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    YoiNaGi27

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    お題 「巽バースデー」
    6月のワンドロで書いた話を再あげ。
    登場人物は巽&月城&堂本の三人。

    #スタオケ
    #巽

    執事の休息「巽」
    「どうかされましたか?」

     雨が降りしきる六月の半ば。巽はいつものように慧の従者として雑務をこなしていた。書類を一通り片付け、少し休憩をと思っていたところ。巽は慧に呼び止められる。

    「ああ……明日はお前の誕生日だろう。演奏会も一通り終わったし、ゆっくりしたらどうだ」

     誕生日――そういえば、そうだったと巽は他人事のように思う。慧の側近として仕え、淡々と補佐に徹する。その日々が当たり前になってからは、自分の事など二の次だった。

     正直、自分の時間ができるという誘いはありがたいものだったが、休息を取る間は目の前の男に負担をかけてしまう、ということだ。そんな選択肢はない。

    「……いえ、構いません。グランツの練習は予定通り参加します」

     思いを隠し、巽はいつもの表情で応える。個人的な話はまた後でいい。自分は三年で、花響の学生として参加できるのはこれが最後なのだから。

     ――と思っていたのだが。意外なことに慧は首を縦に振らなかった。それどころか、椅子から立ち上がり、顔を強張らせて肩を掴んでくる。

    「休息を取れ。明日は俺がどうにかする」
    「承知しました」

     剣幕に押されてついそう言ってしまった。明日の予定など何も考えていないというのに。

    「……はぁ」

     休息など、いつぶりか。最近は選考会の雑務に追われて腰を据える暇もなかった。慧が練習に向かってというものの、何となく落ち着かない。

     前までは休暇を楽しんでいたはずだが、グランツの厳しさに慣れてしまったのか。それもまあ悪くないが、せっかく休暇が取れたのだからどこかに行きたいという思いもある。

     とりあえず、今日は弓を握ることも許されそうにない。帰って考える事にしよう。そう思い直し、巽は部屋を後にした。

    「……」

     翌日、巽はいつもの場所に立っていた。やはり落ち着かない。休暇だからゆっくり過ごせば良いというのに、自分があるべき場所を求めてしまう。

     視線を感じて振り返ってみると、ニタニタと笑みを浮かべた堂本大我が立っていた。いつも思うが、何がそんなに可笑しいのだろう。

    「おいおい、どうしちまったんだよそこで。鍵は開いてんだろ?」
    「……ええ、ですが今日私は休暇を取っていまして」
    「休暇ぁ? まあ、いいんじゃねぇか」

     堂本は訝しげにジロジロと見てくるが、掘った所で何も出す気はない。一瞥をくれてやると、彼はふぅとため息をついて視線を外す。

    「そういえばお前に宛に何やら隠していたぞ。随分とご機嫌だったな」
    「慧様が?」
    「ああ、いつも巽には世話になってるからって。案外可愛いところあるよなぁ」

     本人から手渡されたい気持ちはやまやまだったが、知ってしまったものは仕方ない。湧き上がる好奇心に屈し、堂本に在処を聞き出す。

    「ここだ」

     赤色のリボンをほどき、蓋を開けてみれば、紅茶のセットと菓子が詰められている。菓子を一つ一つ取り出し、眺めていると、硬質な靴音ともに主が姿を現した。慧はしばらく呆けていたが、はっとして巽の元まで走ってくる。

    「開けたのか……なぜ、来ているんだ。今日は休暇だと言ったはず」

     驚いたのか、瞳孔が開き、言葉は震えている。その様子に思わず笑いがこみ上げて、巽は口を覆った。

    「……慧様。すみません。休暇を取ろうと思ったのですがやはり来てしまいました。ああ、チェロは今日は手にしておりませんので」
    「いつも俺には休め、身体を大事にしろと言うくせに……はぁ、まあ開けたのなら隠すこともない。誕生日おめでとう」
    「ありがとうございます」
    「おっ、巽が笑った。レアだな」
    「笑うことぐらいあります」

     堂本の言葉にツッコミを入れ、巽はプレゼントの紅茶と菓子を取り出す。

    「良ければ、お茶にしませんか」
    「それはお前宛のプレゼントなんだが……」
    「私へのプレゼントは、この休暇――ひととき、ということでお願いします」
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