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    あまはな

    @tenka15a

    現在は晴道(えふご)に狂乱中。書けた時に書けただけ投稿する予定

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    あまはな

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    キスの日という事で、以前に書いててそのままだった晴道を。源氏中心に平安鯖も出て来てます。デア時空で晴道結婚した後の設定。
    問題解決に集中する余り、失念してた最優の話

    #晴道
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    最高最優、一言にて分からされるの事「これはどういうことなのでしょうか」
     
     そう尋ねた晴明は今、管制室にて正座をさせられていた。
     その首には『私は任務中、風紀を乱しました』と書かれた札がかけられている。それに相対するように佇むのは、源氏の棟梁であった。その柳眉を吊り上げて晴明を見下ろす眼光は鋭く、並の人間であれば裸足で逃げ出す程の迫力である。……並の人間であれば。
     だがしかし。その眼光を正面から受け止めるは、かつて平安京を守護せし存在、最高最優の陰陽師たる安倍晴明である。彼の総大将の威圧を受けて尚、男は平時と変わりなく口を開く。
    「任務が完了し、帰還した途端にこの仕打ち。しかもこの札の……何です、これ? 全く心当たりがないのですが」
    「ないとは言わせません」
     一刀両断。常の子煩悩な母の如き淑やかさは鳴りを潜め、源氏の棟梁としての厳粛さを前面に出して頼光が断じる。
    「胸に手を当ててみるが宜しい。さすれば、自然と理解できる事でしょう。この状況をもたらした、貴方の行動が」
    「…………うぅん。申し訳ない、やはり……分からない」
     言われた通り、馬鹿正直に胸に手を当てて考え込んだ後、眉根を寄せる晴明。その返答に更に威圧を増す頼光のまなざし。
     それを只々、立香を始め任務に同行していた面々は見守るしか出来ずにいる。と、晴明が小さく挙手をした。
    「状況を整理しましょう。事実確認の為、聞いていただきたい」
    「……良いでしょう。何をもってして『謂れがない』などと戯言を申せるか、この頼光にご説明いただきたく」
    「険が凄まじい」
     思わず声に出せば、凄みを増す眼光。いや失礼、と発言を誤魔化して、晴明は改めて先程の事を振り返る。
    「────当該の任務で、マスターに同行していたサーヴァントは七騎。源頼光、坂田金時、渡辺綱、紫式部、清少納言、蘆屋道満、そして私」
     ですよね、と確認を求めると首肯で返される。それを受けて、更に自分の記憶する通りに状況を述べていった。
    「特異点発生の原因となりうる異常な魔力を感知した為、前述のメンバーにてレイシフトを実行。調査を進めるうち、例の異常な魔力により発生した、極めて多数のエネミーと会敵し、戦闘に突入。白兵戦では状況を打開できず、宝具による殲滅が最善と判断し実行。そして無事に包囲を突破し、異常の原因を突き止めてこれを解消、帰還──と、こんなところですか」
     ふーむ、と今一度考え込み、それでも晴明は眉をしかめる。
    「考えれば考える程、どうしてこんな札を首からかけ、正座させられているかが分かりません。頼光殿、貴女はどの部分を以てして『風紀を乱した』と判断されたのだろうか」
    「……そうですね。先程の貴方の説明は簡潔にして明瞭、大筋において明らかな間違いや誤認の類はないと申せましょう。ですが」
     だん、と愛刀の鞘先を床に打ち付け、頼光がギリ、と歯噛みする。
    「『宝具による殲滅が最善と判断し実行』────この時。貴方が“誰”の宝具を使う為に、“何をどうやったか”が問題だと言っているのです!! 」


     そんな二人のやりとりを、どうするかなぁとシュシュに触れながら立香は見守っている。
    (うーん、頼光さんめっちゃ怒ってるなぁ……そんなに怒らなくてもいいと思うんだけどな)
     と、先程の出来事を回想し始めた。



