沢松の日④ 無題『日本代表、沢北選手は現在NBAで活躍しています!今日の試合も得点源になることが期待されますね』
『そうですね。今日の試合は注目してほしい選手の一人です』
テレビからは、試合前の選手の紹介をしていた。本当だったら、観戦席でこのコメントを聞いている筈だったのに、どうしても外せない仕事で、開催地が日本国内だとしても、なかなか距離のある地域での開催ということもあり、泣く泣く諦めたのだ。
開始時間ギリギリに帰宅し、着替える時間さえも惜しい松本は、スーツのままテレビに向かう。
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『ニッポン、素晴らしい快挙です!!対戦国に20点も差をつけて勝利しました!!』
『いや〜、良い試合でしたね』
『序盤、なかなか点が入らない中、諦めずに……』
無事に勝った喜びで、テレビの中ではお祭り騒ぎだった。観戦席でその喜びを味わえない事を残念に思いつつ、早速ネットニュースになった記事を読み上げる。日本の今回の快挙に喜びのコメントがついていた。様々な選手に対してもコメントの中に、胸が騒つく言葉が目に入った。
『今回のスペシャルブースターしていた女優と付き合ってほしい』
『美男美女のビックカップル!?』
『この二人がカップル!?は〜、眼福ですな』
沢北からの愛情を疑っているわけではないが、気持ちのいいものではない。まだ帰宅まで数日間かかる沢北を待ち遠しく思いながら、松本はネクタイを解いた。
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帰宅早々、恋人からの熱いキスで迎えられ、いつもはそんな事しないのに……と混乱しつつも、舌を絡めて応える。
舌を絡める間も零れ落ちる甘い声に、何度聞いても腰にくるなと思いつつ、名残り惜しい気持ちを抑え、唇を離す。
「んっ、……ちゅっ……稔さんからのキスなんて珍しいね。嬉しいけど、何かあった?」
「……っ、今回のスペシャルブースターの女優とお前の交際を期待する声がニュースコメントに出てて、……嫉妬したんだよ」
ムスっとした顔さえ可愛らしい。嫉妬したという言葉に、いつも嫉妬するのは自分ばかり、一つだけ年上というだけで余裕そうな松本にヤキモキしていた沢北からしたら、今回の嫉妬などは可愛い物だ。
だが、あの松本が嫉妬したということが大事であって、沢北は天にも昇る心地だった。
「俺が一番大事で、大好きなのは稔さんだよ」
「……俺がお前のモノって事を実感させてくれよ」
「……モノ扱いしたつもりはないけど、良いよ。稔さんは俺のモノだし、俺は稔さんのモノだよ。いっぱい愛してあげる」
寝室に続く道には脱いだ衣服が散乱し、寝室のゴミ箱には口を縛ったゴムがいくつも捨てられたのは言うまでもない。
つづく