【昔のこと】 褒美をくれと従者は遠回しにそう言った。これまでの四百年、地獄の劣悪な労働環境に文句のひとつも漏らさずに付き従った男が直接的ではないにせよこのようなことを口にするのははじめてだった。突然どうしたのだと問えば狼男は自虐的に笑う。
「元々報酬次第で動く男ですよ、私は」
傭兵時代、高額の報酬で暴君ヴァルバトーゼの殺害を謀ったことを彼は暗に指し示した。
「と、言っても今の俺から渡せる褒美など──」
イワシ、は少なくとも正解ではなさそうだと恭しく傅く男を見て言い淀む。フェンリッヒは頭を下げたまま返事をしない。名を呼び、顔を上げるよう命令すれば何か眩しいものでも目にするようにこちらを仰ぎ見た。かつて月光の牙と呼ばれた男が今望むもの。それは報酬などではない。微かに揺らぐ琥珀色の瞳が求めるのは恐らく、許し。そしてその先に倒錯的な「罰」を期待していることも同時に悟る。
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