大天才の期限「もっと自分を大事にして下さい」
「安心しろ、皆何か勘違いしているようだが、俺様の身体は案外強い」
「そ…そんな事は…無いと思いますけど」
「食事を、サプリやプロテインと点滴で補い、睡眠をギリギリまで削って、20年近く生きている。健康診断の結果も、存外悪くないぞ。この生き方をして、まだ死んでいない。強靭だろう?」
「……もっと、普通に生きた方が、ずっと元気だった筈じゃないですか…」
「ふん、君も愚物度が低いからな、説明しておいてやろう。俺様には目的が有る。その目的を達成するのは、大変な事だ。その為に、俺様は寝食を削っている」
「削らず、時間をかけて研究すれば良いじゃ無いですか」
「うん、俺様の時間が無限なら、そうする。ところで君、1%のひらめきがなければ、99%の努力は無駄になる、というエジソンの言葉を知っているか?」
「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である、じゃなくてですか?」
「それは、間違えて伝わった言葉だ。元は、どれだけ努力しても、天才的閃きがなければ無駄だと言う意味の言葉だった」
「そんな…身も蓋もない」
「そして、人類の脳は加齢に伴いインスピレーションを失う。ひらめきを無くしていくんだ。俺様の脳が大天才と呼べるのも、長くてこの先10年……短くて5年…無いかもしれん」
「………でも、経験とか…そういうので補えるんじゃ無いですか…。年取っても凄い人だって…居るじゃないですか」
「平凡に研究を進めるだけなら、その程度で充分だろう。だが、俺様が求める研究にはひらめきが、大天才の脳が不可欠だ。俺様には時間が無い。加齢は止められん」
「……」
「出来れば今すぐに、今日にでもひらめきを起こさないといけない。寝ている時間も食べている時間も無い」
「……」
「わかったら俺様に、不必要な努力は求めるな」
「………」
「なんだ、その顔は。…そうだ、君に朗報も有るぞ。言った通り、俺様の脳の期限はそれ程長くない。何せ、睡眠を取らずに酷使しているからな。崩れ始めたら早いぞ。大天才じゃなくなった脳は、もう使えん。それまで君が俺様に興味を持っているのなら、好きにしたらいい。天才か愚物程度に落ちても、君とのコミュニケーションぐらいは取れるだろう。それ以下になったら、まぁ、知らんが…」
「…………」
「さて、充分休んだ、研究所に戻るぞ。退院手続きをしないとな、サテツ君」
「………」
「どうした、早くしろ。送ってくれ、俺様が大天才の内にな」