     先に晴明が説明していた通り、異常魔力の解消の為レイシフトをした立香達は、途中で大勢のエネミーに襲われた。種々様々の、クラスも特性も属性もてんでバラバラの相手が次から次へと襲い掛かってくるのだ。当然、相性不利の相手との戦闘も発生するわけで、否応なく全員の消耗が強いられていたのである。
     そんな中、道満が奇襲を食らってしまった。ガッツで受けてはいたが、それもすぐに使い切ってしまう。地に伏した道満がこれ以上敵の攻撃を受けないようにすぐさま回収し、晴明の張った結界の中で状態を確認すると、強制帰還には至らずとも戦闘は困難、意識のない状態であり、既に令呪を使い切ってしまっていたから霊基復元も不可能であった。
     そんな中、劣勢を盛り返そうと頼光が宝具を開放するも、連戦による消耗で威力が出ずに、露払い程度──それでも全体の一、二割ほどは削ったのだが、依然としてこちらの劣勢は変わらずにいた。
    「ぐっ……何の、これしき……っ!」
    「 頼光サン! それ以上はソーバッド、無茶が過ぎるぜ! 」
     続けて宝具を使おうとする頼光に、彼女の限界を直感して金時が吠える。それに同調し、珍しく焦りを顕わにして綱も叫ぶ。
    「そうです頼光様! これ以上の宝具開帳は、霊基の崩壊につながります!後は俺と金時が請け負います、何卒お下がりを! 」
    「……下がれる訳、ないでしょうっ……!源氏の棟梁たるものが、敵を目の前にしておめおめと引き下がるなど……何より、我が子が危険に晒されているこの時に、母が守らずして誰が守ると言うのです……! 」
    「頼光サン……! 」
    「棟梁……! 」
     無理を押し通そうとする頼光の姿に金時と綱は歯噛みする。彼女の消耗は誰の目から見ても明らかで、その意志に反して足元は今にもくずおれそうに覚束ない。宝具の使用どころか、迫りくる敵の対処さえも難しいだろう。しかし、それでも源氏の棟梁として、子を守らんとする母として全てを投げ打つ勢いの頼光の姿に、結界の中で後方支援として立香と共にいた香子と諾子が声を上げる。
    「ちょ、マジヤバじゃんアレ! ねぇかおるっち、ちょっぱやで宝具使えない!? 」
    「無理です! そういう貴女はどうなんですか?! 」
    「こっちもダメ! 魔力が全然足んねー! 」
    (頼光さんは限界、金時と綱さんは応戦で手いっぱい。道満は戦線復帰できる状態じゃないし、紫さんと諾子さんも宝具が使えない。魔力譲渡できるスキルも、令呪も軒並み使い切っちゃってる。どうすれば……! )
     現状を改めて認識し、立香が打開策を捻りだそうと考えていた時だ。
    「香子」
     結界の維持に専念し、今まで一言も発していなかった晴明が香子を呼んだのは。出し抜けに呼ばれて香子が弾かれたように顔を晴明に向けると、彼は一言告げた。
    「結界の維持を頼みます」
    「え? 晴明様、それは一体……」
     問いかけの言葉は途切れた。
     晴明がその場を離れ、意識のない道満の傍らに膝つき、顔を覗き込む。
     笹紅の口唇に親指をかけて割り開き、かぱ、と自身の口も開いて。

     ────その唇にかぶりついたのだ。

     突然の事に驚き固まって声も出ない一同を尻目に、晴明は何の反応もない道満相手に舌を差し込み、口内を舐るように蠢かせる。ぴちゃ、くちゅ、と水音を隠しもせずに行われる行為に、はたと気が付いた諾子が大声を上げた。
    「ちょいちょいちょーい!こんな時にイチャつくかフツー!?」
    「せ、晴明様!? 何をお考えになっているのですか! 」
    「そんな事してる場合じゃないでしょ晴明さーん?! …………あ、れ?」
     視界の端で何かが動いたような気がして、そちらに目を向ける。そこには脱力したままの道満の手があるだけで、他に動きそうなものは無い筈なのに。そう思った直後。

