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    shimotukeno

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    生き残りゾォのフーイルの続き 2章おわりだけどざっくりだからあんまり整えてないし雑

    フーイルの続き 往診してきた医者が、のこのこ歩き回るイルーゾォの様子を見てあきれ果てて帰って行ったのを見送ると、もう昼食の時間になっていた。
     二人暮らしには大きすぎるキッチンからはいい匂いが漂ってくる。診察した医者は頭を抱えながらも、術後食のような食事を摂ることを許可してくれたので、空きっ腹を抱えていたイルーゾォはほっとしたのだった。
    「今はうすいブイヨンスープ(ブロード)で我慢してください。そのうち、なんでも食べられるようになりますよ」
     うすいスープを差し出しながら、フーゴはやけに嬉しそうに微笑んだ。飲んでみれば、塩気もほとんどない薄いスープだが、体中に染み渡っていくように美味しく感じられる。
    「……美味いな……料理するんだ、お前」
    「近くにリストランテもありませんし、あなたを置いて遠くに出かけるわけにもいきませんし。食材を買いだめて自分で作るしかありませんでしたから。大変でしたよ、最初は全然うまくいかなくて。生煮えだし、焦がすし、切れてないし」
     フーゴが肩をすくめる。彼は今でこそギャングの一員だが、もとは裕福な家の子息だ。生家でも、ギャングになってからも料理する機会はなかったのだろう。
     先ほどテキパキと料理してみせたフーゴが、最初はキッチンで右往左往していたのかと思うと面白くて、イルーゾォはうっかり口元を緩ませた。
     二十分後、食事を終えたイルーゾォはフーゴと共に自室に戻る。自室といっても傍らでフーゴが仕事をしていた部屋でもあるのでフーゴの仕事部屋でもある。
    「これからは隣の部屋で仕事してますから……何かあれば呼んでください」
     フーゴは机の上の荷物をまとめると、すぐ近くの寝室に運んでいった。
     イルーゾォは改めて部屋を見回す。屋敷自体はかなり古い。家具はどれも高そうなアンティークで、前の持ち主のものがそのまま残されているようだ。恐らく、もとはこの辺の領主の屋敷か、貴族が使用人を引き連れて訪れる別荘だったのだろう。田舎とはいえ、決して安い買い物ではなかったはずだ。汚い金を洗浄するのに不動産を購入するのは常套手段とはいえ、暗殺任務への報酬をケチってこんな屋敷を買っていたのかと思うと舌打ちもしたくなる。この屋敷現物報酬でもチームはそこそこ満足したかもしれない。
     部屋の一角にある、最新式のオーディオ機器に目がとまる。そばにはCDが山のように積み重なっているが、ジャンルはまるでまとまりがなく、雑多そのものである。そういえば、と目が覚めたとき音楽がかかっていたのをイルーゾォは思い出していた。
    「ああ、すみません、すぐ片付けますから」
     CDの山を物色しているところに、フーゴが残りの荷物を取りに戻ってきた。
    「このCD、お前の趣味か?」
    「いえ……あなたの目を覚ます助けにならないかとかけていたんです。思い入れのある音楽で目を覚ます例はいくつかありますから」フーゴは腰を下ろし、昨晩かけていたCDのケースをイルーゾォに手渡した。「そういえばこのCD、何か思い入れでも? あなたが目を覚ました時にかけていたものですが」
     イルーゾォは首をかしげながらケースの両面を確認するが、歌手にも曲名にもこれといって心当たりはなかった。
    「さあ。どっかで聴いただけじゃねえかな。どれがかかってたかもよくわかんねえし」
    「聴いてみますか」
     フーゴは選曲し、再生ボタンを押す。印象的なクラリネットのメロディが流れても、イルーゾォはぴんとこない様子だったが、曲が盛り上がるにつれて、柘榴石の目に光が満ちていった。
    「リーダー、だ……」
    「リゾット・ネエロに関係が?」
