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    necotyann

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    necotyann

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    付き合ってる成人済北まこの事後翌朝
    いっぱい捏造
    なんでも許せる方向け

    #北まこ

    北まこ朝起きると、遊木がいなくなっていた。
    昨夜一緒に床に入り、その存在をこの手でしっかりと確かめたはずなのに、今はただ、遊木がいたはずの場所に残されたベッドシーツのしわだけが、カーテンから漏れる朝の光に静かに照らされていた。
    まずい、と思った。
    冬の冷たい空気を億劫に思うのも忘れ、布団を投げ出すようにがばりと勢いよく起き上がる。咄嗟に、ゆうき、と名前を呼びかけてみたが、しんと静まり返った寝室に自分の掠れた声が沈むように響いただけで、どこを見渡しても遊木らしき姿を見つけることはできなかった。
    冷水を浴びせられたみたいに、まどろんでいた思考が一気に覚醒していく。あいつは早起きな方ではない。いつも俺が起こそうと声をかけたって、「あと少し」と言って布団をかぶり直すようなやつだ。遊木に朝イチで仕事が入っているときには、俺の知らないうちに起き出して出かけていることもあるが、電子機器がいまだに得意ではない俺を気遣ってか、そういうときにはいつもメールではなく、ベッド脇に「先に出かけている」といった旨のメモ書きが置かれていた。
    今朝はその書き置きもない。
    もう一度振り返って、空になった俺の左側、遊木が寝ていたはずの場所に恐る恐る触れてみると、そこは日が当たっているにもかかわらず、冷たかった。サイレンが鳴るように鼓動が早く、うるさくなる。これはただごとではない。遊木は意図的になにも言わず、俺の前から姿を消したのだ。なぜなら、昨夜の俺と遊木は、いつものようにおやすみと言い合ってただ横並びに眠った訳ではなかったのだから。


    成人してからしばらく経ち、俺はとあるマンションの一室を借りた。ESアイドル専用の寮として使い勝手の良い星奏館での暮らしは快適だが、そろそろプライベートな空間も欲しい、という理由で借りたその部屋は、まだ完全に住居をうつしていないせいで家具も必要最低限のものしか置いていないなんとも殺風景な部屋だったが、Trickstarの面々がよく集まってくるおかげで、皿や洗面用具などはありすぎるほど揃っていて、それをよく明星が面白がっていた。
    そんな皿たちは、遊木が恋人として、一人ひっそりとここを訪れたときにも、よく役に立った。
    遊木がこの部屋を訪れる頻度はそう高くなかったが、お互いの予定がそこまで詰まっていない日には誘い合って俺の部屋で夕食をともにすることがよくあった。そして、そういう日には必ず、遊木は一晩この部屋に泊まっていった。
    とはいえ、恋人らしいことといえば、一緒に夕飯を作ったり最近の出来事を語り合ったりしているうちに、気が向けば触れる程度のキスをするくらいのもので、寝る頃になれば、ベッドが一つしかないものだから同じベッドで眠りはしたが、それ以上のことはしたことがなかった。キスはしているししたいと思うのだから、性欲がない訳ではないのだが、身を寄せ合って眠るだけで嬉しそうにする遊木を見れば十分幸福を感じられたし、何より、キスだけでもいまだに緊張しがちな遊木はこれ以上のことなど考えていない可能性もあり、俺も遊木が望まないことはしたくないから、とそれ以上の触れ合いについては特段話題にしたことは無かった。
    だから昨夜、キスをしているときに、遊木の舌が俺の唇を懇願するように舐めたときには心底驚いたし、思わず顔を離したときに見えた遊木の真っ赤な顔と何かを訴えるように揺れる瞳に、つい「いいのか」と問うてしまった。遊木は聞こえるか聞こえないかくらい小さな声で「氷鷹くん」と名前を呼んだのみであったが、俺の首の後ろに腕を回してきたから、その後の行為は同意の上であったと思う。
    しかし、今朝になって遊木が姿を消したことを思うと、そう断言できる自信はもはや無かった。昨晩は自分の持っている愛の全てを注いでやるつもりで、優しく優しく触れたつもりであったが、思ってもいなかった遊木からの求めに舞い上がっていたのも事実であるし、やはり何か間違ってしまっていたのかもしれない。無自覚に自分を消費してしまう彼のことだ。何かあってからでは遅い、と、つのる焦りを覚えながら、遊木のいなくなった寝室を飛び出した。


