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    三日月

    @s_mikaduki
    腐海に片足突っ込んでるアニオタな文字書き。
    今はまほやくのブラネロが沼ってる。

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    三日月

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    支部で連載しているネロだけ転生したブラネロ♀の作中三日目の朝の話。
    本文の日数を変更したためダイジェストにしてしまった部分の供養です。
    (ブラッドリーは出てきません)

    ##リコリスの欠片

    リコリスの欠片5.0 クロエにもらったエプロンは、ベースの紺色の布地に白の布地でポケットが付いていた。紺の布の角には金の糸で刺繍がされていたり、ポケットの布には赤と金の線が入っていて、シンプルだけどおしゃれなデザインだ。エプロンのほうを汚さないように気をつけてしまうと言ったら、クロエはどんな反応をするだろうか。
     合コンの翌朝、そんなことを考えながら朝食の用意を始めると、リケとヒースクリフの他にミチルもやってきて手伝ってくれた。なんでもカナリアやダヴがいないときや人数の少ないときは、彼らが中心になってご飯の用意をしていたらしい。今日はカナリア母娘はお昼から来てくれることになっているので助かった。
    「昔、料理をきちんと作れるようになりたいと言ったら、ネロ……昨日お話しした料理人の魔法使いが、レシピを書いて贈ってくれたのです」
     今はそれをもとにして作っているのですよ、と、宝箱をそっと開くようにリケは微笑んだ。賢者の書を読んだときにも伝わってきたが、リケは本当にネロと、ネロの料理が好きだったのだろう。
    「あの、」
     思い切って口を開く。昨日の夜から、考えていたことがあった。
    「その、ネロのレシピ……私にも、読ませてもらえませんか」
     しばらくはこの世界にいることになる。ならば、この世界の料理を覚えなければ、彼らの満足いく品を提供することはできないだろう。昨夜のように魔法の道具に頼ることもできるけれど、料理人を目指すなら、知らない料理を一から学ぶのは為になるはずだ。賢者の書に書いてあるレシピは元の世界のものと似通っているものも多いが、なにせ材料が違う。本物の料理人の書いたレシピは役に立つはず。料理が似ていると言われた人のレシピなら、自分の目指すべきものにもなるだろうし。
     それに、何か没頭できるものが欲しかった。あの夢は、思い出すだけで身体の中を血潮のように駆け巡って、消えない痛みを刻みつけていく。そう錯覚してしまう。料理でもしていなければ、自分を保っていられない気がした。
    「喜んでお見せします……と言いたいところですが、それにはひとつ問題があります」
    「問題?」
     わざとらしいくらいの真顔に首をかしげる。嫌なわけではないのは伝わってくる。もしかして、リケにしか読めないとか、そういうレシピ本なのだろうか。
    「レシピ本は、こちらの世界の言葉で書かれています。ですからまずはこちらの言葉を覚えなければ、賢者様にはレシピが読めませんよ」
    「…………あ」
     至極当然のことだった。話すことには不自由しないから頭から抜け落ちていたが、ここは異世界だから言語が違う。つまり文字は読めない。計画は、最初の段階で躓いてしまった。
    「ですが、落ち込むことはありません。分からないことは教わればいいのですから。……私で良ければ、この世界の言葉、お教えします」
    「い、いえ、そこまでしてもらうのは、悪いですし。リケもお仕事があって忙しいんでしょう?」
    「それなら、僕も一緒にお教えしますよ」
     ミチルが盛り付けをしながら笑いかけた。
    「南は新しい魔法使いが来るでしょう?だからしばらくは魔法舎に残って、お互いのことを知ったり、連携を深めようって話していたんです。魔法舎に滞在するのは本当は東の国が最初の受け持ちですけど、代わってもらって。
     兄様も、きっと喜んで教えてくれますよ」
    「う……そ、そう、ですか……」
     思わず顔が引きつる。申し出はありがたいが、正直勉強は得意ではない。その中でも一番の苦手科目が英語なのだ。レシピ研究に役立つからとフランス語も少しだけ覚えなければいけない状態で頭がパンクしそうになっていたのに、これ以上覚えられるだろうか。
    「ネロのレシピを読むだけなら、俺達が読み上げればいいかもしれません。でも賢者様は、こちらの世界の料理を覚えたいと思って下さっているんですよね?
     でしたら最初にきちんと言葉を覚えてしまったほうが、他の人のレシピ本も読めるようになって役立つと思います。よければ、俺にも協力させてください」
    「おっしゃる通りです……」
     ヒースクリフに思っていたことをそのまま言われてしまっては、観念するしかないのだろう。レシピ本を手に入れるたびに誰かに読んでもらうほうが、よほど彼らに迷惑をかけてしまう。
    「もちろん、嫌なら嫌でかまいません。先ほどヒースクリフが言ったように読み上げることもできますし、何か他の方法を探せばいいのですから」
    「……いえ。覚えます。ご指導よろしくお願いします……」
    「「「はい、喜んで!」」」
     料理のためだったら、頑張れる気がする。心の中でそう唱えながら、彼らの満面の笑みを受け止める。
     ここまでしてもらうほどの価値が自分にあるとは、やっぱり思えないけど。それでも、自分の料理を食べて誰かが笑顔になれるなら、やるだけやりたいというのも、本当のことで。
     実を言うとレシピ本ですぐにでも確認したいことがあったのだが、それは諦めるほかなさそうだ。

    (後略)
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