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    ギギ@coinupippi

    ココイヌの壁打ち、練習用垢
    小説のつもり

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    ギギ@coinupippi

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    続き。

    #ココイヌ
    cocoInu

    Nameless 2仕事は順調で、組織自体もその勢力を伸ばしどんどん大きくなっていった。
    プライベートは相変わらずで、青宗はまた「誰か」にどこか似たような男と付き合ってみたり一晩を過ごしていたし、九井はやはり特定の相手は作らないが女を切らせる事は無かった。
    その日は立て込んでいた表の仕事も裏の仕事も一旦落ち着いた頃で、まとまった休みをお互いに何ヶ月かぶりに得る事が出来た。
    九井は青宗を飲みに誘ったが予定がある、と断られればあっさりと身を引いた。
    互いのプライベートには必要以上には踏み込まないのが暗黙のルールであり、あの一件以来青宗も面倒な相手と付き合う事は無くなった。
    二人の関係も特に変わる事は無く、近すぎず遠すぎず微妙なバランスが保たれていた。

    特定の相手が居ない状態なのは久しぶりだった。
    結局本業が立て込めばプライベートに割く時間も無くなるのだからそうなるのは当然なのだ。
    本気の付き合いでも無いから続こうが切れようがどうでも良かったが、九井が女の所に行く時に自分が一人で居るのは相変わらず苦手だった。
    今夜一晩、九井が新しい女とホテルの高層階で夜景を眺めているその間だけで良いから付き合ってくれる相手が欲しい。
    そう思って行きつけの、同じ嗜好の者たちが集まるバーに足を向けた。
    以前行っていたクラブは若い連中が多かったし落ち着きの無い若さは後々必ず面倒になる。
    本気にはならない、軽い付き合いならばと了承して付き合い始めた筈なのにだんだん相手が本気になって執着を見せ始めると早めに別れる事にはしているが簡単に納得してくれないのが疲れる。
    もう誰かと長く付き合う気力も無ければ、揉めて九井に勘付かれてしまうのも困る。
    だから価格帯が上の店に行けば落ち着いた歳上の相手を見繕えると思い店を変えた。
    お陰で今のところ不快な相手は居ないしそれなりに遊べている。
    たまに顔を合わせれば寝る相手も居るが別にお互いに恋愛感情は全く持たない。
    ジンライムを片手にカウンターに座りそれとなく店内に居る人間を眺める。
    この手の店では相手を探している者が殆どであるから別にチラチラと視線を向けられるのも向けるのも咎められる事は無い。
    顔見知りに会ってお互いに視線だけで挨拶を交わす。
    好みの相手が居れば声をかけて酒を1杯奢り軽く会話をしたらどこかのホテルに行くなり、自宅に行くなりするのが定番の流れだ。
    今夜は好みのタイプは特に居なかったが、どうしてもそれで無くてはいけない訳でも無い。
    出来れば黒髪で目元の涼し気な男が良い、というあくまでも希望だ。
    以前は髪を伸ばして居たがそのせいか、束縛したがるようなタイプに寄って来られる事が多くて煩わしかった。
    それをこの店で知り合った顔見知りの男に愚痴ったら髪型のせいでは無いか、と言われたのだ。
    髪が長いとどうにも儚げで守ってやりたい、みたいな印象に見える。中身は全然正反対なのに、と笑いながら言われてそういう物なのかと思った。
    髪型に拘りなんて無かったし切りに行くのが面倒で伸ばして居ただけだ。
    九井が綺麗な髪だから伸ばしてみたら、と言ったからそれを女々しく覚えていたというのもある。
    ここ最近はそろそろこのどうにもならない熟成して腐り始めて居そうな執着と恋慕をどうにかしたいと思っていた。
    だからこれは良い機会なのだろう、と恐らく人生で初めてでは無いか、と言う程髪を切った。
    最早刈ったというのが近いくらいに。
    それを見て九井はどんな反応をするのだろうか、と内心楽しみにしていたが何てことは無い。
    短いのも似合ってるな、とたった一言だけで終わった。
    他人の容姿なんて興味がなければそんなものなのだろう。
    このバーで顔見知り数人に会えば誰か解らなかったと言われたり、勿体無いと残念がったり様々だった。
    髪型を変えるアドバイスをくれた男は極端な性格だね、とやはり笑っていた。
    ただ髪を切ったそれだけなのに、今まで支配したがるような男が多かったのに今度は逆に支配されたがったり、抱いて欲しいと請われる事が多くなった。
    自身はそんなに変わったつもりは無いのに何だか妙な感覚だった。
    しかし自分は男の裸にも女の裸にも特に下半身が反応した事が無いのだ。
    思春期に夢精をした事はあるから精通はしているだろうが、滅多に勃起はしない。
    下半身がモヤモヤしたりすれば自身で義務のように擦って出す事はしていたが、AV男優みたいにガチガチに反り立つような事も無い。
    セックスは受け身でするばかりで、中からの刺激で緩く勃つ事はあったが射精するには至らない事ばかりだった。
    後ろでイクのを覚えてからセックスは気持ちの良いものだとやっと思えるようになった。
    そんな自分が誰かを抱くなんて到底無理な話ので、抱いてくれと迫られても断るしかない。
    好きな男を前に性的な行為に及べば勃つのかもしれないがそんな事想像するのも悪い気がしてなるべく考えないようにしてきた。