    「俺はリーダーに拾われたんだ。スラムの生まれ育ちだったが……マン・イン・ザ・ミラーのおかげであまり苦労しなかった。でも、侵入した家で仕事を終えたリーダーと鉢合わせたんだ。音楽好きの家主で、オーディオルームから爆音でクラシックが流れてたんで気配に気づけなくって――」
    「それは大変」
     突然熱っぽく語り始めたイルーゾォに、フーゴはとりあえず相づちを打った。
    「能力を使って逃げようと思ったが、敵わなかった。でも、能力を見込まれて、ここで死ぬか、暗殺者として一緒に来るか選べって……その時流れてた曲だ!」
     イルーゾォは目を輝かせて語った。ポンペイで戦ったときの高慢な顔からは想像がつかないが、彼は心の底からリゾットを慕っていたらしい。彼だけではない。きっとチーム全員が、リゾットを中心として結束していたのだ。フーゴはそう思った。
    「ああ、でも……」イルーゾォの瞳から、光が一つまた一つ消えて行く。夢から覚めていくように。「暗殺者として生きるのは、今ここで死ぬより辛いかもしれない、とも言われたな……リーダーの言うとおりになっちまった……」
     イルーゾォは瘢痕を撫で、力なく笑った。
    「後悔、してるんですか。暗殺者となったことを」
    「まさかだろ」フーゴの問いかけに、イルーゾォはむっとして答える。「無敵だと思っていた俺をこてんぱんに負かした人に認められ、誘われる。男としてこんな光栄があるか? そりゃ、目的を果たす前にみんな死んじまったのは悔やまれるよ。悔しいさ! だがチームで立ち上がったこと自体を後悔しちゃいねえし、ましてリーダーについていったことを悔やむはずはねえ!」
     拳を振るって熱弁していたイルーゾォははっと我に返って口を押さえる。
    「喋りすぎた……か?」
    「ふふ、そうかもしれません。あなた方が、リーダー・リゾットを心底信頼していたことは伝わりました。……だからあなた方は、最後の一人になろうとも、戦いを挑み続けた」フーゴは急にしんみりとした、もの悲しげな顔になる。「……うらやましいな」
    「まるで、お前らはそうならなかったみたいな口ぶりだな」
     イルーゾォが口を挟む。フーゴは自らをさげすむように、冷たい声で言った。
    「僕が、です。ブチャラティがボスを裏切ったとき、僕は彼らについていかなかった。戦いに背を向けて、チームを離れたんですよ。僕一人だけがね」
    「それでか」イルーゾォは得心がいったように声を上げた。「妙だと思ってたんだ。なんでお前みたいな優秀なやつが、俺なんかの看病のためにこんな田舎に住み込んでるのかってな。だいたい、生かし続けるなら病院にぶち込んどきゃいい話だ。よほどの事情がなきゃあ、お前みたいなのをこんな田舎に遣るなんてただのバカかマヌケだろ」
    「え、あ、そ……そうですか……」
     突然褒められたような形になって、フーゴは頬をほんのり赤く染めた。
    「ほんの数日でした。ほんの数日、街をさまよっている間にすべて終わったんです。ジョルノの勝利でね。彼らも無傷とは行かず、アバッキオ、ナランチャ、そしてブチャラティを失いましたが。そして僕は卑怯者で、臆病者で、薄情者になっただけでした」
     フーゴはブチャラティらの死という重大な情報をさらりとこぼしていったが、イルーゾォは口を挟まず、黙って頷いた。
    「ネアポリスを出て、どこか遠い街でひっそり生きていこうと思ったんですけど、出発する時にジョルノ達に見つかって、戻ってこないかと誘われたんですよ」
    「なんだよ」イルーゾォは脱力した声で言った。「ボス直々のお出迎えじゃあねーか」
    「でも、僕なんかがノコノコみんなの輪に入っていったら、今度はジョルノの評判が下がります。今は地固めをしなくちゃあいけないのに。だからしばらく遠くにいさせてほしいと頼んだんです。それならばと与えられたのがこの任務。あなたを看病し、証言を得ることだったんです」
     フーゴは窓の傍まで歩いて行き、外を眺める。周囲は野原や農園が広がっていて、人家はおろか道路も遠い。舗装されていない道が伸びているだけである。
