1月新刊予定の前日譚 東京では落ち葉が目立ち始める頃だった。
尾形百之助が雪を見るより先に、都からずっと北の土地に移ることが決まったのはつい一週間前である。
兵士を補充する為、下士官を志望する者を募り北の師団に送るつもりだと親しくしていた大尉に聞き、志願した。
志願してすぐに第一師団長直々に間謀の任を依頼されるとは思わなかったが、尾形は自分の目的を思えば都合が良かった。
北の師団への補充兵もカムフラアジュなのだろうと推測したが、詳細までは聞かされないままにあれよあれよと時間は過ぎる。
顔見知りの隊員数名に見送られ鉄道に乗ったのが二日前で、蝦夷──北海道へ向かう軍艦へと乗り換えたのがようやっと今朝のことだ。陸の兵士を海に迎えたのは何とかいう名の巡洋艦である。
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