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    saku2442

    pdl 荒新の字書き
    幸せな推しの妄想をするのが日課です

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    saku2442

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    社会人荒新
    SNSで無自覚に恋人の存在を匂わせちゃう新開さん。そんな彼のファンなモブ女子視点(あくまでファンなので彼女から矢印は出てません)

     最近、私にはお気に入りの人が出来た。
     お気に入りと言っても、手の届くところにいる人じゃない。会ったことなんてないし、話すなんて絶対に無理だ。専門の雑誌や、彼のSNSで情報を得るのがやっとって感じの人。
     新開隼人、これが彼の名前。
     プロのロードレーサーで、最近は海外でも走ってるんだって。私と彼の出会いは本当に偶然で、イケメン好きの友達に突然見せられた彼の画像から。初めて見た新開さんは、体にピッタリとしたジャージを着て、黒い自転車に跨がっていた。ハンドル部分に肘を置き、前傾姿勢で笑みを浮かべた姿に一発でノックアウトだった。そこからネットで情報を集め、公式の彼の情報は全部頭に叩き込んだ。もちろん彼のSNSまでたどり着き、いまでは毎日チェックは欠かさない。
     あ、でも誤解してほしくないのは、決してリア恋ではないということ。同担拒否なんかしないよ、むしろ一緒に彼の良さを一晩中語り明かしたい。恋人がいたとしても、たぶん許せる。さすがに私的に無理な人は嫌だけど……でも新開さんが選んだ人なら受け入れる覚悟はある。つまり、何を言いたいかと言うと…………いま私が見つけたこれを、どう受け入れたらいいかを悩んでいるということだ。

     お昼休みの社員食堂。いつものようにみんなで食事した後、新開さんのSNSをチェックしていた。今日の朝食らしい写真にはベーコンエッグ、サラダにかなり分厚いトースト。四枚切りより厚いんじゃないかと思えるそれが二枚。彼が大食いなのはとっくの昔にチェックしているので、それくらいでは驚かない。だから私が気になったのはそこじゃない、それよりももっと上。写真の右すみ上の方、角の所にマグカップらしきものが見えている。綺麗な空色のそれは、新開さんのものじゃない。だって彼のピンク色のカップは左側、トーストの上に鎮座している。
     明らかに自宅で撮ったものだと思われる写真、そして二つあるマグカップ。……いや、やめよう。これ以上考えてもいいことはない。ため息をつき、スマホを置いたところで後ろに誰かが座った気配を感じる。
    「あー、マジ腹へった」
    「んだヨ、朝メシ食ってねェの?」
    「寝坊してギリだったんだよー」
    「ハッ、自業自得だな」
     聞こえてきた声にチラリと振り返ると、見たことある顔だった。荒北さん、顔も口調もキツいけど、実際は面倒見がよくて優しいんだって女子社員の中で密かに人気ある人だ。
    「なんだよ、じゃあ荒北は朝なんだったん?」
    「朝? メシのことか」
    「そうそう」
     私に聞き耳立てられてるとも知らずに、二人はどんどん話を進めている。
    「あー、ベーコンエッグとサラダとトースト。あとコーヒーな」
     へー、新開さんの朝食とメニュー一緒だ。よくあるラインナップとはいえ、こんなに被ることもあるんだ。
    「すっげ、まともな飯じゃん! あ、彼女帰って来た?」
    「おとといな」
    「へー、いいなぁ。オレも朝から恋人の作ってくれた飯食いてー」
     恋人……そう、荒北さんには恋人がいる。仕事が出来る人なのか、しょっちゅう海外出張に行くんだって。もう一度チラリと後ろに視線を送ると、口許を緩めた荒北さんの顔が優しくて少しだけドキッとしてしまった。彼女がすごく愛されてるんだって、その顔だけで伝わってくる。新開さんのあのカップが恋人のものだとしたら、あんなに感じの優しい顔で食べてたのかな。そう考えると、恋人の存在はぜんぜん有りな気がする。やっぱり、推しが幸せだと私も幸せだ。