    「この田舎なら、人も少ないし見晴らしがいい。太陽の光が燦々と降り注ぐいい環境です。万が一親ディアボロ派の構成員とスタンドを使っての戦闘になっても、周辺住民に危害が及ぶことはないでしょうから」
     イルーゾォはフーゴの寂しげな背を眺めながら、この屋敷が選ばれたのはそれ以外の理由もありそうな気がしてきた。
    「そうか……。俺の方が根掘り葉掘……」イルーゾォは一瞬言いよどむ。「いや深掘りしちまったようだな」
     フーゴはイルーゾォの方に振り返って首を振る。
    「いえ。僕からも話していかないと、フェアじゃあないでしょう?」
     イルーゾォはフーゴを見つめる。自らの瞳に、フーゴだけを映し込もうとするかのようにじっと見つめた。
     一分ほどしてから、イルーゾォは絞り出すように口を開く。
    「なあ、フーゴ」
    「はい」
    「みんながどう戦い、死んでいったか……教えちゃくれねえか」
    「ええ、もちろんです」
     
     二時を過ぎる頃、フーゴは食材を買いに出かけていった。イルーゾォはすっかり手持ち無沙汰なので、屋敷内を掃除し始めた。フーゴは自分がやるから、と言うが、体を動かせるのに一方的に面倒を見てもらうだけ(しかも年下に)というのは精神衛生上あまりよくない。
     掃除機をかけていると、ゴーという運転音に混じってフーゴのものとは違う車のエンジン音が聞こえ、イルーゾォはとっさに体を壁にぴったりくっつけ窓の隙間から外の様子をうかがった。いかにも高級そうな車で、業者とか営業ではなさそうである。よく見れば運転席と後部座席に一人。それなりに立場のある人間らしい。
      車から二人の男が降りてきた。後部座席から下りてきた金髪の男には見覚えがある。
    「ジョルノ・ジョバァーナか……」
     もう一人の帽子の男は拳銃使いのグイード・ミスタであろう。
     それにしても間が悪い。フーゴが出かけてから十分も経っていない。戻ってくるのは当分先だ。ジョルノらに気を利かせてやる義理もないので居留守でも決め込もうかと思った矢先のことだった。
    「チャオ! 久しぶりですね、イルーゾォ。少し、お話ししませんか?」
     ジョルノはイルーゾォが見ている窓に向かって呼びかけた。初めからそこにいるのがわかっているかのように。まるで親しい友人にするように呼びかけられ、イルーゾォは面食らった。そっちは久しぶりでも、こっちは昨日か一昨日ぶりくらいの感覚だがなと毒づきながら、階下へ下りる。
     ジョルノ達はひとかけらの遠慮もなく屋敷に上がり込んできた。改めて見るジョルノは、あの戦いからせいぜい半年しか経っていないというのに、まるでずっと組織の頂点に君臨していたかのような風格を醸していた。天与のカリスマ性とでもいうのだろうか。彼はボスになるべくしてなり、自分たち暗殺チームは彼の栄達の道、その途上の敵――RPGの中ボスか何かであったような、初めから勝利と栄光をつかむのは彼で、打ち倒されるべき存在と定められていたかのような印象を受ける。――だからこそ気に入らない。
     二人を客間に通し、茶を出しながら用件を聞く。
    「フーゴは出かけたばっかりだぜ」
    「ええ。わかってます。経過観察を兼ねてあなたと話でもしようかと。体調はどうでしょう? もう食べられるんですか?」
    「おかげで体調はいい。気分は最悪だがな」
     イルーゾォは吐き捨てるように答えた。別に仲間達を始末したことに対してとやかく言うつもりはないが、友好的に接する気もさらさらない。そもそも、死に損なう羽目になった張本人である。
    「元気ってことですね」
     反抗的な態度を隠そうともしないイルーゾォにピリつくミスタをよそに、ジョルノは微笑んだ。
    「ところで、これを見てください」
     ジョルノは黒っぽい塊を取り出し、床に置いた。
     亀。生きた亀である。
    「亀? 変な模様……いや、この形、」
     亀の甲羅には奇妙な模様がある。だが、よく見ると単なる模様ではなく、実際にくぼんでいて鍵がはめ込まれている。その鍵がポンペイで奪い合った鍵だと気付いたときには、見知らぬ部屋に瞬間移動していた。
    「えっ……」