    「相手居ないなら外に行かない?」

    ちょうどグラスが空になった辺りで隣から声をかけられた。
    人の良さそうな笑みを浮かべているが飄々とした印象を受ける茶髪の髪が長めの男だった。
    特に好みではないが不快なタイプでも無い。

    「いいけど、俺タチは無理だよ」

    先にそれを伝えておけば後々トラブルも避けられるから先ずはそう伝えるようにしている。
    それを聞いて男はいいよ、と気の良い返事をしてこちらの分も会計を済ませた。
    借りは作りたくないから自分の分は払うと申し出たが後で元は取るつもりだと冗談混じりに言うとスマートトに腰に手を回してきた。
    店を出てホテルの希望を聞かれたがボロく無きゃ何処でも良いよ、と言えば男の良く行き慣れたホテルに向かう事になった。
    この辺りは普通の繁華街から少し奥まった場所にあって、様々な性的嗜好の人間たちが集う街として界隈では有名である。
    だからスーツ姿の背の高い男二人が体を寄せ合い歩いていようと特段珍しい光景では無い。
    ホテルだって男同士で入店しても拒否される事も無い。
    名前は名乗りあわなかったが、年齢は話した。
    男の方が自分よりいくつか歳上だったが表情が明るいせいか年齢差はそこまで感じなかった。
    男の話す世間話に適当に相槌を打っていると、目的のホテルの前に辿り着く。
    モノトーンの落ち着いた雰囲気の造りでチラリと見た料金表の価格帯からしてもそこそこのホテルだ。
    それなら室内も綺麗だろうし風呂は広そうだから良いだろう。
    ここで良いか聞かれて頷けば行こうと腰を抱かれ入り口のアーチを潜ろうとした時だ。

    「イヌピー」

    耳に馴染み深い声と愛称が聞こえてきて振り向けば、数時間前に飲みの誘いを断った幼馴染みが立っていた。
    確か自分が断ったら最近出来た新しい女の所に行くと言っていた筈だが、何故こんな所にいるのだろうか。
    別に男と寝てる事を隠してるわけでも無いが、彼にホテルに連立って入る所を見られてしまうのは気まずい。
    単に見掛けただけなのだろう、こちらに用があるなら携帯に連絡してきている筈だろうし。
    それなら適当に挨拶してこの場を立ち去ってくれれば良いものを、幼馴染みは隣の男と自分を無遠慮に上から下まで眺めてくる。
    小声で隣の男に、修羅場?と聞かれていや、と否定したがいつまでもこちらを見て動かない幼馴染みを無視する事も出来ない。

    「…悪いけど、今日は気分じゃ無くなった」

    仕方なく男の誘いの方を断るしか無い。
    埋め合わせはそのまた会えたその時にするからすまない、と謝罪すれば男は特段怒った様子も無く了承した。
    ただの行きずりの相手にそこまで怒ような奴もそうそう居ないだろう。

    「じゃあ、次に会った時は遊んでよ。今日はこれで良いよ」

    そう言って自然な動作で青宗の顎を捉えるとちゅっ、と可愛らしい音のするキスしてからその場を立ち去って行った。
    こんなもの、挨拶のようなものなのに何故かそれを見た九井は今にもキレる寸前、みたいな顔でその男の背中を睨む。

    「変な所見せて悪かったな」

    てっきり目の前で繰り広げられた男同士のそれが嫌だったのかと思い先に謝っておいたが、何が気に入らないのか幼馴染みはギロリとこちらにも鋭い視線を向けてきた。
    それから手を伸ばしてきたかと思うとグッ、と乱雑に唇の辺りを親指で拭ってきた。

    「暇なら1杯付き合えよ」

    暇になってしまったのは誰のせいだかなと思わないでも無いが、これでまた断るのも気が引ける。
    1杯だけなら、と言う条件で付き合う事にした。
    待たせていたらしい車が目の前に止まって九井が乗り込んだからその隣に自分も身を滑り込ませて座った。

