サキュバスに淫紋つけられた弟子と1週間アレした「また厄介な…」

　大戦後、困った事のひとつに魔界のパワーバランスの崩れがある。
その頂点に君臨していた大魔王バーンがいなくなったこと、また地上のモンスターと魔族を統率していたハドラーも居なくなったことで、地上と魔界の境界がひどく危ういものになってしまった。
　今はまだ、敗戦直後であまり目立った動きはないが、頭の切れる魔族は気付き始めている。それに伴って魔界から人間界へ繋がる各所を探し出しては斥候のような者を送り出して来ている。
　そのことを知っているのは大戦時の主要国要人とアバンの使途達、そして俺とノヴァ位なものだった。市井の人々にはまだ知らせるべきではないないというのがレオナやアバンの見解であり、魔界につながる場所を先んじて封印する為にアバンの使途達が各所に散って行った。
　ノヴァも俺の弟子として市井の中に本来は入るのだが、そうは言っていられない場合もありランカークスやベンガーナ周辺においては助っ人として駆り出されることも多い。今回も同じように魔界からの侵入者の駆逐要請でポップの護衛として出動した際におこってしまった。

　ポップに体を支えられてよろよろと工房に戻ってきたノヴァの口には猿轡をかまされて腕は後ろ手に拘束されており、吐く息は荒く目の焦点は合わずに蕩けていた。そして何より発汗によるその体臭がいつもと違っていた。
「ロンベルクさんよ…あんたの弟子だけど」
「いやいい、みなまで言うな」
「思い当たる節は有る訳ね。じゃあ責任もって引き取ってくれよな…マトリフ師匠の見立てじゃ幸い恒久的なもんじゃないみたいだからよ」
そう言ってポップが捲り上げたノヴァの上着の下にはハートの形に似た模様がが光っていた。
「へんふぇいぃ…♥」
心なしか溶けた瞳の瞳孔も同じ形に見えた。

　その後のポップの話では魔界から現れた魔族はいわゆる淫魔類いで、魔法使いであるポップの盾として先行したノヴァが瘴気に充てられてしまったということだった。もちろんその淫魔は消し炭にしたそうだが。こいつに護衛はいらんだろ。

「もうね、ここに連れてくるまで大変だったんだぜ？こいつ男にも女の子にも色目使うんだよ…とくに男に！女のコにもそれなりに反応してたけど、男に反応するの！特に大柄な男とか黒髪とかストレートな長髪によぉ？」

　宿屋で休憩させるにも、全方位に色目を使って迫るし淫紋のせいでその体臭で相手もその気になりそうになるしで、俺が連れてくるしかなかったんだよ！か弱い魔法使いの俺が！と。弱い魔法力でノヴァの体臭からくる魔香気を遮断してるポップが心底迷惑そうに言う。今回の同行者がポップで本当によかった。
　じゃなければノヴァが俺以外の誰かと…そこまで考えたら意味もなく腹が立ってきた。

「じゃあな、自分のよ…弟子は自分で何とかしてくれよ！」

　酔ったようにふらつくノヴァを俺に押し付けるとポップはルーラで去って行った。
「せんせい？ね？早くしましょう？ボクもう…」
　口も手も自由になった弟子に全身ですり寄られて頭を抱えつつもこれはこれでと思う程度にはすでにノヴァと懇ろになってしまっていた自分に腹が立つし股間も勃った。
　ここが森の奥深く人里離れた場所でよかった。　

　なお、ノヴァが正気に返るまで1週間ほど工房は店じまいするほかなかった。