    果たして、遊木の姿は無かった。
    リビングのソファには、昨日遊木が着ていたダウンジャケットが引っ掛けたままにしてあったし、リュックもダイニングテーブルの近くに置いたまま移動した形跡は無かったから、見つからないとなると寝巻きのまま何も持たずに外に出てしまったのかもしれない。
    それならばいよいよ危険だ。
    頭からサッと血の気が引いていくのを感じながら、急いで探しに行こうと、上着を着るのも忘れてリビングを出かけたところで、ふと、キッチンの一番奥の隅の暗がりに、見慣れない大きな塊があるのを見つけた。
    まさかと思って近づくと、塊は、両足を抱き締めるようにして小さくうずくまっていて、思わず
    「遊木!」
    と叫んだ。
    急いで駆け寄って、キッチンの隅でうずくまっている遊木の隣まで来れば、どうやらそのまま寝ていたのか、俺の声に反応した遊木が「ん…」とこぼしながら、ゆっくりとした動作で顔をあげ、
    「ひだかくん…?」
    とぼんやりこちらを向いた。
    「どうした、具合でも悪いのか?」
    「あ…ううん、大丈夫…ちょっと早く起きちゃって…」
    「それにしてもなぜこんなところで…だいぶ冷えてしまっているな。待っていろ、ホットミルクでも作ってやる」
    寝起きでまだ起き上がれなさそうな遊木に向かって、ひとまず体が温まるものを、と思って立ち上がった。幼い頃、今日のような冬の寒い日には両親がそばにいない寂しさや不安もあってか、体が芯から冷えて寝付けないことが多かった俺に、おばあちゃんがよくホットミルクを作ってくれていた。俺はそれで安心できたから、遊木もどうだろうかと思いながら、数歩先にある冷蔵庫から牛乳を取り出し、温めるための鍋に手をかけたところで、くんっと袖を何かに引っ張られた。
    見ると、いつの間にか立ち上がって隣まで来ていた遊木が、俺の寝巻きの袖あたりを掴んでいる。
    「…遊木?」
    「あ、その…水でいいよ。喉、乾いたから」
    「水でいいのか?」
    「うん」
    「…わかった。ここじゃ寒いだろう。暖房をつけるから、ソファで待っていろ。」
    そう促すと、遊木は少し迷うように視線を泳がせた後、こくりと頷いてキッチンをあとにした。
    その背中は、高校生の時初めて会ったころみたいに、細く弱々しく見えた。


    「遊木」
    水を持ってソファにいる遊木のもとへ行き、呼びかけながらそっとコップを差し出すと、遊木は申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
    「お水ありがとう」
    「ああ、こぼさないようにな」
    「あはは、子どもじゃないんだから」
    ちょっと困ったようにそう言って、差し出されたコップを受け取った遊木の隣に座る。遊木が水を飲んでいる間何もすることがなく、だからと言って何と声を掛ければ良いかもわからなかったから、ただ黙って水を飲むその横顔を見つめていた。喉が乾いていたと言う割にはちびちびと時間をかけて飲むものだから、コップに触れる薄く開いた唇の様子も、嚥下するときに控えめに動く喉仏も、昨晩を思い出すように嫌に鮮明に見えてしまって、居心地が悪い。思わず目をそらし、俯いた。コップが空になるまでの時間が永遠のように感じて、かち、かち、とだんだんと大きく部屋に響いてきた時計の秒針の音が、自分の身も切り刻んでいくようだった。