    「女と会うんじゃ無かったのか?」

    「会って食事してたら会話が怠くなって仕事の振りして抜け出した」

    「酷いな、ココの会話レベルに合わせる方が難しいだろ」

    「イヌピーとは普通に話せてるだろ」

    「俺とココとじゃまた違うだろ」

    「まあ女のご機嫌取りは秘書に適当にプレゼントでも送らせておけばいい。」

    車内でお互いに窓の外を見ながらそんな意味の無い会話を続けた。
    どうやら女と会ってるうちに気が変わったらしい幼馴染みはそのまま気分転換に車で街を流していた所で青宗が男と歩いているのを見かけたらしい。

    「だからって何で声掛けるんだよ。放っておいてくれれば良かったのに」

    「だってイヌピー、俺はひとり寂しく車で街を走ってるのにお前だけ楽しんでるのはズルいだろ」

    「それはココの勝手だろ」

    「いつもお前の我儘を聞いてやってるんだ。このくらい良いだろ」

    「そうだな、これでチャラになるなら安いものか」

    「まだまだツケは溜まってるぜ」

    「幼馴染み割引は無いのかよ」

    「そんなもん、とっくに使い切っただろ」

    言い合う冗談におかしくなって、ふっ、と笑い声が洩れてしまう。
    そうすれば釣られたみたいに隣で九井もクツクツと笑っている声が聞こえる。
    こうやって他愛もない会話を交わすのも大分久しぶりな気がする。
    それだけ仕事が忙しかったし、顔を合わせても仕事の話ばかりになっていた。
    ようやく一段落着いた所で気持ちに余裕も生まれたのかもしれない。
    たまにはこうして話すのも悪くは無いし、気を許せる数少ない時間を今夜は楽しむとしよう。
    九井は女と一緒では無いのだし、自分も男と寝る必要が無くなったのだから。

    てっきりバーかレストランに飲みに行くものだも思っていたら連れて来られたのは見覚えのある、九井の所有する都内のマンションだった。

    「何だかここ久しぶりに来たな」

    「俺もここに来るの久しぶりだわ。クリーニングは入れてるし部屋は片付いてる筈だから安心してくれ」

    受付のコンシェルジュの男の横を通れば九井様、お帰りなさいと声を掛けられる。
    それから届いていたらしい小包をいくつか手渡されていた。

    「そういや会社の方に送られてきた酒とかこっちに持ってくるように言ってたわ」

    「賄賂か」

    「ご機嫌取り程度だよ。でも良い酒だから一緒に飲もうぜ」

    エレベーターに乗り込み九井がカードキーを認識パネルに押し当てると最上階へ向かって動き出す。 
    このマンションの元の所有者は九井によって買収された会社の役員だったのを何となく思い出す。
    都内の夜景が一望出来る大きな窓がついていてそれを見ながら前にも二人で酒を飲んだ記憶がある。
    その時九井は疲れからか先に寝落ちてしまいベッドまで連れて行って自分はソファに寝たのだった。
    朝起きたてきた彼に一緒にベッドで寝れば良かったのに、と広いベッドを指して言われたがこちらからすると冗談じゃないと思った事も思い出した。
    最上階に到着するとワンフロア丸々九井の所有する部屋があり、随分と豪奢なマンションだと思った。
    後からそれが億ションと呼ばれるものだと知ったのだった。
    ロビーを抜けて室内へ入ると誰も居なかったせいかやけにひんやりとしてて少し寒気がした。
    暖房入れといてと頼まれてリビングのテーブルの上にきっちりと揃えて置かれたリモコンの中からエアコンの物を取り暖房を入れた。
    カウンターキッチンの向う側で九井がグラスと氷を用意しているのが見えた。
    ソファに腰掛けて自分の部屋にある何倍もの大きさのテレビをつければ天気予報が映し出されている。
    明日はどうやら生憎の雨らしい。きっともっと寒くなるに違いない。
    そろそろコートを出す時期だなとぼんやり考えていると、目の前に氷の入ったロックグラスが置かれた。
    薄い品の良い造りのグラスの中に琥珀色の液体が注がれていく。
    漢字で書かれた銘柄をこちらに見えるようにテーブルに置くと国産のウィスキーも悪くないだろうと言われたが、そういう事には全く詳しくないから適当に相槌を打った。
    確かに安い酒よりは高い酒の方が舌触りは良い事が多いが、安い酒でもこちらは酔えさえすれば構わない。
    酒をプライベートで飲む時は大抵酔いたい時ばかりだったから。

