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    カンパ

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    たいみつワンライ

    #たいみつ

    二人の関係(たいみつ) 二人の関係? 知らないよそんなの……。なんせ彼らのことを知ったのはほんのついさっきのことなんだ。
     ここは喫茶店で、俺は店員で、来週に迫った彼女とのデートに向けてバイトに明け暮れるしがない大学生だ。専攻は国文。女ばっかしの学部だよ。でもそこで俺は天使に出会った。アキちゃんだ。マッシュウルフの髪が似合うちょっと個性的な女の子。口癖は「ねえ、それって本当に必要?」
     彼女の家はあまり裕福ではなくて、大学も奨学金で通っているらしい。だからお金の使い方にはちょっぴりうるさかった。学食も使わずに毎日弁当持参だし(これがまた美味しいんだ)、デートだってほとんどが互いの家で遠出などしたことがない(それはそれでエッチな展開に持っていきやすいからいいのだ)。そんな彼女との交際一年記念日に、オレはささやかなサプライズを企画しているのである。高価なものをただ贈るだけでは怒られるのが目に見えてるから、オレとお揃いという体で、ほんの少し値の張る腕時計をプレゼントする予定なのである。なにこの高そうな時計、ねえ、それって本当に必要? そう言ってくるであろうアキちゃんに俺は毅然とした態度でこう返すのだ。いやいやアキちゃん。これはね、俺が欲しかったの。で、きみに贈るとかそういうのは関係なしに自分で自分に買って、あまりに使い勝手が良かったもんできみのぶんも買ってみたんだ。だから気にしなくていいんだよ。必要か必要でないかと言われれば、まあ、必要じゃないかもしれないけどさ。
     うん、完璧。きっとアキちゃんは困ったような顔をしてそれでもほんのりはにかんで、もう無駄遣いばっかりして、ってその腕時計の箱をやさしく撫でてくれる。かわいいアキちゃん。俺はきみの喜ぶ顔が見たいだけ。
    「大寿くん、それって本当に必要?」
     ぎくりとした。聞き覚えのある口癖。しかしその台詞を発したのはアキちゃんではなかった。喫茶店の隅の席、アキちゃんとおんなじマッシュウルフの細身の男が、絶対にカタギじゃない屈強な男を目の前にメンチを切っている。
    「こんな高い腕時計貰えねーよ」
    「べつにテメェに貢いでるわけじゃない。オレが同じ型のを買って、使い勝手が良かったから勧めてるだけだ」
     大寿くんと呼ばれた男は、どうやらメンチを切っている優男に高価な腕時計を贈ったらしかった。それで、高すぎるもんをよこすなと怒られていると。あれ、なんかこの展開、なんとなく俺のラブラブサプライズ大作戦に似ているぞ。いやアキちゃんは俺にメンチ切ったりなんか絶対にしないけど。
    「使い勝手がいいからってグッチの時計ぽんってよこすんじゃねぇ!」
     いいじゃんグッチ。もらっとけよ。あっ、箱投げやがったあいつ! いらないなら俺にくれ。つーかあの二人、どういう関係? 使い勝手いいからってグッチの時計をぽんって渡す間柄って何? 大寿くんとやらがやってることはまるで来週の俺みたいで、優男はまるでアキちゃんみたいな感じだけど……、ってことは、あの二人って恋人?
    「無駄遣いするなって何回も言ってるよな」
     うっ。俺に言われてるわけじゃないのに刺さる。いやいや、無駄遣いじゃないんだよ。必要経費だよ。だって俺はアキちゃんを喜ばせたいだけで、それは絶対に必要なお金じゃないか。
    「無駄遣いじゃねぇ。テメェこそ意固地になってんなよ」
     ん〜、大寿くん。そこは素直に、下手な言い訳しちゃったけどきみに喜んで欲しくって贈ったんだよ、って言ったほうが丸く収まるんじゃないかな? いやでもわかる、大寿くんの気持ちもわかるよ。こっちは恋人の気持ちも汲んだ上で、どうしたら納得してプレゼントを貰ってくれるかいろいろ考えてるわけだよね。それであのへたっぴな言い訳に至るわけだ。言い訳ってバレてもいいんだよな。ただ、下手くそな言葉を並べてもなおきみに何かを贈りたかったんだって、そこを汲み取ってくれればさ。
