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    mizuki_410

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    mizuki_410

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    支部から移植してきました。
    できてるロナドラです。マニキュアの話。
    タイトルは支部用に表紙を作った時にちょっとだけ小細工した名残です

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    【ロナドラ】この指先に君の色/その指先に俺の色この指先に君の色


    夜の帳が降り共にギルドに向かう道すがら、ドラルクは思い出したようにロナルドに声を掛けた。

    「あ、ロナルド君。ちょっと寄っていいかね?」
    「あ?寄るって何処に」
    「ここだよ。マニキュアがそろそろ切れそうでね」

    ドラルクが指さした先はデパートの入り口だった。
    急ぐ用事があるわけでもないので申し出を了承しついていくと、ドラルクは化粧品を売り場を探して館内を歩いていく。
    やがて目的の店舗に辿り着き、色とりどりの小瓶の前で立ち止まる。
    ロナルドは普段立ち入ることのない売り場を見渡し用途のわからない化粧品の数々に首を傾げていたが、ドラルクとジョンが楽し気にそれを選ぶ姿に興味を持ったようで後ろからその様子を覗き込んだ。

    「どれがいいかな……ねぇ、ジョン。君はどれがいいと思う?」
    「どれも赤じゃねぇか、似たようなもんだろ」
    「君、それ絶対女性に言うなよ……」
    「なんでだよ!一緒じゃん」
    「全然違うだろう。こっちはバーミリオン、これはルージュ、これはカーマイン。全部違う色だ」
    「全部赤じゃん」

    ドラルクは呆れ顔でロナルドを見やると軽くあしらいながら手元の小瓶を選ぶ事に意識を戻す。
    ジョンまでもが少し呆れたようにロナルドを見ているので場違いな発言をしたのは自分なのだろうとロナルドは大人しく口を噤んだ。

    「うーん、やっぱりこれがいいかなぁ」
    「ヌンヌヌヌヌヌヌ」
    「おや、ジョンもそう思うかい?じゃあこれにしようか。うん、いい色だね」
    「ヌヌンヌヌンヌヌヌ」
    「えっ、あ、気付いていたか……ふふっ、さすがだねジョン」
    「ヌー!」

    ロナルドにはジョンの言葉は完璧には理解できないが、その会話の内容を聞いていて二人の間で何か意味を持って選んだのだろうと察した。
    そしてその会話の中に自分の名前が含まれていた気がした。
    その直後にドラルクの表情が照れくさそうに緩んだのが妙に気になって、擽ったい気がした。
    そんな表情で彼が選んだその小さな小瓶を見れば深みのある赤い液体が瓶の中で揺らめいている。
    楽しそうな一人と一匹のやり取りに入れなかった事も少し寂しくあり、そこに声を掛けたのはほんの気まぐれだった。

    「それにすんのか?」
    「うん、これに決めたよ」
    「ん、じゃあそれ貸せ」
    「え?これをか?」

    手渡すと目を細めながら光に透かすように持ち上げしげしげと眺める。
    二人がこの色を選んだ意味を探すが、ロナルドにはそれを理解することはできなかった。

    「どうした若造」
    「……いや、別に。これでいいんだな?」
    「うん?そうだね、これがいいな」
    「ん、買ってやるよ」
    「えっ、いいのかね?」
    「おう」

    短く返事を返してレジに向かう背中を、珍しい事もあるものだと腕の中の使い魔と目配せをしながら見送る。
    会計を済ますとロナルドは小さな紙袋に入れられたそれをドラルクに手渡した。

    「ありがとう」
    「ん……」

    慣れないことをして茶化されるかと思えば、ドラルクは思いのほか素直に受け取った。
    嬉しそうに笑顔を見せていそいそと懐にしまう様子を横目に見ながら緩む口元を見られない様に踵を返した。






