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    nico

    @psynk2

    ジェ×フロを書くひと。ジェ~フロとフロ受け全般を食します。♡汚喘ぎが性癖です。

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    nico

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    痛みなんて今まで一度も感じたことは無かったのに、🐬に恋して初めて痛みを知ることになった🦈のジェイフロです。uraさんのフリー素材『痛覚の無いフロイド』からお題をいただきました!ありがとうございます!
    ⚠️名前と存在感があるモブがいます
    ⚠️ちょっとだけ内臓がデロっと出ます
    ⚠️あちこちに捏造が散りばめられています

    #ジェイフロ
    jeiflo

    いたくしてもいいから これ、と言いながらフロイドが僕の手のひらに何かを乗せた。銀色のアクセサリーのようなもの。ラウンジから帰ってきたばかりの、まだグローブをはめたままの左手で、僕はそれを摘まみ上げた。
     プラチナのロングピアスだ。見覚えのあるブランドのロゴマークがチェーンに繋がれてぶら下がっている。
    「落とし物ですか?」
    「ちがう」
     シャンデリアの明かりを受け、白銀の光がチラチラと僕の目を何度も刺す。よく見ればアルファベットのロゴにはびっしりと小さなダイヤモンドが埋め込まれていて、それがやかましく光を反射させていた。
     それなりに高価なものなのだろう。一代で財を成した家の人間が喜んで身に付けていそうな、いかにもというタイプのジュエリーだ。成り上がりの金持ちは、デザインなどよりハイブランドのロゴマークに強い魅力を覚えるらしい。とてもじゃないが僕に付ける勇気はない。
     いったいこれは? ベッドの端に腰掛けたまま、見上げた視線でフロイドに尋ねる。紫色のワイシャツとスラックスだけの恰好だ。彼もまた、仕事から帰って間もないらしい。疲れているのか、それとも機嫌が良くないのか、フロイドは僅かに眉をしかめていた。
     窓の外で夜の海が、ごぽりと空気を吐き出した。
    「……ジェイに渡してって」
    「えっ、なんですかそれ」
     フロイドにあだ名で呼ばれたのは初めてだった。驚愕と動揺を押しのけて、うれしいという純粋な感情で頬が熱くなる。くすぐったいような違和感がなんだかとても心地良い。それをそのままフロイドに伝えようとして、けれど、続く言葉に打って変わって僕は眉間にしわを寄せた。
    「だってそう言ったから」
    「……誰がです?」
    「知らない雌」
     その時、僕は唐突に肩を強く押された。座っていたベッドの上に、有無をも言わせず仰向けで寝かされる。それからフロイドが、僕のベッドに乗り上げた。いわゆるマウントポジションという体勢で。
     二人分の体重を受け止めて、ベッドが、ぎ、と嫌な音で軋みを聞かせた。自分と同じような体躯の雄に乗り上げられている。こわいという意識は無い。ただ、どうしてだろうと思った。
     まだボタン一つ外していない寮服が窮屈で仕方がない。たった今までアズールとVIPルームにいたからだ。かろうじて帽子とストールをタコ脚のフックに引っ掛けただけ。皺になってしまうから、せめて上着を脱がせてほしい。そうフロイドに声を掛けようとした時だ。見上げていた片割れの表情が、泣き出しそうなそれに変わった。
     今日は月に一度、二日間だけ開催されるモストロ・ラウンジの一般開放イベントだった。アズールの日頃の営業活動が着実に実を結んでいるのだろう。イベントは毎回、前回の売り上げを大幅に更新していた。今日も麓の街から、いや、何組かは島の外から顧客が大勢訪れた。開店と同時にラウンジは満席となり、閉店間際まで客足が途絶えることは一度もなかった。そのうえ最近ではポイントカードを貯めきる一般の顧客も増えていて、最終日である今日などはほぼ丸一日、アズールの予定は相談予約で埋まっていた。