     ────ひく、と笹紅の爪先が震えた。

     見間違いなんかじゃない。確かに動いたのを見た立香はその動きを注視する。
     ひく、ひく、と数度震え、再び動かなくなった、その刹那。

     ────ぬぅ、と気配なく片腕が持ち上がる。

     その腕の先。笹紅の爪が天を指し、広げられた掌が叩きつけるように晴明の後頭部へと振り下ろされた。
     ガチン、と歯が当たったのだろう鈍い音が合わせられた口元から聞こえてきたが、晴明は離れない。振り下ろされた掌はそのまま晴明の頭を押さえつけていて、まるで────
    「……どう、まん? 」
     立香が思わず口にした名に返事はなく。只、目の前の光景を見ているしかなかった。
     
     じゅぅ、じゅる、とすすり飲む音。一定の間隔で上下する喉。その音は、動きは、どんどんと大きく、激しくなっていく。
     まるで、もっと寄越せと言わんばかりに。

     そうして、掌が晴明の頭から離れると、ようやく晴明は顔を上げた。その拍子に、朱の滲んだ銀糸が互いの唇を伝って切れる。口元は唾液と血にまみれていた。はぁ、と疲労の滲む溜息を零して晴明が呟く。
    「……遠慮会釈なく、持って行ってからに」
     そして力尽きたように横に倒れ込み、仰向けになった。
    「──後は頼みました」
     呟けば、その言葉に呼応するように、突如道満が脚の力だけで跳ね起きる。膝を曲げ上体を低くしたまま、支えとして片手を地につけると、晴明と同じく唇を濡らす唾液と血を舌で舐めとった。そして横目で晴明を見やると、舐めてなお紅い口の端をにたりと上げた。
    「ンンンン────愉快、愉快。その無様、この目に出来ただけでも持ちこたえた甲斐があるというもの」
    「莫迦者、こうしたのはおまえだろうが。宝具解放に必要な分だけなら、こうまでなるまい」
    「いいえ、きちんと必要な分だけでしたとも。宝具開帳となれば、ずたぼろの霊基では耐えきれなんだ」
    「…………まあ良いでしょう。それよりも、分かっているね」
    「ええ、ええ!ご所望とあらば、そのようにして差し上げる! 」