    「だからって会うたびにブランドもんの鞄にスーツにアクセサリーを買ってくるやつがあるか!」
     ああ、大寿くんそれはやりすぎかも。完全に嬢に貢いでる勘違いおじさんじゃんそれ。つーか会うたびに高級ブランド品を渡してるって一体どんな仕事してるわけ? やっぱり絶対カタギじゃないよ。
    「オマエが喜ぶもんがわかんねぇから手当たり次第渡してるだけだ。オマエがさっさと何が欲しいか言えばこんな馬鹿みたいなことは今すぐにでもやめてやる」
     お、大寿くんがほんのちょっぴり素直になった。わかるよ。喜ばせたいんだよな。笑顔が見たいの。俺もアキちゃんが笑ってる顔ずっと見ていたいもん。マッシュウルフの優男も、大寿くんの言葉に少し怯んだらしい。ウッ、そんなこと言うの卑怯だぞ、なんてぶつくさ言っているのが聞こえてきた。
    「オレは物なんていらないんだよ。……こうやって、大寿くんと向かい合ってコーヒー飲めるだけでも、幸せだし」
    「三ツ谷」
    「ああもう、こんなこと言わせんなよばか!」
     ヒ、ヒエエ。三ツ谷くん、きみ、かわいいね。めちゃくちゃかわいいじゃん! ついさっきまでメンチ切ってグッチの腕時計の入った箱を投げていた人とは思えないしおらしさだよ。ほら、大寿くんの怖い顔もちょっとやわらかくなってるよ。ウワ〜なにこれ少女漫画みたいじゃん。でもおふたりさん、ここ、駅前の喫茶店だからね。まわりの客も俺も他の店員もみんなみんな、きみたちの動向に釘付けだからね。みんながみんなきみたちをじっと見守るせいでオーダーも止まっちゃって、厨房の連中ですらこちらに顔を覗かせてるからね。
    「……大寿くん、ごめんね、時計投げちゃって」
    「前に、俺の体ごと持ち上げて多摩川に投げられたことに比べちゃどうってことない」
    「もう、恥ずかしいこと思い出させんなよ」
     三ツ谷くん、大寿くんのあの巨体を持ち上げて多摩川に? 二人の様子を伺っていた隣の席の女の子の顔が青くなっている。カタギじゃないのは大寿くんだけだと思ってたけど、三ツ谷くんもヤベーやつだたぶん。
    「あーあ、喧嘩したらお腹減ってきちゃった」
    「なんか頼むか?」
    「そうだね。あ、すいませーん」
     唐突に二人の物語に呼ばれた俺は、メニュー表を片手に慌てて駆け寄る。近くで見る二人はとても整った顔をしていて、荒れ放題のテーブルの上にはブランドロゴが光る箱(角が破れている)と、そこから取り出されたらしい高級時計があった。うわ、高そう。よくコレ投げられたな。
    「本日のパスタをふたつ。あとホットコーヒーのおかわりも」
    「かしこまりました」
    「あと、うるさくしてごめんね」
    「あ、いえ、むしろ来週のサプライズに向けてお勉強させていただきましたので、ありがとうございました」
     頭を下げながらメニュー表を受け取ると、三ツ谷くんはそのたれ気味な大きな瞳をぱちくりとさせて「何言ってるかわかんないけど、お役に立てたんならよかった」と言って笑った。大寿くんはというと、三ツ谷くんに笑いかけられた俺を、殺す気か? ってくらいに睨みつけていて思わず背筋がふるえる。おお怖。まあでもきみの気持ちはわかるよ。大切な恋人に変な虫がつきそうだったらそんな顔にもなるよな。でも安心してくれ。俺はアキちゃんに一筋だから。でも、そうだな、一周年記念に揃いの腕時計を贈るのはやっぱりやめておこうかな。だって互いに顔を見合ってコーヒーを飲むのがいちばんの幸せだもんな。勉強させていただきました。ぜひとも参考にさせていただきます。
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