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    ほなや

    腐ってる成人。何とか生きてる。気ままにダラダラしたりゲームしたり。
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    ほなや

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    小説16作目。FCゲーム『スiクiウiェiアiのiトiムi・ソiーiヤ』ディック×トム。
    ※「認めたくない気持ち」の続き。数年後の設定。
    ※欠損描写有

    #腐向け
    Rot
    #BL小説
    blNovel

    とある青年の日常カランッ

    「あっ」

    力を上手く入れられず、手に持っていたバケツを落としてしまい、汲んでいた水が床一面に染み込んでいく。木の板は瞬く間に黒茶色に変化していった。
    トムは落としたバケツの取っ手を持ち、元にあった位置に戻しそれを見下ろした。今朝、井戸で汲んできたなみなみと入っていた水はほんの少しだけになってしまっている。料理用レンジの横に立て掛けてあるモップを手に取り、慣れた手付きで床を拭き始める。もう一度井戸に行かなければ、と溜め息を吐いた時。

    コンコン

    途端、玄関のドアから音が聞こえてきた。トムは顔を上げモップを持ったまま、叩かれるドアに向かって駆け寄ろうとした。すると、ドアの向こう側から聞き覚えのある声が発せられた。

    「トム、いる?」

    最早習慣であるかのように、トムはドアノブを掴み回しそっとドアを開ける。目の前にはやはり見知った人物が立っていた。

    「ディック」
    「やぁ、邪魔してもいい?」
    「あー、今はちょっと…」
    「?」

    何処か言葉の歯切れが悪く目を後ろに向けるトムに、ディックは眉を顰め首を傾げる。目線を辿り奥を覗き込んでみると、奥の床が厭に黒くなっているように見えた。目を凝らし、それが水で染み込んでいるのに気付いた。
    ディックは目にした光景に釘付けになりながらトムに問うた。

    「あれどうしたの」
    「いやぁ…ちょっとドジっちゃって…」

    気まずそうに苦笑しながら、ハープを奏でるかのようにモップを小指から人差し指を繰り返し握るトムに、ディックは溜め息を吐き家の中へと入る。奥に進み、変色した床を見渡す。そしてバケツの取っ手を手に取り僅かしか入っていない水を見て、トムの方へと振り向いた。

    「僕が汲んでくるよ」
    「え、そんなのいいって」
    「いいから。もう1回行くのも手間だろ?」

    ディックは言いながらちらりとトム─と無い右腕─を一瞥し、ドアの方へと向かう。トムは慌ててディックの名を呼ぼうとしたが、問答無用とでもいうように颯爽と外へ出て、パタリとドアが閉じられた。
    トムはドアを見つめ手持ち無沙汰になった伸ばした左腕を下ろし、はぁ、と溜め息を付いた。


    ディックがなみなみと水が入ったバケツを持ち帰った時には、床一面はすっかり掃除されており、片腕で料理用レンジを駆使して朝食を作るトムの姿が目に入った。そしてトムの目の前にある鍋から食欲の唆る匂いが立ち込め、腹が鳴るのとトムがディックの方へと振り向いたのは同時だった。
    井戸で水を汲んできてくれた礼ということで、ディックはトムが作った朝食にありつくこととなった。テーブルに座り、目の前に置かれた湯気の立つスープに浸された人参とじゃが芋をスプーンで掬い口に入れる。ほろほろと溶けるように柔らかく、舌に染み込んでいく。煮立たせた牛肉のスープストックと混じり合った具材はクセが無く、何処か優しい味がした。次に、丁度良い大きさに切られた牛肉を掬い口に入れると、先程喉を通った野菜同様に柔らかかった。煮込んだことによって程良く臭味が取れているそれを、目を細め丁寧に噛み砕き味わった。飲み込んだ後、丁度テーブルの真ん中に置かれているバスケットから数個積まれたパンの1つを手に取り、1口サイズに千切り口に放り込む。
    顔を上げ、パンを噛みながら向かいに座っているトムをちらりと見る。左手にスプーンを持ち、此方と同様にスープに入っている具材を食べている。一見すると不便さなど全く感じさせないような食器の扱いに、すっかり慣れてしまったのだなと改めて思った。
    ほんの少しだけ揺れている右腕が通っていないブラウスの袖を寸秒ほど見つめた後、トムの顔に視線を移した。ディックよりも小さな口を開いてスープを口に運んでいき、ぱくりと口を閉じたところだった。噛んでいく毎に規則正しく動く頬に、朝で忙しなくなる心が穏やかになっていく。
    実を言うと、トムの家を訪ねるのはこれが初めてではない。毎日ではないが週に数回、仕事に行くついでということを口実に、身の回りのことを手伝っては一緒に朝食をとっていた。