    「ならば喰ろうてくれましょう────顕光殿、お目覚めを! 」



     こうして、道満の宝具によってエネミーの大部分が消滅。辛くも撤退した一行は体勢を立て直し、原因を突き止めて解決したのち、帰還にまでこぎつけたのだ。回想終わり。
     ……で、だ。頼光は晴明の行った魔力供給を指して怒っているのだろう。これは立香の予想でしかないが、多分合ってると思う。確かに、途中からは良くて獣の咬み合い、はっきり言えば捕食シーンな絵面だったとはいえ、魔力供給だろうといきなりキスシーンを間近で見せられて、動揺しなかったと言えば嘘になる。
     けれどそれは晴明なりに、事態を打破しようと考えての行動である。多少の居たたまれなさなんて大したことな……いや、やっぱり少しは配慮してほしいかな、うん。なんて事を思いながら、立香は恐る恐る頼光へと声をかけた。
    「頼光さん、もうそれくらいにしてあげてよ。晴明さんもみんなを助ける為にやったんだし、もうこれ以上は……」
    「いいえ、いいえ! いくらマスターのお願いとてこの頼光、引き下がる訳には参りません。大体、魔力供給ならもっと他にやりようがあった筈。その上、何故よりによって蘆屋道満の宝具なぞ……! 」
    「何故って……まぁ、あの時あの中で一番手っ取り早く、状況に適した宝具の解放が出来そうだったから、でしょうか」
     しれっと話に割り込んで晴明が答えると、頼光の目が再び晴明へと向いた。
    「晴明殿、何をもってそう仰るのです」
    「『何を』も何も……まず、相手は多勢。しかも源氏の棟梁と四天王二人の、計三名による白兵戦でも処理しきれないほどの。であれば、一度に大勢を無力化できる攻撃が必要となる。私は言わずもがな、金時や綱殿の宝具は一点集中での突破に優れているが、一撃で多勢を沈められるかと言えば否。一点を穿って切り抜けられる状況でなかったし、やはり広範囲に攻撃できる宝具があの場では最適だと判断したのです」
    「……確かに、貴方の判断は理にかなっています。ですが、大勢に攻撃できる宝具は私や香子様、諾子様とて同じこと。先程も言いましたが、魔力供給の方法さえ配慮すれば蘆屋道満の宝具でなくとも──」
    「それは違いますよ。道満の宝具でなければ切り抜けられなかったし、そもそも宝具を最短で展開できなかっただろう」
    「……晴明さん、それってどうして? 」
     思わず立香が尋ねると、晴明は顔をこちらに向けた。
    「単純な事です。令呪や魔力譲渡スキルが使えなかった以上、魔力を得る為には原始的な魔力供給──つまりは血液等の摂取を行うしかない。ですが血液という物体を介する以上、一度に摂取できる血液の、ひいては魔力の量に限界がある。そして必要な魔力が多ければ多い程、摂取しなければならない血液量は増え、従って摂取する為の時間は長くなる」
     そこで言葉を切り、頼光を一瞥する。
    「翻って、あの時の頼光殿は魔力が底をついた状態。香子や清少納言殿も、宝具を使うには全然魔力が足りなかった。対して、道満は快楽主義EX(クラススキル)に加えて二度もガッツが発動した後。あと少し補えば即時宝具を使えるだろうと踏んで、ああしたのだが……想定以上に持っていかれてしまったよ」
     じろりと道満を横目で睨み、聞こえよがしに言ってみたが当の本人はどこ吹く風である。はぁ、と呆れと諦めを含んだ溜息を吐いて、晴明は続けた。
    「それに、香子の宝具は魔性、清少納言殿の宝具は人の感性(こころ)を持つものに対して絶大な威力を持つが、逆を言えば『そうでないものにはあまり効果がない』。様々なエネミーが混在していたあの戦闘で、討ち漏らす可能性を考慮した場合に両者いずれかの宝具は適当でなかった。一方で有利クラスが多く、たとえ不利クラスでも即死や呪いによる継続ダメージが見込めるが故に、道満の宝具が最適と判断した次第。……以上が、説明となります」
     涼しい顔で締めくくる晴明。しかしそれでも納得いかない様子で頼光が噛みついた。
    「っ、ですが! それでもあの方法は如何なものかと! 血を飲ませるだけなら口を合わせずとも出来ましょう!! 」
    「道満に意識があれば無論、手首なりを切ってその傷口から直に飲ませるなりなんなりしていたでしょう。ですが、意識のない状態で口に血を含ませても正しく飲み込めないですし、時間も血も無駄になる」
     そして こて、と首を小さく傾げると改めて問いかけた。
    「──頼光殿、いやホントに本心からお尋ねするのですが。何が『風紀を乱した』としてお叱りを受けてるんです、私? 」
     この男、曇りなきまなこをしていやがる。その反応から、立香は『あ、本当に分かってないわコレ』と理解した。他の面々も、「え、マジで仰ってる?(意訳)」と顔を引きつらせている。唯一道満だけは、最初から分かっていたとばかりに深々と溜息を吐いており、それらの顔を見渡して晴明はひたすら首を傾げた。と、金時が溜め息交じりに口を開く。
    「……頼光サン、もうそんくらいにしときなよ。晴明殿がこういう御仁なのは最初っから、それこそ生前から分かってたじゃねぇか」
    「『最善』とは『最短最適による解決』、だったか。生前、晴明殿から聞かされた時には何を当たり前な、と思ったものだが……認識を改めるべきか、否か」
    「あー、コレだわコレ。こっちの心情を顧みないこのカンジ、まさしく晴明殿だわー」
    「…………すみません、弟子として何もフォローできません……! 」
     金時を皮切りに銘々が思うさまを口にするが、それでも晴明はピンと来ないらしい。終いには眉間に人差し指を当てて考え込んでいる。その様子を見て、遂に頼光が爆発した。
    「────もうっ!! 本来なら認めがたい、ええ、認めがたい事ですが! 安倍晴明、蘆屋道満! 今の貴方がたは夫婦(めおと)なのでしょう、妹背の契りを交わした仲なのでしょう?!ならば慎みだとか分別はつけるべきかと!! 」
    「……え? 」
    「だから!敵陣の只中で状況を弁えずに睦み合っている、と勘違いされるような振る舞いはお止めなさいと申しているのです! よしんば戦略的な理由からだろうと、味方に混乱を招くような真似は許されませんし、何より──何より、子らの教育に悪いでしょう!! 」
    「頼光さん、結局はそこに行きつくんだね……」
    「当然です! あのような破廉恥な行いを白昼堂々と為す性根、ご禁制にて金剛杵を見舞わせて然るべきものなれば!! 」
     そういや、声をかけた時はセーラー服着てたっけ。と立香は思い出す。任務の為にバーサーカーに戻ってもらったのだが、直前までランサーだったからか、変なタイミングで影の風紀委員長スイッチが入ってしまったようだ。そうやって気炎を吐く頼光に、宥めようと諾子が取り成す。
    「まーまー、確かにあん時ゃ度肝を抜かれたけどさぁ。ぶっちゃけ晴明殿がああしてくれてなかったら、ウチらこうしてカルデアに戻れてなかった訳だし。いやだからって二度目はマジでガチで勘弁な! 」
    「そも、頼光様の仰る『破廉恥』という認識なり概念なりが、晴明殿には馴染みが薄いのだろう。あくまであの状況を切り抜ける為、必要な事を為していただけという認識なのだろうが……傍目からの印象というか、どう見られているかを度外視していたが故の今回、なのだろうな」
    「……兄ィの言う通りなのかもなァ」
     二人の言葉の端々に滲む諦めを感じ、香子が何とか挽回しようと声を上げる。
    「で、でもっ!晴明様だってきちんと話せば理解されるのでは! 理解……ええ、理解、は、してもらえるでしょう…………以後このような事がないかどうかは、正直……」
    「かおるっち、それダメじゃね?────とにかく、今度から人前でちゅーすんのは止めとけって話! 晴明殿、分かった? 」
     なんて、軽い口調で諾子が顔を向けると。


