理科室ではじめてそれを見たとき、不思議な高揚感があったことを覚えている。
古びた額縁の中で、体をピンで刺され磔にされた無数の蝶。美しい姿のままどこへも行けずに、作品の中に封じ込められたそれらは、生死の概念すら超越しているように感じられた。
あれはただの死骸ではなく、死に向かう生を切り取ってこの世界に留めている。
瞬間と永遠。
真逆の意味を持つ二つの言葉が鮮烈なイメージとなって脳内に広がる。
『蝶は不滅の象徴だから、死に損ないのオマエにぴったりだな』
『ショウチョウ?』
呪いのような自分の名前を好意的に捉えられるようになったのはあのときのイザナの言葉があったからだ。
『たとえこれからどんな窮地に立たされても、オマエは何度でも何度でも死の淵から生還を果たし、王のもとへ帰還せよ』
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