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    いぬさんです。

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    いぬさんです。

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    50話目です。

    50私には会わなければいけない人がいた。



    暑い暑い夏がようやく終わった頃から、私は妙な胸騒ぎをおぼえていた。
    物凄く不安になるとかそういう感じではなく、時々不意に感じる程度の不安で、マリッジブルーくらいに思っていた。

    秋が深まるにつれ、胸騒ぎがざわざわと押し寄せる感覚になった。
    押し寄せてくるのに、胸騒ぎの正体が分からずもやもやした。
    悟は私の様子に気付いているようだったが、何も言われなかった。多分悟もマリッジブルーだと思っていたのかもしれない。

    この頃悟は数日帰って来ない任務が増えた。2日だったり一週間だったりしたが、メールで近況の報告は受けていたので無事でいる事だけは分かった。一週間の任務だった時は帰ってくるなり盛大に任務の愚痴を聞かされた。学生や等級の低い呪術師を育てているらしいが、自分で呪霊をちゃっちゃと祓ってしまえないのがもどかしいらしい。つまり早く終わらせて帰りたいということだ。

    「地方だから3~4日かかるかも……」

    悟は項垂れて出掛ける準備をしていた。今日は土曜日なので任務が無ければお出かけするつもりでいたのだがお呼びがかかれば仕方ない。
    準備をしている悟を抱き締め、行ってらっしゃいのキスをしたら「行きたくない」と駄々をこね始めたので玄関まで強制連行した。

    「気を付けてね!」
    私が元気にそう言うと悟は悲しそうな顔をして
    「えー?寂しくないのぉ?」
    と聞くので
    「寂しくないわけないでしょ?」
    と返したら納得して出掛けて行った。


    時間ができてしまったので、私は自分が抱える漠然とした不安の正体を突き止める事にした。
    会わなければならない人がいる。


    あの日病室で凪さんには2つの事を教えてもらった。
    1つは千里眼の女性の居場所だ。
    その女性の居場所は御三家でいえば当主と当主の妻、政治家であれば内閣総理大臣と副大臣、あとは天皇皇后両陛下くらいしか知らされないらしい。そして退陣後も口外無用なのだそうだ。凪さんは私がいつか悟の妻となった時に知るのだから、今教えても問題ないだろうと言って教えてくれた。


    教えられたのは都内の雑居ビルだった。
    一階にはコンビニがあり、2階のフロアは「占い館」となっていて、3階から上はオフィス等が入っているようだった。
    千里眼の女性は「占い館」にいると教わっていた。普段は「それなりに当たる占い師」としてそこに在籍しているそうだ。

    凪さんに教えられた「未来の光」という手書きの看板が立て掛けられたブースにその女性はいなかった。トイレだろうか。看板の営業時間内だし、休業日でもないが。
    隣のブースで人の気配がしたので声をかけて聞いてみようとした時、後ろから声をかけられた。

    「ようやく来たね。五条家のお嫁さん」

    振り向くと老齢の女性が立っていた。
    背丈は私より小さく150センチくらいだろうか。ふっくらというか、どっしりしている。
    漫画やドラマで見るような黒いケープのようなものを頭から目深に垂らしていて顔はよく見えないが、首もとは皺がたくさんある。ケープはそのまま全身を覆っている。首には色々な天然石のネックレスがジャラジャラしており、手首や指、耳にもたくさん石がついたアクセサリーが目立つ。凪さんの「お金さえ積めば」という言葉を信じるなら、石は全て本物だろう。

    「検分は済んだかい?」

    そう聞かれてはっとする。

    「失礼しました。初めまして。五条実と申します。」

    「初めまして。さ、どうぞ中に入って」

    やはり私が来る事が分かっていたようだ。
    小さな丸テーブルを挟んで向かい合わせに座るよう促される。
    お香の匂いと暗い照明が怪しげな占い師を演出している。
    向かい合わせに座って初めて気付いたが、彼女は右目に眼帯をしていた。海賊が着けているような、黒くて三角を逆さまにした形のやつだ。

    「私は生まれつき右目が悪くてね。でもその代わりに色々な事を見通す力を持って生まれたんだよ」

    私が黙っていると、彼女は勝手にしゃべり始めた。

    「何を知りたいんだい?あんたが来ると分かってから少し時間があったもんでね、あんたが五条家に連れて行かれた子供の頃から今日までのあんたの人生はちょっとだけ覗かせてもらったよ。」

    「過去も見えるんですか」

    「起こってしまった事の方が見えやすいのさ。これから起こる事の結末は変わらずとも経過が変わる事はあるからね」

    「見えた結末は絶対ですか」

    「外れた事はないね。五条家現当主の嫁がやった事はちょっと想定外だったが、そこを見たわけでは無かったしね。でも当たっただろう?お前たちが離れている間に五条悟は最強の呪術師に成った。私にもちゃんと伝わってるよ」

    「私たちは想像を絶する苦しみを味わいました」

    「そうだね。お前たちの運命だったんだ」

    「私は悟が最強でなくても良かったんです」

    「……ふむ。それはお前さんだけの視点だろう?」

    私は何を言われているのか分からなかった。

    「お前さんが聞きたいのはその胸騒ぎの件じゃないのかい?」

    「……そうですけど」
    さっき言われた事が引っ掛かる。

    「私はこの右目の事を生まれてから今日まで赤の他人に見せた事はない。多分とっくに死んだ両親と産婆さんしか見たことはないだろう。二人の弟にも見せた事は無かったし、私はこの右目の意味を知って結婚する気にもならなかった」

