どこかで響いた銃声 微かな乾いた破裂音が耳に届く。と同時に、獠は駆け出していた。その音の出どころに気付いた獠は「あいつ……」と小さく吐き出すように呟くと、歌舞伎町の裏路地に回り込んだ。
「今のは威嚇よ! 早く、その子を離しなさい!」
「うるせえっ! テメェは関係ねぇ! 引っ込んで……うぐぁっ……!」
香が片目を瞑って、その男の左太ももに照準を合わせようとした瞬間、鈍い打撃音と共にその男が崩れ落ちる。
「獠っ!」
その男から解放された少女が気を失って倒れる寸前で、獠の腕がその細い身体を受け止めるのを見た香は、思わずホッとして叫んでいた。
「ったく……威嚇射撃する前に、オレを呼べっつーの」
少女を左腕で抱き留めたまま、倒れた男の拳銃を抜き取った獠は、呆れたように香にそう苦言を呈す。
「だって……獠に連絡してる間に、その子が連れ去られちゃうって思ったのよ。だから威嚇射撃すれば、獠が気付いてくれるかな? って思って」
撃鉄を戻したローマンをハンドバッグに仕舞いながら香がそう告げると、獠は「おいおい」と苦笑する。
「まぁ確かに、おまぁの銃の音はオレには分かるからな」
そう言いながら、獠はニヤリと口の端を上げて笑う。
「でしょ? 信頼してるわ、パートナーさん」
自慢げな表情でそう告げる香に、獠は眉尻を下げながら「でも、あんまり暴走すンなよな」と笑みを浮かべると、目の前で倒れている男の回収を頼む為に冴子にメールを打ち始めた。
昼間でも薄暗い歌舞伎町の裏路地に立つ、香という光に目を細めながら。