    トムと再会したのは本当に偶然だった。
    仕事─家業─で目的地の経由でミズーリ州の付近のこの町を訪ね、民宿で一泊するだけのつもりだった。急ぎ足で町から少し離れている場所で滞在している同業者の家へ赴こうと、町のはずれにある路上の市場を通っていく。この時は書類を見ながら歩いていたのもあり、あまり前に注意を払っていなかった。何かにぶつかり、驚いて前を向く。

    「すみませんっ、大丈夫で」

    すか、と言い切る前にディックは言葉を詰まらせた。何故なら目の前の、つまり先程ぶつかった人物の顔がとても見覚えのあるものだったから。

    「トム…?」
    「え?」

    目の前の人物が、ぽかんと口を開けてディックを見つめる。寸秒ほど動かないままだったが、何かを思い出したのか目を見開いてゆっくりと唇を動かした。

    「もしかして…ディック?」

    発せられる声こそ低くなってはいたが、容姿はあの時と変わらない藍の瞳とそばかすの頬、そして金色の巻き毛。どれも昨日のことのように鮮明に、裸足で全力で駆けていく姿が脳裏に過ぎる。
    身長差で此方を見上げる青年─トムに話し掛けようと口を開いたが、あるものに気付いて言葉を失った。それは右腕だった。正確には、本来ならブラウスの中にある筈の腕が通ってなく、ふらふらと袖が揺れている状態。
    所謂、欠損だった。
    ディックの開きかけた口と視線に気付いたのか、ちらりと右を向きながら苦笑を浮かべこう言った。

    「あぁこれ?うーん…ま、色々あってさ」

    一体何があったのかすぐにでも聞き出したかったが、当初の目的を思い出す。トムも仕事に行く途中だったらしく、いつか一緒に酒でも飲もう、と約束を取り付けこの時は別れた。失くなっていた右腕に対する逸る気持ちを抑えながら─
    そしてこの日から数えてトムと再び会ったのは、ほんの数日過ぎた頃だった。ここから経由する一番近い町が一部の集団による暴動で、とても入れる状況ではないという情報を耳にし、仕方無くもうしばらくこの町に滞在することとなった。限られた状況で少しでも出来ることをしようと、同業者達との情報交換や商売に関するやり取りを行っていた。
    この日は民宿の部屋に籠り、ベッドに腰掛け幾枚もの羊皮紙とにらめっこのように見つめた後、腕を天井に伸ばしそのまま仰向けに身体を倒し、手に持っていた羊皮紙を離した。羊皮紙はパラリと音を立てて沿うようにベッドの上へと落ちていく。目頭を押さえ目を瞑り身体を休め、しばらくの間そのままの体勢のまま動かなかった。数分程経つと、目頭から親指と人差し指を離し、突然思い立ったかのように腕に力を入れ上半身を起こした。

    (何処かの店で適当に食べるか…)

    小腹が空いたのを感じ、腹を一撫でしてドアに向かい、ノブを掴み開けて部屋を出る。近場の小さなレストランへ向かおうと道なりに足を進めると、向かいから見覚えのある金髪の青年が歩いてくるのが見えた。ディックははっと足を止め目を見開き、その青年の所へと早足で駆けていった。

    「トム!」

    前から名前を呼ばれて、青年が視線を此方に向け少し驚いたようにディックの名を呟いたのを聞き、自然と口元を緩める。数日前の約束を思い出し、もし時間が空いてるなら一緒にご飯を食べに行かないか─あの時はお酒と言ったが─と誘ってみた。
    ディックの提案に、トムは目を輝かせ─たように見えたのは錯覚だろうか─こくりと頷いた。