    「ちゃんと寝れてるのか?隈が出来てる」

    隣に座る幼馴染みの横顔にそれを見つけてつい目の下に触れそうになって、悪いと謝る。
    普段ならあまり気にも留めない仕種だったと自分でも思うのだが、男とホテルに入る直前を見られていたせいか少し気になってしまった。

    「変に意識しすぎだろ」

    却って不自然になっていると茶化すように笑って自分のロックグラスに口をつけた。
    カラリと耳障りの良い音を鳴らして氷が溶けだす。

    「今日のって、別に付き合ってる奴じゃないよな?」

    ホテル前で一緒に居た男の事を言っているのだろう。
    あんな至近距離で見られては隠しようもないし、頷いた。
    例え付き合っていようともどうせ自分があの場面で九井を選ぶ事を解っている癖に。

    「だよな。ああいうの、イヌピーのタイプじゃないだろうし」

    まるでこちらの趣味を把握しているかの言い様が少し気に障った。
    お互いのそういうデリケートな部分に無遠慮に入り込むような話題は避けるべきだろう。
    今までだってそうやって住み分けて上手くやって来たのだからこれからもそうして欲しい。
    そもそもこの男の口から自分の好みのタイプの話なんてされたくも無い。

    「…特にタイプなんかねぇよ、気分で決める。そんな話はどうでもいいだろ」

    舌に触れた度数の高いアルコールがじんわりと染み込むような気がした。
    行儀が悪いが目の前に居るのは幼馴染みだけだと気にせず指先で凹凸の多い形の氷を溶けやすいようにクルクルと回した。

    「黒髪で、目つきの悪い細身の男だろ」

    こちらはもうその話題を続けたくはないと言ったつもりだが伝わらなかったらしい。
    知っているんだと揶揄うようにそれを言われて無言になる。
    正確には目つきが悪いのではなく、切れ長の涼し気な目元が好みだが訂正する気にもならない。

    「イヌピー目立つから、そういう噂になってんだよ」

    「何処で。お前と俺とじゃテリトリーが違うだろ」

    「俺も交友関係は広い方だからな。」

    そんなもの、例え耳に入ったとしても知らない振りをするのがマナーでは無いのか。
    こちらは散々聞きたくも無い九井の付き合う女のタイプを耳にしてきては酒を飲み、他の男で紛らわせて来た。
    これからもそうやって互いの事に気付いても触れないで居たいし、今までもそうだったではないか。
    それなのに今日にかぎってはヤケに踏み込みたがる。

    「趣味悪いよ、イヌピー」

    手の中のグラスへ視線を落としてそう言った九井は、口元に笑みを浮かべているもののまるで楽しそうでは無かった。
    あの時、彼に自分の男を始末させた時点でそれが露見するのは当然だった。
    自分がどういう男を選んでいるのか。あの男は特に見た目がよく似ていたから流石に気付かれただろう。
    だがそれをどうして今になって持ち出すのだろうか。
    解っている癖にそんな言い方はキツイものがある。

    「…ココにそれを言われると、流石に堪える」

    「でもお前、マジで男見る目無いよ」

    そんな事は言われなくても解っているし、自分だってあれ以来トラブルになりそうな相手は避けてきた。
    誰かの身代わりにされる辛さなんて自分が一番知っていて酷い事をしたと思っている。
    結局あの男だって結果的には自分のせいで九井に消される事になった。
    だからもうあんな事は繰り返したりもしない。
    そうやってこの5年間は自分なりに考えてやって来たつもりだ。
    仕事の事であれば幾らでも聞くが、こちらの内面的な部分にまで踏み込まれる筋合いは無い。

    「俺の趣味についてお前がとやかく言う筋合いねぇだろ…」

    このまま一緒に居ても今夜はきっと碌な事にはなら無い。
    九井だって疲れから気が立っているのかもしれない。
    一晩寝て二人とも冷静になったほうがいいだろう。
    グラスの中の酒を一気に流し込むように飲み干すと喉が焼けるような感覚がした。

    「1杯だけ付き合ったから帰るわ」

    テーブルにグラスを置いて、ご馳走さまと形ばかりの礼を告げながらその場を立ち去ろうとした。
    だが九井の方の気はそれでは収まらなかったらしい。
    腕を掴まれて座るように促された。
    断りたかったがこちらを見透かすように見つめられては逆らえずに再び隣に座った。

