オーカイ.
「ああ……どうぞ」
気怠げで淡々とした声が傍でしたかと思うと、手が触れた。途端、相手の姿が現れる。たくさんの指輪が嵌められた手。その手は大きかった。
「おはよう、カイン」
楽しげな声と、微かに消毒液の匂いがした。そのまま温かな手が軽く触れる。現れたのは愛想の良い笑顔と、節くれ立った指。
「……ああ」
素っ気ない挨拶が返ってくる。見えなくても、強大な魔力の流れが分かる気がした。合わさった手は乾いていて、清潔に整えられた爪が見えた。
相手に触れないと見えないカインの一日は、こうして始まる。毎日のことなので皆慣れてしまって、誰も文句は言わない。それは有難くもあり、申し訳なくもあった。
普段、人と話すときに手に注視する者は稀だろう。こうして他の魔法使いたちの手に触れることにより、カインはいつの間にか相手の手を覚えてしまっていた。今のカインなら、手だけで誰か分かる。
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