無表情で少しだけ強引な綾波レイ③シンジとレイが同棲を始めて1ヶ月と少し経ったぐらいの時のお話。
「碇君、もう夜遅いわ」
ソファでタブレットを使い本を読むシンジにレイが声を掛けた。
「ああ。綾波、先に寝ちゃう?」
「そうじゃない」
「えっ」
一瞬の沈黙。
シンジが顔を上げると、レイの紅い瞳と目が合った。
「そうじゃない」
無表情なまま、同じ言葉を繰り返すレイに対し、返す言葉を失い頭をフル回転させるシンジ。
一緒にベッドへ行く選択肢もすぐに頭に浮かんだが、手元のタブレットに映る資料は次の仕事に関するものなので、今日きちんと読んでおきたい。
「・・・これ・・・もう少し・・・読んでおきたいんだけど」
「そう」
言うなりレイはシンジの隣に腰掛けて身体を倒し、シンジの膝に頭を置いて丸まってしまった。
ーー膝枕。
「・・・綾波?」
「・・・・・・」
タブレットを左手に持ち替え、右手を丸まったレイのお腹に恐る恐る差し込むと、案の定、レイが左手を絡めてきた。
シンジの方には背中を向けているので表情を見ることはできないが、右手に伝わってくる感触から怒っているとかではなさそうで少しホッとする。
「大丈夫?寒かったりしない?」
「大丈夫」
右手をレイに絡めたまま、しばらくそのまま書類を読む。
図や写真もそれなりにあり、資料は思ったより早く読み終わった。
レイは相変わらずシンジの膝枕で横になっている。
「なんか綾波、猫みたいだ・・・」
「そう」
シンジはタブレットを片付けると、レイを抱き上げて寝室へ向かう。
「おまたせ、寝よう」
「ええ」
ーー後日。
「えーと、綾波?」
「なに?」
「その・・・頭に付けてるものは?」
「猫耳。雑貨屋さんに売ってたから」
「そ、そうなんだ・・・」
ダイニングテーブルを拭いているレイは頭に猫耳カチューシャを付けていた。
どこの雑貨屋にあったのか、ご丁寧に毛の色もレイの髪色と同じ露草色である。
「でも、なんで猫耳を?」
「この前、碇君が私に猫みたいだって言ってたの思い出したから」
「・・・・・・」
「変?」
「いや・・・、そんなことはないよ。綾波に突然猫耳が生えていたからちょっとビックリしただけ」
「そう」
ーーその日の夜。
「にゃん」
突然の声にビックリして顔を上げると、猫耳を付けたレイの紅い瞳がこちらを真っ直ぐに見ていた。
「あ、綾波?」
「にゃん」
今日のシンジは寝る前にソファでくつろいでいただけだったのだが、猫耳レイはシンジの隣に座ると、シンジの膝を勝手に枕にして丸まってしまった。
「綾波?別に今日は」
「にゃっ」
シンジの右手を掴むとお腹のあたりに引き入れる。
「・・・・・・」
タブレットを取り出し、しばらく時間を潰してからレイを抱き上げて寝室へ向かう。
「さて、寝ようか」
「にゃあ」
「・・・綾波、そろそろ猫モード解除して」
「やだ」
その夜、レイは猫耳をつけたままシンジに抱きついて就寝した。