    ディックとトムは、最初に行こうとしていた民宿から一番近いレストランへと歩いて中に入る。トムもここで食事をしようとしていたらしく、これはまたと無い機会だと心の中で拳を握った。
    空いているテーブルに座り、料理を注文して少し待っている間他愛のない話をしていると、程なくして料理が運ばれてきた。食器を手に取り、料理を口に入れながらどちらかとも無く口を開いた。あの冒険を終えて別れた後、どんな事をしていたかを話し、そして聞いていった。
    ディックは私立の中学・高校へ通い卒業後、北部の大学へ進学し商学を専攻した。卒業後は本格的に家業を継ぐ為に周辺の町や村へと訪れている。今携わっている仕事もその1つであると話した。大まかに一通り話すと、手放しにという程大袈裟ではないがディックは凄いなぁ、とトムは輝いた目をディックに向けながら言った。真っ直ぐな目線と純粋無垢な表情を向けられ、照れ臭いようなむず痒いような、そんな気持ちに駆られた。それをかき消すかのように、ディックはトムに話を促した。
    トムの話はこうだった。高校には通っていたが、17歳になった頃に親代わりとして面倒を見てくれていた叔母のポリーが倒れてしまったらしい。叔母の娘─従姉妹─のメアリはその数年前に結婚して家を出ており、他に面倒を見る人間がいなかったとのこと。トムの弟シッドは、代々学者の家系である裕福な家に養子として引き取られていた。そうなると、実質トムしか面倒を見れる人間が存在しないため、とてもでは無いが学業どころではなくなってしまい、高校を辞める他なくなってしまった。その後は、叔母の介護をしながら働きに出ていた。従姉妹のメアリもこの事を聞き付け介護に来てくれていたが、まだ物事の付いていない小さな我が子の育児もあり、その上村から遠い場所だったため毎日というわけにはいかなかった。
    トムが一旦息を付く。叔母は元気になったのか、と聞いてみる。するとトムは一瞬表情を曇らせ、苦笑を浮かべ躊躇いがちにこう言った。

    「亡くなったんだ、1年前に」

    一時期は回復したらしいが、新たに病気にかかってしまい診断した時には既に悪化しっており、手の施しようがない状態となっていた。治療も空しく、自室のベッドで静かに息を引き取った。
    葬儀は親族と村の親しい人々だけでしめやかに執り行われた。物心が付く前からずっと育ってきた家は、家主がいなくなり遂にはトム1人になってしまった。
    じゃあ今もそこに住んでいるのか、と聞いてみる。するとトムは憂いの表情を浮かべながら、あの家は引き払ってこの町に移り住んでいると言った。
    トムはそこでもう一度息を付く。互いの状況をそこそこ聞けたことで、ディックはずっと聞きたかったことを一息置き思い切って言った。

    「その腕は、どうしたの…?」

    声の震えを抑え、恐る恐る右人差し指で本来そこにある筈の右腕を指す。
    トムは自らの右腕の方に目を向け、儚げな笑みを浮かべて言った。
    少し前まで、この町では反奴隷制度を掲げる集団と奴隷制度擁護派との対立があったらしい。対立自体は越してくるずっと前からあったそうだが、遂に修復出来ない程の亀裂が生じた。銃乱射やダイナマイトによる爆発が起こり、住民をも巻き込むまでの大規模な暴力的衝突が発生したのだという。丁度その時、トムは運悪く爆発に巻き込まれてしまい、右腕を失ってしまった。
    理由を話したトムを、ディックは黙って見つめた。正確には、どう声を掛けていいのか分からず上手く口を開けないという状態だった。
    最近になり、ここミズーリ州の町でそうした衝突が頻繁に起こっていることは知っていた。ここに来る前に訪れた町の新聞にも連日一面を独占しており、知らない者はいないほどだ。
    だが、実際にこの目で事件を見ていないとはいえ、こうして目の前にその被害に遭った人間─その上それが自分の友人なのだから尚更─を目の当たりにすると、嫌でも真実なのだということを思い知らされた。



    朝食を食べ終え、水の入ったグラスを手に取りこくりと一口飲む。ふぅ、と息を吐いて前を見ると、トムがスプーンで牛肉を掬い最後の一口を入れたところだった。
    ディックは椅子から立ち上がり、空になった器を持ち洗い場へと歩きそこへ置いた。後ろから椅子を短く引き摺る音がきこえ、トムが後に続くように空の器を置く。
    馳走してくれた礼を述べ、ディックは仕事へ行こうとドアへと足を進めた。