     呆然。

     
     解析。 認識。 理解。



    「…………え、あ ぅえっ…………?」



     ────そして、過熱暴走(オーバーヒート)。


     そのような過程がありありと伝わる晴明の表情変化に、その場の時が一瞬止まった。

     諾子は恐る恐る立香へと振り返り、途方に暮れた調子で尋ねる。

    「ねー、ちゃんマスぅ……あたしちゃん、やらかしたっぽい? 」
    「…………どうだろうねぇ」

     諾子のストレートな表現でやっとこさ事態を理解したらしい晴明は、暫く言葉も出せずに只々赤面して硬直していた。が、やがて顔を伏せると勢いよく立ち上がり。そのまま無言でどこかへと早足で向かい始めた。
     競歩もかくやの速度に何かを直感し、立香は慌てて止めようとその腰に飛びつく。
    「ちょおーっと待てや最高最優! どこ行こうってんだぁ?! 」
    「決まってるでしょう霊基返還してもらいにですだから離してくださいどうか後生です!! 」
    「んな事許す訳ゃねーでしょ! 金ちゃん綱さんお願いこの人どうにか止めてぇぇ!! 」
    「あいよォ大将! 」
    「承知した! 」
     マスターの要請にすぐさま二人分の重しが晴明に追加されるが、その歩みは遅くなりこそすれ止まる事はなかった。
    「くっそ、オイラこれでも全力なンだが、それでも止まらねぇたァどういうこった?……そうか、術で自分を強化してやがるな! 」
    「晴明さん落ち着いて! お願いだから早まらないでぇ! 貴方を喚ぶのにどれだけ石を溶かしたと思ってんのー!! 」
    「いやそこかよ大将! 」
    「無駄話をしてる場合ではないぞ、金時! 」
    「分かってらァ! けどよ兄ィ、術で対抗されちゃ俺達の膂力が如何程だろうとどうしようもねぇ! 」
     そうやって言葉を交わす間にも、晴明は一歩一歩と着実に前へと進んでいく。それを止めようとしてもずるずると引きずられるしかない現状に、立香が天を仰いだ。
    「誰かー、助けてー!! 」




