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    saku2442

    pdl 荒新の字書き
    幸せな推しの妄想をするのが日課です

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    saku2442

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    大学生荒新
    お昼時にメッセージのやり取りをする荒新のお話。待宮さんも登場します。
    だって、君は特別。

     うどんを一口すすったところで、テーブルの上のスマホが震えた。すぐに止まったそれは、通知を知らせるためにピカピカ光る。箸を置き、代わりにそいつを手に持った。素早くロックを解除し、送り主を確認すると想像していたヤツからのメッセージ。
    『うまそうだろ!』
     その一言と共に送られてきた写真。そこには分厚いカツの乗ったカレーが写っていた。昼食にしては中々のボリュームだが、こいつなら平気で平らげるだろう。口いっぱいに頬張り、幸せそうに食べる姿を思い浮かべ自然と口元が緩む。
    『うまいからって早食いすんなよ』
     そう文字を打ち込んでから、テーブルへスマホを置き食事を再開させた。
     新開はこうして、自分の食べる物を撮ってよこすことがある。それ以外にも澄んだ青空、季節の花や路地裏の野良猫。何気ない日常を切り取ったようなそれらに、オレはいつも癒やされている。本音は恋人の写った写真の方がいい。けど自撮りが下手なこいつは、まともな写真をよこしたことがなかった。たまに福ちゃんが送ってくれる写真の方が、よっぽど上手く撮れている。
     まあ、それは置いといてだ。オレは新開がこうしてマメにメッセージを送ってくるとは、正直思っていなかった。なぜなら高校時代あいつは、携帯を持ち歩かないことで有名だったから。東堂に「おまえは携帯を持つ資格がない」とまで言われていた。メールはその日の内に返ってくれば早い方だったな。実際オレも、あいつとは直接話した方が早いと思っていたし。
     それがいまでは、一日に数度メッセージを送ってくる。オレもそうだったけど、離れてようやくわかったんだろう。すぐそばで顔を見て話せる距離は、実は恵まれているんだって。
     会いたい時に会えない。声を聞きたくても、電話すら出来ない時もある。たとえすぐに反応がなくても、メッセージひとつでも繋がっていたい。お互いそう思うのは必然だった。
     うどんと一緒に買ったおいなりさんを口に放り込むと、前の席にトレーが置かれる。目線を上げた先には待宮がいた。
    「珍しいな、彼女はァ?」
    「午後が休講になったけぇ友達とランチ行くんじゃと」
    「ふーん」
     拗ねたような口調の待宮がおかしくて、勝手に口角が上がってしまう。
    「違うけぇな! ワシから行ってこいって言うたんじゃけぇな」
    「オレなんも言ってないしィ」
     ぐぅ、と息を詰め待宮は目の前のカレーをスプーンで掬った。新開もいま頃、カレー食べているんだよな。ちょっとしたことで、すぐ恋人を思い出してしまう自分には苦笑いするしかない。本当は待宮のことをからかえる立場でもないんだよな。そう考えながら、残りのうどんを一気にすすった。そこでまた、テーブルの上のスマホが震え出す。手に取り覗いた画面には、恋人の名前。そうして送られてきたメッセージ。
    『靖友のいうこと聞いたぜ! いまやっと半分だ』
     そしてカレーと一緒に、新開の姿が写真には収まっていた。しかしカレーにピントが合っているせいか、新開の顔はボケボケでしかも半分しか写っていない。それでも可愛いと思ってしまうオレは大概だよな。
    『いうこと聞けてえらい。残りもゆっくり食えよ』
     速攻で返事を送ると、目の前から視線を感じ顔を上げる。そこにはジトッとこちらを見る待宮がいた。
    「んだヨ」
    「新開か?」
    「……だったらなに」
    「おまえ新開にゃあすぐ返事するんじゃのぉ」
    「はァ?」
     待宮の問いかけに訳がわからず首を傾げる。すると大きくため息をつき、待宮は呆れた顔をした。
    「われいっつも既読つけてからすぐ返事せんじゃろ」
    「そうかァ?」
    「そうじゃ、ひどい時は次の日じゃ」
     そうだったか? 確かに何回か忘れたことはある気がするけれど、普通に返していると思う。しばし考えていると、目の前のテーブルを指でトントンと叩く音がした。それにつられ顔を上げると、待宮は前髪をいじりながらこちらを見ている。目が合うと同時にニタリと笑ったその顔に、嫌な予感しかしない。
    「そりゃ恋人は大事だよな」
     いっそう口端を上げそう言った待宮は、完全にからかう気満々だ。こうなったこいつを躱すのはなかなか面倒くさい。例えばうるさいと突っぱねたとする、絶対に照れるなと囃し立てるはずた。かと言って無視するのも得策ではない、これも同じように茶化してくるだろう。
     対応策をいくつか考えていると、手の中のスマホがまた震えた。それに目をやると、完食の文字と皿を両手で持った新開の写真。今度はちゃんとフレームに収まっている新開に、これは石垣に撮らせたなとすぐピンとくる。
     この可愛い恋人に、次はなんと返そうか。
     しかしその前に面倒なことを片付けておこう。スマホから、待宮へ視線を移しニッと口角を上げた。
    「そもそも、こいつとおまえらを一緒にすんのが間違いなんだヨ」
     そう言い残し、トレーを持って席を立つ。ポカンと口を開けた待宮に、してやったりと笑いがこみ上げる。
     でも、これは嘘じゃない。オレにとって新開は特別で何より大切だ。他と比べるなんて出来やしないんだっての。
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    saku2442

    DOODLE大学生荒新
    お昼時にメッセージのやり取りをする荒新のお話。待宮さんも登場します。
    だって、君は特別。
     うどんを一口すすったところで、テーブルの上のスマホが震えた。すぐに止まったそれは、通知を知らせるためにピカピカ光る。箸を置き、代わりにそいつを手に持った。素早くロックを解除し、送り主を確認すると想像していたヤツからのメッセージ。
    『うまそうだろ!』
     その一言と共に送られてきた写真。そこには分厚いカツの乗ったカレーが写っていた。昼食にしては中々のボリュームだが、こいつなら平気で平らげるだろう。口いっぱいに頬張り、幸せそうに食べる姿を思い浮かべ自然と口元が緩む。
    『うまいからって早食いすんなよ』
     そう文字を打ち込んでから、テーブルへスマホを置き食事を再開させた。
     新開はこうして、自分の食べる物を撮ってよこすことがある。それ以外にも澄んだ青空、季節の花や路地裏の野良猫。何気ない日常を切り取ったようなそれらに、オレはいつも癒やされている。本音は恋人の写った写真の方がいい。けど自撮りが下手なこいつは、まともな写真をよこしたことがなかった。たまに福ちゃんが送ってくれる写真の方が、よっぽど上手く撮れている。
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