     新開さんのSNSは食べ物の写真が多い。次に自転車、動物と続いて、自撮りは二十回に一回あるかないか。それでも推しの日常が知れるのは嬉しいし、どんな些細な情報だって見逃したくない。そうして、今日もチェックしていた彼のSNS。昨日の晩ご飯なのか、皿に山盛りの唐揚げが写っている。いつも通りそこに彼の姿はないけれど、新開さんの手料理が見られるだけで私は幸せだ。
     幸せ、なんだけど……今回もひとつ気になる物が写り込んでいる。大皿の横、テーブルの端にスマホが置かれていた。SNSにアップする写真を、わざわざデジカメで撮る人はそうそういない。きっとこの写真も新開さんが自分のスマホで撮っているはずで、なら一緒に写ってるのは誰のものですか。新開さんは携帯二台持ちなんですか? 仕事柄二台持ちの人はいるけどね。この感じは違うと思うんだよなー。
     どうにも気になって、過去の画像も見返してみる。そうしたら、色々出てきましたよ。お誕生日のホールケーキ、切り分けもせず直接食べたらしいそこには二本のフォーク。マグカップだけじゃなく、揃いのお茶碗も見切れてますよ。飲み始めたばかりのはずなのに、二本のビール缶。
     見てすぐにわかる物以外にも、気になる物がいくつかあった。例えばネイビーブルーのキーケース、ソファの背に無造作に置かれているスーツのジャケット。お気に入りだっていうスニーカーの横に置かれた革靴。全部、新開さんの持ち物としてはちょっとおかしい。そんな写真がゴロゴロ出てくる。そうは言っても女性の物でもないし、決め手として欠ける物ばかり。
     一度SNSを閉じ、今度は『新開隼人 彼女』で検索してみた。最初に出てきたまとめサイトをクリックして、内容を確認する。どれも信憑性に欠ける情報ばかりで、ため息をつきながら画面を閉じようとした。そこで目に入った文字に、指が自然と止まる。『首のチェーンの先には指輪が』この一文の下にはご丁寧に写真まで載せてあった。そこにはサイクルジャージのファスナーを開けた新開さんがいて、胸元に光るのはチェーンに通された飾り気のないリング。
     あ、これ完全にペアリングだ。
     ガックリとうなだれ、一度深く息を吸い込む。そして顔を上げ、次にはこう自分へ言い聞かせた。
     新開さんが選んだ人なんだから、絶対にいい子だよ! だから全力で応援しよう。そもそも推しの恋を応援出来ないような、心の狭いファンにはなりたくない。推しの幸せが私の幸せなんだから。



     誓ったとおり新開さんに彼女がいるとわかってからも、私は変わらず彼を推している。今日は通勤途中に覗いたSNSで、手作りしたお弁当の写真がアップされていた。男の人が作ったにしては彩りよくて、玉子焼きがハートの形になってたのにはビックリしたな。彼女にも同じ物を作ってあげたのかな、と思うと少しだけ羨ましい。だって、私は今日も社員食堂の日替わり定食だから。
     とはいえ自分で作るよりは美味しいご飯を、食べられるだけまだマシか。席を立ち食堂へ行こうとしたところで、上司に声をかけられた。違う部署まで書類を届けてほしいと言われ、断る理由もないので快く了解する。食事前に済ませてしまおうと、先に立ち寄ったフロアにはまばらに人が残っていた。まだお昼に行ってないといいんだけど、辺りを見回しお目当ての人物を探す。そうして見つけたお使いのお相手。席に着いたままの彼の元まで、真っ直ぐに歩いていく。
    「荒北さん」
    「ア?」
     側まで近づき声をかけると、お箸を持った彼がこちらへ顔を向けた。
    「あ、お食事中だったんですね。すいません」
     軽く頭を下げ謝ると、彼は箸を置いてこちらへ向き直る。
    「別にいーヨ。で、なに?」
    「はい、こちらうちの課長からです」
     両手で書類を差し出すと、荒北さんはそれを受け取ってから少しだけ表情を緩めてくれた。
    「わざわざ、あんがとな」
    「いえ、こちらこそ。お邪魔してしまって」
     チラリと机の上に視線を送ると、そこには可愛らしくも美味しそうなお弁当が乗っていた。
    「彼女さんの手作りですか?」
    「あー、まァ」
     もしかしたら照れてるのか、頭をガシガシ掻きながら荒北さんはそっぽを向いてしまう。彼女さん愛されてるな~と、思わずこちらも笑顔になる。
    「それじゃあ、私はこれで失礼します」
     これ以上は本当に邪魔になるなと、最後にもう一度頭を下げその場を立ち去った。荒北さんのお弁当を見たせいか、くぅと小さくお腹が鳴って周りに人がいなくて良かったとほっとする。
     それにしても、荒北さんのお弁当は美味しそうだった。ちゃんと手作りされたハンバーグに、玉子焼き、ほうれん草のバター炒めにポテトサラダ。彩りもバランスも良くて、玉子焼きはハートの形だった。
     ん、あのお弁当どこかでみた?
     立ち止まり腕組みしながらしばし考える。そう遠くない記憶、あのハートの玉子焼きなんて今日見た気が……。
     そうだ、新開さんのお弁当!
     ハッと記憶が繋がって、慌ててスマホを取り出した。SNSのアプリを開き、すぐに新開さんのホームへ飛ぶ。そして今朝の写真を画面いっぱいに開き、まじまじと眺めた。ついさっき見たそれと、全く同じラインナップに指先が震える。
     まって、まって、こんな偶然ってある? そうだ以前食堂で同僚と話してた荒北さんの朝食も、全く同じじゃなかった? あれ、今日の荒北さんのスーツも見たことある。机に乗ってたスマホの機種は? 靴は? 指輪……はしてなかった。でも新開さんと同じように、首から下げてたらわからない。
     いや、いや、いや、だって新開さんと荒北さんの接点ってなに。プロのロードレーサーと普通のサラリーマンよ、どこで会うっていうのさ。
     うん、ぜ~んぶ気のせい! たまたまこういうこともあるってことで。
     そう気を取り直し、お昼を食べるべく食堂へ向かった。でもどうしても気になって、同僚に荒北さんの恋人のことを尋ねてしまった私は悪くないと思う。そして、私の中の疑惑が確信へと変わってしまったのはしかたない。
     けどね、やっぱり推しの幸せが私の幸せで、しかもその恋人は彼を思う時あんなに優しい顔をする。だから彼ら二人は、とても幸せに過ごしてるんだって。そう思えるから、これはこれで良かったと思う今日この頃です。
     ――推しよ、永遠に幸せでいてくれ! ってね。
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    Replies from the creator