    「──────晴明殿」




     何の気負いもなく、呼ばう声。わぁぎゃぁ騒いでいる中でも通るそれに振り返ると、今まで碌に発言のなかった道満が、やれやれと言いたげな顔で歩いて来た。すたすたと進んで晴明の正面に回り込むと、さしもの晴明も混乱と羞恥を忘れてぽかんとその顔を見上げる。
    「どうま、 ん!? 」
     疑問の声を上げようとして、それは奪われた。────晴明の唇と共に。
     晴明のおとがいを掬い上げ、黒曜石を目蓋の下に隠して口唇を交えるその姿に、晴明は勿論のこと立香達も目を点にした。
     暫くの間、唇を触れ合わせるだけで動きのない道満に誰も何も言えずじまい。そうしてやがて唇が離れたかと思うと、道満は何も言わずに何故か元来た道を戻り。
    「…………え? 」
     晴明が先程まで正座していた場所、即ち頼光の前にて正座をしたのだった。意図の不明な行動に対して頼光が困惑を極めていると、頼光を見上げて道満は愉快そうな笑みを浮かべて首を傾げた。
    「ンン? 今までの話の流れからすると拙僧もまた風紀を乱した故に、こうするが当然と解釈したのですが。ほれ、晴明殿。まだ話は終わっておらぬでしょうに、突然の中座は失礼かと」
     ぽんぽんと自分の隣を叩いて促す道満に、察した頼光は深々と溜め息をついた。
    「……ええ、左様にて。全く、めおと共々説教が必要とは先が思いやられます」
     つまりは、道連れになってやるから戻って来い。と、道満は言っているのだ。
     手招く道満に、晴明は歩を止めて首だけを向ける。その顔からは、意地を張った手前どうにも動けないと揺れ動く内心が窺えた。何も言わず、只々見つめる晴明を立香達は固唾を飲んで見守る。
     膠着状態の中、沈黙を破ったのは道満だった。
    「晴明殿。早うこちらへ」
     毅然とした声音で促されて、観念したらしい。腰にしがみついていた重し、もとい立香達の腕を外し、何とも言えない表情でのろのろと戻っていくと、改めて道満の隣に正座で座る。
     先程と異なるのはその麗しい尊顔を伏せている事で、耳や首筋の色づき方から珍しく全面真っ赤っかなのは察せられた。それに対して知らぬ顔で、道満が頼光を促す。
    「さて、それでは源頼光殿。どうぞお手柔らかに」
    「……礼なぞ、言いませんからね」
    「ンンン、はて何のことやら」
     と、何やら言葉を交わした後、頼光は他の面々へと顔を向ける。
    「皆様、長々とお付き合いいただきすみません。後はこちらでやりますから、戻ってもらって構いませんよ。私も今日は食堂の夕食当番なので、それまでには終わらせます。──ああそれと、マスターに金時。帰ってきたらうがい手洗いは忘れずに、ですよ」
     にっこりと釘を刺すと、頼光は二人に向き合って懇々と説教を始めた。それを見てこれ以上は出る幕なしと残りはそれぞれ戻っていったのだが、

    (…………お母さん…………)
     
     最後の、晴明に対する道満の態度がそうとしか思えなくて、全員の心が一つになっていたのは当人が知る由はない。






     因みに。

    「ああ、どうやって血を出してたかですか? それはこう……あいつの鋭い歯で舌をめっちゃくちゃに引っ掻いたり切ったり。後頭部を叩かれた事で唇も切れたので、効率上がってよかったです」
    「よかったです、じゃないよ! 二重の意味でマシュが現場にいなくてよかったわホント!! 」

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