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    seeds_season

    @seeds_season

    ただいまmhyk小説(メインはミス晶♂・全年齢)がしがし書いてます

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    ミス晶♂風味SS。 初めて見るその姿は。

    ※第二部冒頭のネタバレあり。二度目の視察に際しての裏話捏造

    (2022/11/12 ミス晶くん版ワンドロワンライ・第一回「初めて」参加作品を加筆修正)

    旋毛 魔法舎の視察が行われるという通達が来たのは、数日前の話だ。
     賢者の魔法使いが全員参加することが絶対条件だとクックロビンさん経由で伝えられて、あちこちから不満の声も上がったけれど、そこは各国の先生役と俺とで必死に説得と交渉を繰り返して、何とか全員の同意をもぎ取った。
     何せ、この通達は二回目なのだ。一回目はちょっとしたアクシデントがあってお流れになってしまったのだが、今度こそはヴィンセントさんに魔法舎の様子を見てもらい、少しでも魔法使い達のことを知ってもらいたい。
     視察と言ってもそう堅苦しいものではなく、普段通りの生活を見せればいいと言われているので、感覚的には授業参観みたいなものだろう、なんて呑気なことを考えていた俺は、視察当日、広間に勢揃いした魔法使い達を見て、その考えが甘かったことを心から思い知った。

    「じゃじゃーん! 見てみて、賢者ちゃん!」
    「どうじゃ、我らのかわいらしい姿は」
    「……私は反対した」
    「僕もだ」
    「おや? 折角だから特別なおもてなしを、という提案には皆さん賛成なさったじゃありませんか」
    「まあ、こういうのも面白いんじゃない?」

     口々に話しかけてくる各国先生役の、その声がやけに甲高い。
    「……すみませんが、状況を説明して頂けませんか」
     いつもなら見上げているはずの顔ぶれを眼下に拝みながら、俺は精いっぱいの気力を振り絞って、そう願いしたのだった。


     そう――前回は全員、女性の姿に変身していた。
     誰が言い出したのか、そして何故全員がそれに乗っかってしまったのか。それを問い質そうにも時間がなく、やってきたヴィンセントさんには『変身魔法の実践訓練をしていたんです』という、かなり苦しい言い訳をしたけれど、流石に通用しなかった。
     額に青筋を浮かび上がらせ、無言で踵を返したヴィンセントさんに、ドラモンドさんと二人で「ああー……」とがっくり肩を落としたのは記憶に新しい。
    「次こそは頼みますぞ!」
     と懇願され、「善処します」とは答えたものの、俺のお願いを彼らが聞いてくれる保証などどこにもない。
     ヴィンセントさんと魔法使い達、双方の説得を続けつつ、再調整してもらった二度目の視察の日だというのに――何故今度は全員、子供の姿をしているのだろう。