    「お前が好きなのって俺の顔?それとも俺なの?」  

    酔ったというにはアルコールが足りなかった。
    なのに酔ってでもなきゃ言わないような言葉を青宗に投げ掛けてくる。
    じんわりと手の平が汗ばんで呼吸が苦しくなった気がした。
    恐らくこの気持ちはバレてるのだろう。
    解ってはいたがそれを本人から面と向かってはっきり言われるのは流石に気まずいし困る。

    「…好きで居るのも迷惑って事か」
     
    溜息混じりに吐き出した後に襲ってくる虚しさはどうにもなら無いが、そろそろこの感情をこちらも持て余し手放したいと思い始めた所だ。
    本人から面と向かって迷惑だと提示されるのはあまりに残酷ではあるが、却って諦めがつきそうな気もする。
    等と強がってみたがこの積年の禍々しいものがそれくらいで霧散してくれたならどれだけ良かったか。
    きっと家に辿り着いたらどうにかなってしまうかもしれないが、せめてこの部屋を出るまでは何とか自分を保っていたい。
    そう思って立ち上がろうとしたのを察したのか、九井の手が自分から離れていく。
    それを見てホッとしたような心地で今度こそ立ち去ろうとしたのにどういう訳なのか、離された手が今度は指を絡めるように握りこまれた。

    「そうじゃねぇよ」

    「…何のつもりだ、ココ」

    いつになく低い声と吸い込まれそうな真っ黒い瞳に見つめられて、嫌な予感がした。
    続きを言わせたくない気がして遮ろうと試みるが、口を開こうとすると、真っ直ぐに射抜くように見つめられた。
    絡ませた指がギュッと握られてその痛みに思わず眉を顰める。

    「…認めるよ、俺はお前に惚れてる」

    それはまるで、懺悔の様な告白だった。
    教会で神父に己の許されない罪を囁くような。
    それを聞いてしまったら腰が抜けたように全身に力が入らなくなって、ソファにくたりと背を預けるしかなかった。






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    ギギ@coinupippi

    DONEココイヌだけどココは出て来ない。
    またモブが出張ってる。
    パフェに釣られてイヌピーがJKからココの恋愛相談を受ける話。
    逞しく生きる女の子が好き。
    特大パフェはちょっとだけしょっぱい。乾青宗はその日の夕方、ファミレスで大きなパフェを頬張っていた。地域密着型のローカルチェーンファミレスの限定メニュー。マロンとチョコのモンブランパフェは見た目のゴージャス感と、程良い甘さが若者を中心に人気だった。
     そのパフェの特大サイズは3人前程あり、いつかそれを1人で食べるのが小学生からの夢だった。しかし値段も3倍なので、中々簡単には手が出せない。もし青宗がそれを食べたいと口にすれば、幼馴染はポンと頼んでくれたかもしれない。そうなるのが嫌だったから青宗はそれを幼馴染の前では口にしなかった。
     幼馴染の九井一は、青宗が何気なく口にした些細な事も覚えているしそれを叶えてやろうとする。そうされると何だか青宗は微妙な気持ちになった。嬉しく無いわけでは無いのだが、そんなに与えられても返しきれない。積み重なって関係性が対等じゃなくなってしまう。恐らく九井自身はそんな事まるで気にして無いだろうが、一方的な行為は受け取る側をどんどん傲慢に駄目にしてしまうんじゃ無いかと思うのだ。
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    DONEお題「再会」です。
    梵天ココ×バイク屋イヌピー。

    ところで5/3スパコミ参加します。東4 か48bです。
    来られない方は通販こちら→https://bit.ly/3uNfoFC
    再会とプロポーズ 九井一が逮捕されたことを聞いたのは、昔の仲間づてだった。
     長らく会っていなかった。龍宮寺堅とバイク屋を始めてからは、特に、そういった関係の人間と関わることもなくなっていた。ただ、九井の動向だけはどういうわけかときどき青宗の耳に入った。
     さすがにこまごまとした情報までは入ってこなかったが、ガサ入れが入ってしばらく身を隠しているらしいとか、派手な女を連れていたとか、そういう比較的どうでもいい近況はよく聞こえていた。
     だからどう、ということはない。周りが気を遣ってくれているのであろうことは分かっていたが、九井に会うつもりはなかった。
     子供の頃には、いつか大人になれば姉の面影も消えるだろうと思っていた自分の顔立ちだったが、まったくそんなことはなかった。二十も半ばを過ぎてすっかり大人になったというのに、髪を伸ばせば女のようにも見えるし、短くすれば赤音によく似た顔立ちがはっきりとわかる。そんな自分が九井の前に現れることは、古い傷をえぐることだ。わかっていたから、ずっと離れたままでいた。
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