     ソファやローテーブル、クローゼットや小型冷蔵庫、テレビまである。ドアはない。天井は温室のドームのようになっている。幻覚の類いではなさそうだ。天井からは、元いた部屋の天井が見える。すると、天井いっぱいに巨大化したジョルノの顔がぬうっと現れた。否、自分が小さくなっているのだ。この手の悪戯は食らったことがある。
    「驚いたでしょう。あの鍵は、このスタンド使いの亀に使うものだったんですよ」
     そう言うと、ジョルノも部屋の中に入ってきた。
    「ちょっとここで話をさせてもらいますが、いいですよね、ポルナレフさん?」
     ジョルノがクローゼットに向かって呼びかけると、クローゼットからは男性の声で「構わないぜ」と返事があった。
    「亀も喋るのか……」
    「いえ。彼はポルナレフさんです。ディアボロに倒されてしまったんですが、幽霊として亀の中に住んでいるんです。ディアボロとの戦いの時はサポートしていただきましたし、現在は相談相手になってもらっているんです。今は気を遣って、クローゼットの中にいるようですが。彼もスゴ腕のスタンド使いで、武勇伝もすごいんですよ。今度直接聞いてみてください」
     クローゼットからは「よせやい」と照れの混じった声がした。
    「亀に幽霊……なんでもありかよ」
     イルーゾォはあきれ顔でソファにもたれた。ジョルノも腰掛け、前のめりになって口を開く。
    「さて、あなたに頼みたいことが」
    「いやだね」
    「最後まで聞いてからにしませんか。別に、暗殺を頼もうってわけじゃあないですよ。フーゴのことです。彼のことを見ていてほしいんです」
    「スパイってことか? 人選ミスだな」
    「何度も同じことを言わせないでほしいんですけどね……」さすがのジョルノも眉をひそめた。「当分の間、フーゴのもとに留まっていてほしいんです。二人で何しようがどんな話をしようが、報告は必要ありません。……彼の話はもう聞きましたか?」
     話、というのはフーゴがチームを離れたことについてだろう。
    「正直すぎるぐらいに話してくれたぜ」
    「ええ。誰より一番、彼自身が彼のことを許していないんです。その燻りは、きっと同じチームだった僕らでは消すことが出来ない。でも僕らは、フーゴと一緒に組織を作りたいんです。心置きなく、戻ってきてほしい」
     イルーゾォはフーゴの、自分自身をさげすむような態度を思い出していた。なまじ頭がいい上に真面目だと、色々と考えすぎてしまうのだろう。イルーゾォとしても、フーゴは中枢にいるべきだと考えている。類い希な知性の持ち主である彼が、いつまでも燻っているのはもったいない。能力は使ってこそ輝く。頼られているのなら、なおさら応えるべきなのだ。
     ただ、ジョルノの言い分は理解できるとしても、解決策が有効なのかはよくわからなかった。
    「……俺にどうにかできると思ってんのか?」
    「ええ、フーゴはあなたのことが好きですから」
     ジョルノの翠玉の瞳がまっすぐイルーゾォをとらえる。冗談でも冷やかしでもなく、至極真面目なまなざしでとんちきな台詞を吐くのでイルーゾォは一瞬あっけにとられる。
    「そ……それは……あれだよ。ナイチンゲール効果ってのにハマってんだよ。俺が完全に回復して、面倒見なくて済むようになったら消えるやつ。そのうち治っちまうぜ?」
    「本当にそう思ってますか?」
     清流のように澄みきった目で尋ねられる。天の御使いか何かが、下界の人間を見定めようとするような目つきに思えて、居心地の悪さを覚えた。フーゴのあれは錯覚だ、と確かにイルーゾォは考えているのだが、頭の片隅では錯覚だと思い込みたいだけじゃあないのか、と主張する自分もいるのだ。ジョルノの目は、片隅の小さい冷静な自分に語りかけているようであった。
    「ぎ……逆にそう思い込まなきゃやってられねえだろ。死に損ないの看病なんかよォ」
     目をそらしながら言うと、ジョルノは一瞬困ったように微笑んだ。
    「ま……その点に関してはともかく、どうでしょう? お願いできますか?」
