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    shimotukeno

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    shimotukeno

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    スワシーとかいう謎グホ べったーあまり使わなくなったのでこっちにもあげ

    チチスワ神話チチスワ記 昔むかしの話です。この世界には、三つの国がありました。地上の国、地下の国、そして天上の国です。地上の国は、人間や動物が住んでいる国です。地下の国は、地上の国で死んだ人びとが行く国で、暗く静かな国です。天上の国は地上からは見えないくらいにうんとうんと高いところにあって、五色に輝く翼を持つ人びとが暮らしている、常若の国です。
     そんな常若の天上の国には、天上の国を守る双頭の鷲がいて、右の頭をグレイグ、左の頭をホメロスといい、愚かな地上の国を空から監視して、天上の国に患い無きことを見守るのが役目でした。地上の人びとは愚かで醜く、彼らの国は争いに満ちていて、いつも天上の国の平穏を狙っていると言われていたのです。双頭の鷲は何千年も二頭揃って地上の国を見下ろしていました。互いに息を合わせて己の翼を羽ばたかせ、力強く空気を裂く二頭より速いものは、この空のどこにもありませんでした。
     地上の国は、目まぐるしく変化します。花が咲いたと思えば萎み、また別の花がどこかで咲きます。木々は緑から茶色、あるいは黄や赤に変色し、それも散ってやがて裸になり、。川の石は長い時をかけて削れ、波打ち際の頑強な岩だって砕けます。二頭は、変化に満ちた地上の国を遙かな空からいつも見ていました。かわいい子鹿が生まれ、老いて弱った虎が死んでいくのも見ました。愚かな地上の人間が、美しい恋をするのを見ました。醜い地上の人間が、大いなる愛を示すのを見ました。幾万幾百万の朝と夜を見下ろしても、同じ景色は一度としてありませんでした。
     一方で、天上の国は何千年も変化しません。天上の人びとは、変わらないことをよしとしていたのです。天上の国は常に薄明かりに包まれていて、そこには朝も夜もありません。野には常に花が咲き誇っていて、花の枯れる悲しみはありません。死んでいく命の嘆きもありません。枯野から萌え出ずる喜びはなく、生まれてくる生命の歓びもまたありませんでした。不変をよしとする人びとの国に、博くわけへだてない愛はあっても、燃え上がる恋はありません。そのため小鳥のうたも、天上の不変の美しさを讃えるものしかありません。天上の国で恋は認められないからです。恋ゆえに競い合い、傷つき、身を焦がし、ただでさえ短い命を恋によって魂を傷つける地上の人びとの、なんと愚かなることか! 天上の人びとはみなそう思っていました。
    しかし、双頭の鷲の片頭、ホメロスは地上の国に恋をしてしまったのです。


     いつものように地上の国を監視していたある時、ホメロスがグレイグに言うには、
    「もっと地上に近づいてみよう」
     グレイグは躊躇いました。天上の人びとから、地上には決して降り立ってはいけないと言われていたからです。しかしホメロスは続けざまに言います、
    「降り立たなければいいんだ。いつもより近くで見張るだけだ」
     けれど、グレイグはホメロスが地上の国をすっかり気に入っていることも、天上の人びとがそれに気づいていることも知っていました。
     グレイグだって、地上の国への興味がないわけではありません。しかしそれよりもグレイグは恐れていたのです。ホメロスが天上の人びとに咎められることで、ホメロスと離れ離れになりはしないかと。
    「叱られてしまうよ、ホメロス」
     その時、頭上からものすごい光が瞬いたのと同時に、グレイグはふっと体が軽くなるのを感じました。あまりにも強い光にグレイグはしばらく目を白黒させていましたが、頭のはっきりしたころに、となりにホメロスがいないことに気がつきました。グレイグは慌てふためいて、天上の国に戻っていきました。役目を途中で止めたのは、これが初めてのことです。
     グレイグは天上の国に戻ると、待ち受けていた人びとに、ホメロスがいなくなってしまったことを告げました。人びとが穏やかにほほ笑んで言うことには、
    「これであなたが悪しき誘い、穢らわしい考えに惑わされることがなくなりました」
     グレイグが驚いて言うことには、
    「ホメロスは私がいさめます。ホメロスはどこへいってしまったのです。ホメロスの翼がなければ、私は役目を果たせません」
    しかし、人びとはやはり穏やかにほほ笑んで、
    「あなたは今や立派な一羽の鷲ではないですか」
     グレイグは自分でも気づかないうちに、左の翼を自分のものとしていたのです。

     グレイグは両の翼をはばたかせて、それから何年も空からホメロスを探しました。自分からホメロスを奪い去ってしまった地上を睨みつけて、ホメロスを探し続けました。けれどホメロスは見つかりません。地上にはホメロスはいないようでした。そこでグレイグは考えました。

    (地上にいないのなら、きっと地下にいる。天上の人びとが口にもしない死と闇の国なら、ホメロスを見つけられるかもしれない。かつて地上にいた人びとも住んでいるのだ、一人くらいホメロスを知っていてもいいはずだ)
     