    突然話が変わったので私は黙って聞いていた。

    「私が生まれた時につけられた名前は『桜子』だった。今もこの名前を覚えている人間はごくわずかだろう。学校にも通っていないんだよ。この右目のせいでひっそりと先を見通す事を生業にしてきたからね。私の家族にとって、私は生まれてはいけない子供だったんだ。」

    そういうと彼女は眼帯を取った。

    「私の名前は五条桜子。あんたとも遠い遠い親戚になるかね」


    彼女の右目は碧眼だった______
    見慣れた悟と同じ瞳_____


    「私は右目だけ六眼を持って生まれたんだよ」

    「私の家族も本家と袂を別って久しかったから、片目が六眼の私を見て大層嘆き悲しみ、私が生まれなかった事にした。だから私には正式な戸籍がない。」

    「私にはそれなりの呪力があるが、無下限術式があるわけでもなかったし、片目だけの六眼にできることなどなかった。しかも左右の瞳で見え方が全く違うから頭痛がひどいし虚弱体質だった。しかしある日両親は気付く。私が未来を知っている事に」

    彼女は眼帯を着け直した。

    「私が見た未来は百発百中だった。今でもそうだ。辿る道は違えど結末は同じ。両親の心配はいかほどだっただろうね。この千里眼が本家に漏れれば子供を奪われてしまうと、私の存在はひた隠しにされた。そして大きすぎる力はやはり危険なんだ。私は幼い頃から両親にそう言われ、この千里眼は困っている人を助けるためだけに使った。」

    「それが良くなかったのか、ある日突然政治家がやって来てね。私の占いが大層当たると評判がたったらしい。両親はそんな人はいませんとその政治家を帰らせたが、今度は天皇家の使者がやってきた。私たちは断ることもできず、皇居へ行ったよ。そこで天皇皇后両陛下に謁見し、正直に自分たちの出自を話した。袂を別っていてももとは御三家、私たち家族の安全と生活を保証してもらって私は天皇家御抱えの千里眼になった。」

    「日本の、世界の未来を見たよ。可能な限り防げるものや道を変えたい時は努力した。そして年号が変わると私は役目を終えた。千里眼を抱えられる時代じゃなくなったんだ。それでも、天皇皇后両陛下からの依頼があれば見に行ったし、総理大臣とも話をするようになった。私欲の為なら絶対に見ない、という約束でね。」

    「私の力は大きすぎて、国や世界を変えてしまう。そんな危うい力は特定の誰かや自分だけの為に使っちゃいけないと思っている。可能な限り公平に、たくさんの人の助けになって欲しい。分かるかい?」

    「…………はい……」

    「そうか。いい子だね」

    彼女は初めて微笑んだ。

    「悟が最強に成ったのは、私の為ではなくたくさんの人を救うため。最強に成れば救える人が増えるから」

    「……その通りだよ。それが五条悟が持って生まれた器だ」


    私は溢れる涙を止められなかった。


    「若いお嬢さんを泣かせてしまうのは辛いねぇ。ただ勘違いしないで欲しいのは、五条悟が最強に成ったのはお前さんの為でもあるんだよ。」

    私はカバンからハンカチを取り出して次々に溢れる涙を押さえた。

    「私……だけの……悟だと思っ……」
    引き泣きになってしまい、上手く話せない。

    「そうだね。五条悟もそう思っているよ」

    「……でも……違った……」

    「私や五条悟は国家レベルの要人なんだ。非常に稀で、決して路を誤ってはいけない人間だ。その人間の愛を一心に受けている事を忘れてはいけないよ」

    「……はい……」

    「私の六眼がお前さんには呪力が無い事を教えてくれている。お前さんの力は全て正の力で五条悟は負の力。磁石のようにひかれあうのだろう。何度でも廻り合い、愛し合うようにできているのだろうよ」

    「それが……胸騒ぎの原因ですか……?」

    「本当に聡い子だねぇ」

    「そうなんですね……?」

    返事がないのが物語っている。

    「私がついているよ。お前さんたちには辛い思いをさせてしまったからね。お前さんたちが後悔しないようにできる限りの事はするつもりだ。もう私も大分年寄りになってしまったけれど、若人の幸せをいつも願っているよ」

    「悟に会ってもらえませんか?」

    まだ涙は止まっていなかったが、私はダメ元で聞いてみた。

    「お前さんが望むなら会ってもいいよ。ただし、六眼であることは五条悟にしか明かさないし口外無用だと約束してもらう」

    「分かりました」

    「よくお聞き。何度も言うが結末は変わらない。だけど過程はいくらでも変えられる。後悔しない生き方なんてものはこの世にないが、後悔を少なくする事はできるんだ。自分たちができることはなんでもやるんだよ。」

    「今日話した事は悟には言わないでください」

    「……それでいいのかい?」

    「聞いたら相当無茶苦茶なことをしそうだし、多分悟は耐えられないと思います」


    私は悟が戻ったら連絡すると言って桜子さんの連絡先を聞いた。


    帰り道の事は何も覚えていなかった。




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