    「フーゴのそれが治るまでは、死ぬつもりはないからな。……だが、お前は一体何がしたいんだ? そこまで読んで俺を生かしたってわけじゃないよな? なんだって俺だけ死に損なう羽目になったんだ……」
    「僕は初めから組織を乗っ取るつもりで入ったので。暗殺チームのあなたの命が繋がっていれば、何かボスに対する布石になるかもしれないと思ったのです。ただ、あなたたちチームの動きが速すぎたし、ボスを倒したのもあなた方と戦った数日後のことで、とても接触する余裕はなかったんですが」
    「イカれた小僧だ」イルーゾォは嘆息する。ここまでくると感心しきりである。
    「よく言われます。それに今は組織のボスとして、あなたの話を聞きたい。あなた方がチームぐるみで裏切りに至った道筋を知ろうとするのは当然のことでしょう。あなたたちのスタンド能力はボスにも知られていなかった。他の構成員ならなおさらです。今もってあなた方のことは謎に包まれている……」
    「……アジトは?」
    「もちろんいきましたよ。しかし痕跡が抹消されていました。チームリーダー・リゾットはサルディニアに発つ前に一切を灰にしたようです」
     イルーゾォは唇の裏を噛む。リゾットがチームの痕跡を消したことについて驚きはない。きっとそうするだろうとは思っていた。一抹の寂しさが過っただけで。
     イルーゾォの様子を身慎重に伺っていたジョルノは重々しく口を開く。
    「僕たちも大切な仲間を喪いました。人は死んだら語ることは出来ません。生者が覚えている言葉と行動、人となり以外では。それだって愛憎で歪んでしまうことさえある。あなたと、あなたの中に残る彼らの話を聞かせてはもらえませんか。たったそれだけのためにと言われればそうかもしれません。でも、死んでしまえば永久に喪われてしまうのは確かです」
     重々しくも優しい声色にのせられて、ついその気になってしまう。人心掌握的な面からいえば、ディアボロよりもジョルノの方がよほど『悪魔的』と言える。
     優しい言葉にも、その裏に欺瞞や悪意があれば、鼻の利くやつや人の悪意に晒されてギャングに落ちたようなやつはすぐに感じ取って警戒するだろう。ジョルノにはさっぱりとしていて信じるに足るものがある。言葉にしたことは、必ず果たしてくれそうな誇り高さがある。彼にはあの若さにして裏社会の大人達を従わせるある種の才能のようなものがあるのだろう。それを一般的にカリスマ性と呼ぶのだろうが。
     恐怖で支配するよりある意味とてもタチが悪い気がする、とイルーゾォは思った。
     素直にジョルノの頼みを聞くのはシャクだが、かといって何も語らずにしばらく生きて死ぬだけというのも心残りだ。生き延びてしまったからには、自分たちが何を変えようとしたのかを知らしめよう。
    「フーゴに話すんで、構わないか」
     イルーゾォはぼそりと言った。
    「ええ。それがいいかと。フーゴはあなた以外と直接戦っていません。フラットに聞けるでしょうから」
    「それは初耳だな」
    「そうでしたか。フーゴらしい」ジョルノは目を細めた。「話は以上です。さ、出ましょうか」
     ジョルノは天井に吸い込まれるように消えていった。イルーゾォも天井に向かって手を伸ばす。一瞬浮遊感を味わった後、もとの客間に戻っていた。
     ジョルノはテーブルに封筒を置いていくと、「時々顔を出すから」と言って足早に帰って行った。イルーゾォも何事もなかったかのように掃除を再開する。人気のない広い屋敷では、一人であることが身に染みた。秋風に揺れる木々のざわめきが、妙に大きく聞こえた。
     アジトに戻ってももう誰もいない。それどころかアジトすらない。入念なリゾットのことである。メンバー個人の隠れ家も処分しているだろう。帰る場所は形も残っていなかった。
     リーダーは、復讐を遂げたらどうするつもりだったのだろう? 帰るべき場所も、仲間の痕跡もすべて失って、彼はどこへ往くつもりだったのだろう? 記憶に残るリゾットに語りかけても、何も答えてはくれなかった。
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