好きなのは「緑谷が好きなのは─」
轟の声にぴくりと反応してしまう。俺の耳はなぜかその名前を勝手に拾ってくるようになっている。
「うーん、みんな好きなんだけど…」
「こないだのかおりか?」
「かおり…も好き…だけどあかりも好きなんだ…」
おいこらクソデク、てめえどういうことだ?!
おぼこい顔しとるくせに、てめえの貞操観念どうなっとんだ?!
顔と貞操観念の関係性などないのだが、とにかく出久の口からポンポン好きだなんだと出てくるのが気にくわなかった。
「お?前はゆかりじゃなかったか?」
「や、ゆかりもなんだけど…そうなってくるとうめこも捨てがたいよ…」
う め こ ??!!
まじで…どうなっとんだ…どうしちまったんだよ…あのかわいかった出久はもういねえのか…?
「でも今はひろしが一番好きかな?」
ガタッ
ゆらり
「……いずく…」
「かっちゃん?どうしたの?」
「…てめえが…てめえが誰を、好き、でも…クソッ…好きでも…いい…」
ピッ
「??かっちゃん??」
「……ただなあ……そんなフラフラしたこと言っとんなよ……一番がおんのなら……ソイツだけにしとけやっ…」
「……かっちゃ、んんっ……」
ンだよ…その顔…
「かっちゃん…なんて、いっ、言ったらいいんだろぅっ…ンンっ…」
あ?何笑っとんだ。
「爆豪、ふりかけの話だそ?」
「あっ轟くんっ、そんなバッサリっ、かっちゃん怒っちゃうよ。だからどうやって話そうかって僕思って─」
な、は、あ?!ふりかけ??!!
「…ってめ、紛らわしい言い方しやがって…」
手からは無意識に火花が溢れる。
「か、かっちゃんが勘違いしただけだろっ?!」
一触即発、どちらかが動けば開戦だ。とその時だった。
「緑谷が好きなのは爆豪だけだから安心しろ」
「わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!」
BoooOooOom!!!
暴発したのは個性発現の頃以来だったが俺は冷静だった。冷静に話し合いをするべく冷静に手刀をキメ、それはそれは冷静に出久を担ぎ冷静に部屋へと戻った。類い稀なる冷静さで。冷静を体現したかのような俺が。冷静の権化、冷静に愛された男ことこの俺が。
*
「あんな焦ったバクゴー見たの初めてだったな」
「上鳴もっかい見ようぜ!」
「おい峰田、そのへんにしとけよ。上鳴もその動画消しとけよ?」