【長月】 照りつける陽射しはまだ暑く秋なんて名ばかりで、じっとりと汗をかけば手が滑る。僅かに気が逸れたと自覚する前に、左肩に受けた打撃を流しきれずに不様に転がった。
「ちっいっ」
「重心は下げて。瞬発力を鍛えた方が堅実だね」
淡々とわかりきった事を告げる様子に、嘲りや侮蔑は入らず、事実だけを伝える。力の差が歴然といる私にもそれだけはわかった。大丈夫かよ、と心配そうな表情で近付いてきたパンダに、ひらりと手を振って大事ないことを合図した。
「そう簡単には」
「そうだろうね。積み重ねの鍛練だし。筋トレも大切だけど、体幹を鍛えた方がいいかな」
強かにうった腰を擦りながら起き上がると、離れて見ていた悟が近づいてきた。木陰から出た途端、きらきらと髪が光を集めて反射して眩しいぐらいだ。見た目も特級なだけある。
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