忘れ鏡のフーイル 56~65 五十六
自分の名前が騎士物語の魔女と同じ名前だと言うことを少女は知っていた。そして、自分にも『魔法』が使えることも少女は知っていた。
魔法が使えることは友達には言っていないし、何でも話せる育ての親にも言っていない。魔法の力というものは秘密にしておかなくてはならないのだと少女は直感的に知っていたのである。それに、秘密のほうがなんだからしい気がする。少女の魔法は、箒に跨がって空を飛んだり、杖の先から火を出したり、ものを浮かせたり、変身させるような派手な魔法ではない。少々地味で、ちょっぴり便利な鏡の魔法だった。
春が近づく三月――モルガナは十一歳になっていた。
中学校の授業が終わり、いつものように同級生達と別れると、モルガナは一路帰宅の途につく。高級住宅地を抜け、丘を登るとフーゴと住む一軒家だ。門の横のレモンの木が目印である。門を抜け、前庭を通り、玄関のドアを開ける。
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