    どれくらい時間が経ったのだろう。
    水を飲み切った遊木が息をついた、ふう、という音ではっと我にかえりそちらを向くと、遊木も俺の方をちょっと見て控えめに笑った。
    「お待たせしちゃってごめんね。」
    「気にするな。それより、本当に大丈夫か?どこか具合が悪いんじゃないか?」
    「大丈夫だよ。珍しく早起きできたと思ったのに、結局変なところで寝ちゃったなぁ」
    そう言っていつものようにあはは、と遊木は笑ったが、俺にはその笑い声が妙に乾いて聞こえたから、それ以上話を続けることができなくて、そうか、と返したまままた沈黙してしまった。遊木もそれ以上は何も言わずに、ふいと視線を逸らして、手元にあるコップを見つめている。
    ここでこのまま、遊木がなんでもないように振る舞ったのを受け入れて、昨晩のことも今朝のことも、何も無かったように過ごすことだってできなくはない。しかしそれをしてしまえば、今後もう二度と、遊木に触れることはできないような気がした。
    手持ち無沙汰にコップをいじくっている遊木を見やった後、ちょっと迷って、最後には絞り出すように、こう言った。

    「その…昨日………よくなかったか?」

    自分でも随分と切羽詰まった声が出たと思った。
    遊木はびっくりしたように目を見開いて、こちらを向いて固まっている。ゴトン、という鈍い音がして、遊木の手から滑り落ちたコップが絨毯の上に転がった。
    「えっ!?いや、よくなかったなんてそんな、全然!その…よかった、っていうか、よ、よすぎたって、いうか……」
    あわあわと慌てふためくように言いながら、遊木の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。予想外の反応に、しばらくぽかんとその様子を見つめていたが、聞こえてきた「よすぎた」という言葉に、自分の頬も熱くなっていくのを感じて、思わず、
    「よすぎた、のか」
    とこぼすと、俺を見た遊木はパクパクと口だけを動かして、すぐにわあっと叫んで両手で顔を隠してしまった。
    「何言っちゃってるんだろう僕!!??今の忘れて氷鷹くん!!!!」
    「なぜだ!?」
    「なぜって!!変なこと言ったからだよ!!」
    「別に変じゃない、俺は嬉しいぞ」
    「うう〜〜っ…もうちょっと、喋らないで…」
    そう呻いた後、遊木は両腕で顔をおおって俯き、完全に顔を見えなくしてしまった。
    そんな遊木にそっと近づき、
    「遊木」
    と優しく呼びかける。
    喋らないでとは言われたが、昨晩のことをよかったと思っていてくれるなら、なおさら聞いておきたいことがあった。
    もう一度、ゆうき、と声をかけ、顔を覆っている腕にそっと触れると、遊木がピクリと少し反応する。そのまま手を横に滑らせ、遊木の手を絡めとるようにして握りしめると、彼の両腕から徐々に力が抜けていった。それをいいことに、ゆっくりとその腕を開いていくと、まいったように下げた金色の眉と、非難に揺れる緑の瞳が現れた。
    どうやら俺の勝ちらしい。
    緊張を和らげるようにふっと微笑みかけ、こちらを見上げる瞳を見つめながら、絡め取っていた手を包むように優しく握りなおすと、遊木は完全に観念したようにはあ、と息をつき、「なあに?」と小さく聞いた。

    「…よかったならなぜ、今日は、目覚めた時に俺のそばにいなかったんだ」

    静かな室内に、遊木の息を飲む音が響く。
    揺れる緑の瞳を懇願するように見つめて、言葉を続けた。

    「もし本当に、いつもより早く目が覚めてしまっただけなら、それでいい。でも、俺はそうは思えない。他に何か理由があるなら、教えてくれないか」

    遊木が真っ直ぐに俺を見つめてくる。
    何を思っているんだろうか。
    今も昔も、わからないことが多い。
    お願いだ、と言い足した自分の声は、ひどく掠れているようだった。

    「…………昨日は本当によかったよ。嬉しかった。」
    ぽつり、と遊木が静かに答えた。

    「氷鷹くんはいつも優しいけど、昨日は特別優しくしてくれたよね。
    僕、あんなふうに誰かに、心底愛されてる〜ってわかるくらいに触られたの、初めてで…その…それが僕には、よすぎて。」