    saku2442

    DOODLE大学生荒新
    お昼時にメッセージのやり取りをする荒新のお話。待宮さんも登場します。
    だって、君は特別。
     うどんを一口すすったところで、テーブルの上のスマホが震えた。すぐに止まったそれは、通知を知らせるためにピカピカ光る。箸を置き、代わりにそいつを手に持った。素早くロックを解除し、送り主を確認すると想像していたヤツからのメッセージ。
    『うまそうだろ!』
     その一言と共に送られてきた写真。そこには分厚いカツの乗ったカレーが写っていた。昼食にしては中々のボリュームだが、こいつなら平気で平らげるだろう。口いっぱいに頬張り、幸せそうに食べる姿を思い浮かべ自然と口元が緩む。
    『うまいからって早食いすんなよ』
     そう文字を打ち込んでから、テーブルへスマホを置き食事を再開させた。
     新開はこうして、自分の食べる物を撮ってよこすことがある。それ以外にも澄んだ青空、季節の花や路地裏の野良猫。何気ない日常を切り取ったようなそれらに、オレはいつも癒やされている。本音は恋人の写った写真の方がいい。けど自撮りが下手なこいつは、まともな写真をよこしたことがなかった。たまに福ちゃんが送ってくれる写真の方が、よっぽど上手く撮れている。
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    recommended works

    ちょびを

    DONE祓本パロ。悟が収録中に日ごろの傑への不満を訴える話。前後の話2本ほどまとめて支部にのっけます。
    ちどりさんの某番組ネタとか諸々参考にしてます
    来週もまた見てくださいね! カチンコが鳴り、スタジオに心地よい緊張が広がる。
     女性アナウンサーが透きとおった声で口火を切った。
    「さぁて始まりました、『これだけ言わせて!』今週はゲストに俳優の七海健人さん、灰原雄さん、そして女優の家入硝子さんをお迎えしてお送りします」
     セット外にいるアシスタントがタオルを振り、観覧席から拍手と黄色い悲鳴があがった。順調な滑り出しにアナウンサーは小さくうなずいた。横一列に並んだゲスト席を向くとわざとらしく目を見開き、上ずった声を出す。
    「ってあれ、五条さん? なぜゲスト席に座っているんです?」
    「どーも」
     軽快に手を振る五条悟と私、夏油傑のお笑いコンビ祓ったれ本舗。
     2人がメインMCを務める冠番組『これだけ言わせて!』は、ゲストが持ち込んだ提言を面白おかしくイジり、番組内で叶える構成になっている。モテないと悩んでいる先輩芸人がいれば大改造に取り組み、いっぱい食べられるようになりたい! と言うゲストがいれば、私と悟も1週間のフードファイトに付き合ってきた。
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