    ギルドに顔を出してから家に帰るとさっそく真新しいマニキュアを塗るドラルクは機嫌良さそうに鼻歌を歌う。
    読経と称される歌唱力で何を歌っているのかはよくわからないが嬉しそうな様子は伝わってきたので悪い気はしなかった。
    艶やかな美しい赤で指先を彩ると、ドラルクは両手をかざして角度を変えながらその輝きを楽しむ。

    「なぁ、なんでその色にしたんだ?」
    「ん?」
    「マニキュア。あんだけいっぱい赤いのあったのにお前もジョンもコレがいいって言ったろ」
    「とてもいい色だと思ったからだよ。私の好きな色だ」
    「……ふぅん」

    赤く染めた指先で大切そうにその小瓶を撫でるドラルクにそれ以上深く聞ける雰囲気ではなく、ロナルドは後ろ髪を引かれる思いで追及をやめた。





    それから数日後。
    ギルドに集まった退治人仲間達と雑談をしているさ中偶然手袋を外したドラルクの手を見たシーニャが声をあげた。

    「あらぁ、ドラちゃんマニキュア変えたの?良い色じゃなぁい」
    「おや、気付かれましたか。先日新しいものに変えましてな」
    「素敵な色ねぇ、似合ってるわよ」
    「ふふ、ありがとうございます」

    前に使っていたものと何が違うのかよくわからないが、あの日結果的に自分がプレゼントした形になったものを褒められ顔を綻ばせるドラルクを見てロナルドの口元も無意識に緩む。
    その顔を見られるのは恥ずかしく、ロナルドは会話には加わらずに手元のウーロン茶に口をつけて会話を聞いていた。

    シーニャと二人で盛り上がっているところに興味を持ったショットが会話に加わるが、その話題には首を傾げる。
    元々ドラルクが外で手袋を外すことも珍しいが、数回見たことのあるその指はいつも赤いマニキュアが塗られていたからだ。

    「いつも赤いマニキュアじゃないか。何か変わったのか?シーニャはなんでわかるんだ」
    「やだ鈍いわねぇ。全然違うわよ。ねぇ?」
    「ショットさんもロナルド君と同じ事を言いますな」
    「やだちょっとロナルドぉ~あんたもそんなこと言ったの?いつも見ててなんでわからないのよ」
    「おまっ、余計なこと言うなクソ砂ァ!」

    結局流れ弾に当たって巻き込まれいつものように騒がしくしていると、ギルドの電話が鳴りマスターが退治人たちに声を掛けた。

    「下等吸血鬼が街中に出たそうです。ロナルドさん、ショットさん、退治依頼受けていただけますか?」
    「あ、行けますよ。行こうぜショット」
    「おう」
    「待ちたまえ、ロナルド君。服を整えよう」

    要請に応じて気持ちを仕事に切り替えたロナルドにドラルクも真面目に声を掛ける。
    掴み合って乱れてしまったロナルドのジャケットを丁寧に整えポンと胸を叩く。

    「良しっ、さあ行こうか」
    「あっ」

    自分の胸に置かれたドラルクの手を見て気付いた。
    その指先はロナルドの仕事着の赤と同じ色だった。

    『――――ロナルド君の色』

    あの時のジョンの言葉の意味がその瞬間理解できた。
    二人が選んだあの赤はロナルドがいつも身に纏う赤だったのだ。
    そう気付いた途端に、それを選んだ時の照れた様な表情やマニキュアを受け取った時の嬉しそうな表情、愛おしそうに瓶を撫でる姿が脳裏を過る。
    それを思うと堪らなく嬉しくて、連れたってギルドを出るとロナルドはドラルクにだけ聞こえるような小声で囁いた。

    「なあ、後であのマニキュアの色の名前教えろよ」
    「うん?どうした急に」
    「また買ってくる。あの色のやつ」
    「ほぉ、覚えておいてくれるのかね?」
    「ああ、覚えとく」

    その指先を自分の色に染めて欲しいなんて言ったら、この相棒はまたいつかのように笑いながらその身を砂に変えるだろうか。
    それとも嬉しそうに笑ってくれるだろうか。
    その答えを知るのはそう遠くない未来の話。


    ~完~
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