    「あっ!ちょっと待って」

    後ろからトムに呼び止められ振り向くと、蓋付きのバスケットを差し出された。サイズとしては、かつて学校に通っていた時に毎日持って行ってた─弁当を入れていたそれとよく似ている。

    「いつも手伝ってくれてるからさ。そのお礼」

    ニカッと白い歯を出し笑みを浮かべるトムから、ディックは差し出されたバスケットを受け取った。突然のことで咄嗟に頭が回らなかったが、そのまま動かないでいるとトムにぐいぐいと背中を押された。

    「ほら、仕事あるんだろ?早く行かないと」

    玄関ドアの場所まで押され、ディックはドアノブを掴み開けた。外に出て数メートルほど歩いて後ろを振り向くと、玄関から屈託の無い笑みを浮かべて左腕を上げ手の平を左右に振るトムの姿があった。



    取引先との談話を終えた時には、時刻は正午になっていた。午後に備え何処かで休憩しようと考え、ディックは町外れの森へと向かった。
    森の中にある川沿いまで歩き、傍らの木を背に腰を下ろす。そして手に持っていた、今朝トムに渡されたバスケットを見下ろした。
    トムの家を出た後、数歩進んでは中身が気になって開けて覗いてみようとは思っていたものの、楽しみは取っておきたい。その思いで開けたいのを堪え我慢していた。
    バスケットの留め具を上げ、蓋を開ける。中身は、ディックの手の平ほどの大きさの、野菜とハムを挟んだサンドイッチが二切れ入っていた。ディックは見た目は何処にでもあるようなそれを手に取り、一口齧った。
    パン本来の風味と旨み、みずみずしいレタスのシャキシャキとした食感、程良い塩味をきかせた柔らかなハム。そのどれもがディックの舌を満足させるものだった。薄らと雲が漂う青い空を見上げ、穏やかに流れる川のせせらぎに耳を澄ませながらもう一口サンドイッチを齧り、ゆっくりと噛み締めていく。朝食作りと並行してせっせと用意するトムの姿を想像し目と口元が綻んだ。

    (また、作ってくれるかな)

    あと一切れのサンドイッチが入っているバスケットを見つめ、空のバスケットを受け取って笑みを浮かべるトムを想像しながら、手に持っている最後の一口を口に放り込んだ。
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    嗟弓@ A29393221

    DONEアテンション
    BLオリジナルストーリー 異世界現代風 小説参考キャラビジュイラストあり
    他サイトに掲載済み
    ね、見て綺麗かつては人間が支配していた青い星。その支配はある日を境に変わってしまった。人間以外の動物が人間と同等の知を持ち、四足歩行を突如として始めたのだ。動物上分類で、自らと種類が異なると相手を他種族と呼び、逆もそう呼んだ。人間の築いた文化は崩れ、元々飼われていた動物の文化と混ざり、新しいものとなった。そこで起きた社会問題についてこの本では解く。
    1〜
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    もし、仮に他種族と体を重ね産まれてくる子がいるのなら。その子はまず死に至る。有名かつ常識的な話。自らの持つ種族遺伝子とパートナーの持つ種族遺伝子が別である…つまり他種族同士場合。その遺伝子同士は決して結び付くことはない。ゲイやレズ…同性同士では子が孕めないことに似ている。ところが、それらと違うのは腹を大きくできるところだ。しかし残念ながら、腹を痛めて産む子は生物ならざる姿、形で産まれる。そして半日もすれば死に絶える。肺も、エラもなく心臓どころか、脳も骨もない体で産まれ息もできず死ぬ。
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    片栗粉

    DONEうちの子(侍)×うちの子(詩人)のBLです。すけべにいたりそうな雰囲気です。キャラ設定はこちらをご覧ください→https://poipiku.com/8793653/9349731.html
    雨とセンチメンタル 雨は時々、自分を感傷的にさせる。黒衣森は雨が降っていることが多く、必然的に雨の日には嫌な思い出が付きまとう。
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     口にくわえた煙草を吸い、細くゆっくりと紫煙を吐き出す。ユリウスは普段であれば煙草を吸わないが、時々こうして感傷に浸る際に1人で嗜む。冒険稼業の合間に各地で集めた煙草をひとつひとつケースに収めて持ち歩いている。今日のは林檎の甘酸っぱいフレーバーだと店員から聞いていた。林檎の甘い香りと爽やかな酸味が口内に残る。
    2805