無題 彼女は岩王帝君の為に生き、そして死ぬのだろうと考えている。彼女にとってそれ程「岩王帝君」という存在は大きかった。彼との契約があったからこそ彼女は今の自分がいると思っており、それは紛れもない事実として在る。
だから彼女は――甘雨は「帝君」の「死」を受け止めきれない。あの日、儀式の途中で何者かにより殺害されたという岩王帝君。甘雨はその日から心が激しく痛むのを感じるようになった。
岩王帝君――岩神モラクスは甘雨の全てだ。璃月七星の秘書としての仕事に就いていることも、何もかもが岩神に繋がっている。故に、甘雨は悲しみに暮れた。岩王帝君を殺めた者を許せないという怒りより、そちらの感情が勝り、彼女の心は滂沱の涙を落としている。
もし、自分がこのテイワットから旅立ったら、岩王帝君のもとへゆけるのだろうか、甘雨はそんなことすら考えてしまう。神との別れを知らなかったこの璃月で生き続けることは酷く困難に思えてならない。
そして、甘雨は今日も岩神への思いを口にする。あなた以上の存在は無いと。あなたの傍らにいきたいと。それでも璃月には変わらぬ潮風が吹き抜けていた。