     VIPルームに顧客を通す際は、基本的に僕も同席する。表向きはスケジュール管理やお茶出しの為。内実は有事の際に素早く対応をする為だ。理由はさっぱりわからないが、相談客を装い自分勝手な報復を遂行しようとする輩が稀にいる。その失礼な輩から従業員や来店客の身を守る事が、副支配人としての僕の役目だ。アズールを守る為ではない。慈悲深いオクタヴィネルの魔女の力は、僕など足元にも及ばない。
     だから、今日はホールには一度も出ず、僕の代わりにフロイドがホールリーダーを勤めていた。問題があったとは聞いていない。従業員も大幅に増員していたし、ヘルプにサバナクロー寮のラギーも呼んでいたので、捌ききれないというトラブルもなかったはず。
     それとももしかしたら、僕が聞かされていないだけで何らかの問題が発生していたのだろうか。
     知らない雌とは誰のことだ。フロイドはどうしてこんな顔を見せている。入り組んだ珊瑚礁で母親とはぐれた稚魚のような顔。不安と怯えでいっぱいの表情は、泣き喚く寸前のようにも見える。
     僕とは違う、砂糖菓子を彷彿とさせる甘い目尻をいっそう下げて、それでも涙はこらえている。
    「どうしたんですか、フロイド。ラウンジで何かありました?」
    「…………あの雌、なに」
     弱々しく首を振ったフロイドが、少し迷ってから口を開いた。いつものフロイドらしくない言動に、内心僕は動揺した。
     何がフロイドをこんなにも臆病にさせたのだろう。僕でもこんなことはできないのに。
    「さあ。僕を妙なあだ名で呼ぶ女性に心当たりはありませんが」
    「……金髪で、長い巻き毛の。すげーくせー香水のにおいプンプンさせてた。血ぃ吸ってきたみてえに唇が真っ赤で、爪が元の姿のオレ達と同じくらい長くて、目がアズールみたいな色してた。ホール担当の奴らが浮ついてたから、たぶん、美人なんだと思う」
    「ああ、アメリアさ」
    「名前とか! …………知らなくていーし」
     驚くほどの剣幕で僕の言葉を遮ったあと、打って変わって小さな声でフロイドが続けた。そっぽを向き、少しバツが悪いような様子だ。
     言われて、僕は思い出した。アメリア・クロムウェル。見た目はともかく、したたかな性格の高慢な女だ。プライドが非常に高く、金遣いが荒い。なるほど、このジュエリーの持ち主だと納得できた。
     聞かされてはいなかったが、どうやら今日のイベントに来ていたらしい。僕を驚かせるつもりだったのだろうか。
     彼女は、麓の街で不動産王と呼ばれている、モーゼス・クロムウェルの一人娘だった。アメリアのご機嫌を取る事が、モーゼス王との商談をスムーズにさせる。まことしやかに囁かれているその噂は、おそらくは真実だ。僕が彼女の機嫌を取っている今現在、アズールとモーゼスの間柄は非常に良好で、商談も滞りなく進んでいるから。麓の街にモストロ・ラウンジの二号店が出来るのもそう遠くはない未来だろう。
     そういえば、彼女へのメールの末尾にはいつも「J」と付けていた。ジェイという呼び方は、そこから来ているのかもしれない。僕個人のスマートフォンではなく、モストロ・ラウンジの副支配人として与えられている端末の為、他意は無く付けていたサインだったのだが、それを逆手に取ったのだろうか。あの性格だ。そうかもしれない。全方向にマウントを取っているのだ。
     彼女に初めて会ったのは、依頼を受けていた魔法薬を届けにモーゼスの自宅を訪れた時だった。これをきっかけに今後の事業拡大を図るため、アメリア宛にも僕は土産を持たされていた。ヴィル・シェーンハイトが愛用しているメーカーの、非売品の化粧水。つまり、いつか作った化粧水の副産物だ。僕は何時もどおり心にも無いお世辞を言い、それを彼女に手渡した。