    「子供の姿なら無闇に警戒されないじゃろうし、何より可愛いじゃろう?」
    「この姿で出迎えれば、あの堅物もイチコロよ!」
     キャッキャとはしゃぐスノウとホワイトは、普段より若干幼い見た目になっている。
    「正直、双子が変身する必要性を感じないんだが」
     げんなりと呟くファウストは、姿が小さいのに色眼鏡と帽子がそのままなので、かなりちぐはぐな印象だ。
    「ふふ、ミチルの小さい頃の姿を見られて、僕は嬉しいです」
    「僕もです、リケ!」
    「いや、正直二人とも大して変わってな……いや、何でもねえよ」
     口ごもるネロの隣では、シノがヒースクリフを絶賛している。
    「子供の姿になっても、やっぱりヒースは格好いいな」
    「どこがだよ……。でもこの姿、ちょうどシノと知り合ったくらいの年齢だよね。何だか懐かしいな」
    「……お前の幼い姿を見るのは、久しぶりだ」
    「オズ様の幼少期の姿を拝見できて、私はとても嬉しいです!」
     懐かしそうな瞳でアーサーを見つめるオズと、いつも以上にはしゃいでいるアーサーの姿に、思わず胸が熱くなったけれど――ここで流されては駄目だ。
    「あのですね……普段通りの生活を見たいという要望に対して、全員幼児化しているというのは、さすがに『微笑ましい』では済まされないと思うんですが……」
    「僕が提案したんです。賢者様にも、きっと喜んでもらえると思って」
     そう言ってきたのは、何とラスティカだった。
    「魔法使いは長命ですから、幼少期の姿を知っている間柄というのは稀なんです。僕はクロエの小さい頃を知っていますが、クロエは僕の子供の姿を知らない」
    「そうそう! だから、折角の機会だし、みんなの小さい頃の姿を見られたら、賢者様や視察に来る人達も楽しいんじゃないかって思ったんだけど……駄目だったかな」
    「いえその……駄目ではないんですけど……」
     しょんぼりと肩を落とすクロエの姿にあっさり絆されかけて、いやいや! と再度心を奮い立たせようとした、その瞬間。
    「賢者様は嬉しくないんですか?」
     そう尋ねてきたのは赤毛の少年――ミスラだった。
    「賢者様が喜ぶとこの人が言うから、わざわざ変身してやったんですけど」
     見上げてくる深緑の双眸。その目元には見慣れたクマもなく、体のあちこちにあった縫合痕も消えているので、随分と印象が違って見える。何より――いつも見上げている相手の旋毛つむじが見える、というのはあまりにも目新しくて、思わず頬が緩みそうになる。
    「……俺より小さいミスラって、なんだか新鮮ですね」
     思わずそう呟いてしまったら、ミスラは明らかにムッとした顔をした。
    「……喧嘩売ってます?」
    「いえ、そういうわけじゃ――」
    「《アルシム》」
     聞き慣れた呪文が響き渡ったと思ったら、急に視界が変化した。さっきまで見下ろしていたミスラと視線がバッチリ合って、鮮やかな瞳が間近に迫る。
    「あはは。これでお揃いですね」
    「えっ!?」
     思わず口から零れた声は、びっくりするほどに幼くて。
    「うわっ、俺まで子供になってる――!?」
     慌てる俺を楽しそうに見つめて、そしてミスラはふうん、と鼻を鳴らした。
    「あんまり変わってないな」
    「ひどい! だいぶ違いますよ!?」
    「わあ、賢者様まで小さくなってる! かーわいいー!」
    「まあ! 賢者様、とってもかわいらしいですね! レノさんと並んだら、なんだか兄弟みたい」
    「おい、オズも並べよ。ほら、四兄弟だ」
    「なになに? 我らも混ぜて混ぜてー!」
    「ほれ、これで黒髪六兄弟じゃ!」
     集まってきた魔法使い達に揉みくちゃにされて、あわあわしているうちに、無情にも視察の時間が来てしまった。鳴り響く鐘の音に、慌ててミスラを振り返る。
    「ミスラ、魔法を解いてください!」
    「嫌です。俺達が子供なのに、あなただけ大人の姿なんて不公平じゃないですか」
     ふふん、と得意げに言われてしまって、がっくりと膝をつく。
    「俺までこの姿で出ていったら、ヴィンセントさん、呆れて帰っちゃいますよ……」
    「大丈夫です、賢者様。私も一緒に参ります」
     アーサーがそう申し出てくれたけれど、多分それは逆効果だ。丁重に辞退して、ええいままよ、と覚悟を決める。
    「精いっぱい頑張ります……」
     とぼとぼと歩き出した俺の背中に、やけに楽しげな声が飛んできた。
    「初めて見ましたが、悪くないと思いますよ。あなたのその姿」
     聞き慣れない声なのに、それがミスラのものだとはっきり分かるのは、何故なんだろう。
    (ミスラの「悪くない」は褒め言葉なんだろうけど……素直に喜んでいいのかな……)
     複雑な気持ちを抱きつつ、俺は視察団を出迎えるため、気合いを込めて玄関ドアを押し開けた。
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