    「朝起きても、昨日君に優しくしてもらった時のままで頭がぼんやりして、僕、ダメになりそうだったから、ちょっとバランスを取ろうと思っただけなんだ。……心配かけちゃったなら、ごめん。」

    そう言って、遊木は眉を下げて笑った。
    俺の愛はちゃんと伝わっていて、遊木にはそれがよかったと思ってもらえていたのは、嬉しい。とても嬉しい。
    でも、愛したら、愛した分だけ傷つけなければ、だなんて、そんなこと。
    俺の中で何かが決壊するように、全身から力が抜けていくのを感じた。

    「…朝起きたらお前がいなくて、かなり動揺した」
    「うん」
    「取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと思って」
    「うん」
    「…俺はお前を、愛しているのに」
    「僕も君のこと、大好きだよ」

    俺の声は震えていたのかもしれない。
    いつの間にか、遊木は俺を抱きしめていて、子どもをあやすようにとんとんと背中を優しく叩かれていた。
    耳元で遊木の声がする。
    「朝、隣にいてあげられなくて、ごめんね?君のこと、傷つけちゃったかな…」
    「そんなこと」
    「そんなことあるでしょ、今日みたいな氷鷹くん初めて見たよ」
    「…」
    「ねえ、氷鷹くん」
    そう呼んで遊木は俺の肩に手を置き、ゆっくりと体を離した。
    「昨日のこと、覚えてる?」
    「…もちろん、全て覚えている。忘れたいとは思わない」
    「ふふ、全部覚えられてるってわかると、それもなんだか恥ずかしいけど…えっと、昨日、先に誘ったのは僕だったでしょ?分かりにくかったかもしれないけど」
    「いや…でも、本当にそれでいいんだな?」
    「うん。君の同意も得ずに先に誘ったのは僕の方だったんだから、氷鷹くんは、僕に昨日無理させちゃったかも〜なんて思わないでね」
    遊木が姿を消したときからずっとひっかかっていたことを言い当てられて、ちょっとたじろいでしまう。そんな俺を見た遊木は、やっぱり、というような顔をした後、ソファの上に投げ出してあった俺の手を取ってそっと握った。
    「今回はキャパオーバーになっちゃったけど、昨日君がたくさん優しくしてくれたことは嬉しかったから、それは覚えておいてほしいな。それと…」
    そう言いかけると、遊木は握っていた俺の手を離し、その手をそのまま俺の顔の方へ伸ばしてきた。
    するりと俺の頬を撫でる。
    頬に触れるその指先は小さく震えていた。
    「その…キス、していい?」
    「…今か?」
    「ダメかな」
    「…いいに決まっているだろう」
    なぜそんなことを聞いてきたのかはよく分からないが、許可をもらった遊木は安堵したように肩を少し落とし、それから目を伏せながらゆっくりと顔を近づけてきた。
    遊木の長いまつ毛が震えている。
    いつものように緊張しているのか、とぼんやり思っていると、遠慮がちにそっと唇が押し当てられた。
    許して、とでも言いたげな、いじらしいキスだった。
    ほんの少しの時間触れ合わせるだけにして、あとはお互いの唇が触れるか触れないかくらいの距離まで離れた遊木が、ひだかくん、と吐息だけで俺の名前を呼ぶ。
    夢うつつのような心地になって、遊木の背中を抱き、どうした、と聞くと、
    「…氷鷹くんにはもらってばっかりだから、今度は僕が、大好きだってめいっぱい伝えてあげたいな。」
    と言ってもう一度キスをされた。
    「お前が俺を好きなことは、十分わかっているぞ」
    「うん…氷鷹くんのそういうところが好きだけど、また今日みたいに不安になってほしくないから」
    早起きしちゃったからもう一回ベッドに行きたいな、と言って遊木は目を細めてちょっと笑った。
    鈍いと言われる俺でも、その意味はしっかりとわかる。
    挑むような視線にこたえて、今度は俺からキスをした。
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