     グレイグは思い立って稲妻よりも速く急降下して、地上に降り立ちました。
     地上の国に降り立った瞬間、グレイグ達の一番の自慢だった翼からは羽根がすっかり抜け落ち、飛ぶことが出来なくなってしまいました。鋭い爪を持った力強い脚は何も掴めそうにない、不器用で貧弱な姿になっていました。嘴は消えて代わりに鼻が盛り上がり、つるつるとした肌でめたらやたらに背ばかりが高い、醜い地上の人びとそのものになってしまったのです。
     グレイグが天上を仰ぎ見ると、一筋の光が降りてきて遥か頭上で止まりました。光が言うことには
    「おお、グレイグ、一体どうしたと言うのです。あなたまで悪魔の誘いに乗ってしまったのですか」
     天上の人びとの声です。グレイグが答えて言うには、
    「やはりホメロスがいない私など考えられません。この数年間、ホメロスが恋しくてたまりませんでした。こんな私はもう天上の役目を果たせません」
    「恐ろしいことだ!」天上の声は嘆きます。「なんて恐ろしい! 今からお前は地上の生き物となった! お前は今さらヒトにはなれぬ! ヒトならざるヒトとしてお前は地上で死すべき命を生きるのだ!」

     グレイグは地上の国を探し回り、地下の国への入り口を一年がかりで見つけました。暗闇の坂道を下っていくと、亡者たちが現れました。グレイグが生者と知ると、亡者達は生き血を吸おうと群がってきましたが、みな弾き飛ばされてしまいます。天上から堕ちたひととはいえ、グレイグの力は地上の人びとものとは異なっていたのです。グレイグはホメロスの名を叫びながら地下の国を休みなく巡り、三ヶ月ほど経って、ようやく応える声がありました。懐かしい声が言うには、
    「お前はグレイグなのか」
     グレイグが喜び勇んで言うには、
    「いかにも、私はグレイグだ。天上の役目を辞めて、ホメロスを探しにきた。その声はホメロスだな。さあ、姿を見せてくれ」
     声は悲しげに呻いて言うには
    「ああ、私の身体はあの時燃え尽き地上に融けて、いまや声しか残っていないのだ。だからグレイグ、もう一人の私、我が同胞よ。地上に戻り、幸せに暮らせ。私の身体が融け込んだ地上の国で。風となって寄り添い、葉のさやめきとして話しかけられるだろうから。私は地下の国からお前を祝福しよう」
     グレイグは周囲を手で探り見回しましたが、どんなに近くで声が聞こえてもホメロスの姿を見つけることはできませんでした。グレイグは泣きながら地上に戻っていきました。

     それから何年も、グレイグは地上で泣きながら暮らしました。ホメロスを恋しく想う心は強くなるばかり。一日の大半をホメロスのことを考えて過ごしていました。
     そんなある夜のことです。
     いつものように、グレイグは泣きながら眠りにつき、未だ見ざるホメロスの地上の姿を夢の中でも思い描いていました。すると、夢の中のグレイグの前に、見たこともないひとりの美しいひとが現れました。長い金色の髪に、金色の瞳。抜けるような白い肌のそのひとは、まるで光をひとの形にしたようです。そのひとはグレイグに近づき、何か甘いものを口に含ませて祝福の言葉をかけました。
     それはよく知る声でした。懐かしい声でした。グレイグがうれし涙を流して言うには、
    「ああ、ホメロスよ、地上のお前にやっと会うことができた……」
     しかし、夢とは醒めるもので、楽しい夢ほどあっさりと醒めてしまうものです。現実に引き戻され次第に見えなくなるホメロスの姿を、グレイグは目に焼き付けました。
     目を覚ましたグレイグは、本当に何かを口に含んでいました。甘くてどこか懐かしい味がします。しかしよくよく見れば懐かしいと言うよりは懐でした。自分にもついている、ついぞ用途のわからなかった胸の突起だったのです。
     グレイグは顔を上げ、胸の突起の主を確かめると、果たして夢に見たホメロスでした。グレイグが驚き喜んで言うには、
    「本当に会えるとは、ホメロス! だが一体なぜ? お前は、地上に融けてしまったのではないのか?」
     ホメロスが答えて言うには、
    「自然に融けてしまった私は、いわば自然の精霊となったらしい。今まで定まった姿など持つことがなかったが、お前の私を想う力が強いあまりにこうして姿を得ることができたようだ」
     グレイグが再び問うて言うには、
    「では、なぜ俺はお前の胸を吸っていたのだ?」
     ホメロスは答えて言います、
    「天上にいた頃、私は空から泣く幼子に乳を与える様子をよく目にした。仔鹿も泣いて母親を呼び寄せては乳を吸っていた。地上では泣く者には乳を与えるものなのだ」
     グレイグはおおいに納得して頷きました。

     それからグレイグとホメロスは睦まじく暮らしました。ホメロスはグレイグにしか見えないようでしたが、グレイグは限りなく幸せでした。しかし、彼は三年後に死の床に就いてしまいました。彼に降りかかった試練とホメロスに出逢うまでの深い悲しみとが、肉体を内から蝕んでいたのです。
     グレイグは傍らのホメロスに向かって言います。
    「俺は何度だってお前にめぐり逢おう。そのためなら何度だって死すべき命を生きよう」
     ホメロスは答えて言いました。
    「私もお前に応えよう。どんな姿になろうとも、お前に祝福を与えよう」
     それを聞くとグレイグは微笑み、息を引き取りました。己を存在せしめるヒトの死によって、ホメロスもまた消えてしまいました。

     グレイグはその言葉通り何度も生まれ、地上の国のもうひとりのヒトとなりました。ホメロスは彼に応えて生まれ、やがてグレイグに寄り添い祝福を与える守護妖精チチスワシーとして地上の国に根付きました。
     これがグレイグと守護妖精チチスワシーのおこりです。
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