     何が面白かったのかは分からない。けれど彼女は化粧水を気に入って、ついでに僕も気に入った。そうして、その後は想像通り。今後の事業展開にとても有利になるとして、目を輝かせたアズールに盛大な我が儘を言われたのだ。曰く、あの女の相手をしろ、と。あわよくば父親の弱みとなる不用意な発言を引き出して来い、とも。
     もしかしたらあれは偶然などではなく、何かを知っていたアズールに嵌められたのだろうか。そうかもしれない。けれど、今さらそんなことを考えても後の祭りだ。僕は、アズールの考える事業計画に興味を抱いてしまったのだから。
     現在賢者の島で開発されている、西海岸の大規模なリゾート化。海を目の前にした広大な敷地にコテージなどの宿泊施設を作ろうとしているらしい。辺鄙な島だからこそバカンスに良いと今から既に話題となり、周辺の土地の価格はこれまでの何倍にも膨れ上がっているという。その、どこよりも高騰している土地の一角を、こちらの言い値で手に入れることが出来たとしたら、こんなに素晴らしい事は無い。アズールは彼の不自然なほどクリーンな経歴に隠された真実を暴き、交渉の材料にしようとしているのだ。
     僕もフロイドも、その瞬間のモーゼス・クロムウェルの顔を見たいがためにアズールの事業計画に参加した。不動産王としてもてはやされて来た彼の、屈辱に歪む表情はどんなものだろう。想像するだけでぞくぞくとする。フロイドもそうだった。なにそれすっげえおもしろそぉ、と可愛らしく歯を見せてわらったことを覚えている。
     だからてっきりフロイドは、僕の仕事を理解しているものだと思っていた。アズールにくわしくは教えてもらっていないのだろうか。確かに僕も詳細を彼に伝えていない。伝える必要もない、些細な事だと思っていたから。それに例えフロイドに伝えたところで、バカじゃねーのとその通り頭の悪い女を嘲笑い、茶番に付き合っている僕を面白がる程度だと思っていた。
     それがまさかこんな、こんな表情をして悲鳴のような声を聞かせるとは、僕は夢にも思ってなかった。
    「どうしたんですか、フロイド。あなたらしくもない顔をして」
    「オレらしいって、……なに」
     ああ、これは失言だった。にこりともせず僕を見下ろすフロイドに、試すように言った言葉を後悔した。
     その日、その時、その場所で、くるくる変わるフロイドの気分。他人と違って僕が不興を買う事は、そう多くはないのだが、今回ばかりは勝手が違った。不機嫌の理由がわからないからだ。
     ただ、なんとなく、気配のようなものは伝わっていた。僕とフロイドだけに共通する兄弟特有の感覚。それは不安や怯えといった、普段のフロイドにはあまりない感覚だった。例え大型の肉食魚と対峙しても、彼の気配にこんなものは混じらないのに。
     そう言ったら、またもフロイドを怒らせてしまうだろうか。
    「何をしているんですか、フロイド」
     相変わらず不機嫌に似た顔をして、フロイドが着ていたワイシャツをがばりと脱いだ。ボタンも外さず頭から引き抜いて、背後の床に放り投げる。それから、顔に貼り付いた髪の毛を、犬のように首を振って元に戻した。
     服を着る習慣は、実は未だに好きになれない。それでも、相手がフロイドでも、唐突に目の前で服を脱がれれば驚くほどには陸の生活に慣れてきていた。人間が入浴以外で、誰かの前で服を脱ぐ。その行動がどういう行為を示唆しているのか、心当たりは多くない。
     フロイドのこの行動はいったいなんだ。僕の想いに気付かれてしまったのだろうか。動揺に思わず上半身を起こしかけ、それからすぐに、そうではないのだと気付かされた。
    「これ、覚えてる?」
     フロイドが、穏やかな声で自らの古い傷跡を指で撫でた。純粋にまるで我が子を慈しむ母のようだ。途端に、都合の良い早とちりをしてしまった自分自身に羞恥を覚えた。
    「……ええ、ちゃんと覚えています。僕達兄弟が、たった二人だけになってしまった時の傷ですから」
     随分と薄くなってはいるが、未だに肩口に残っている肉食魚の鋭い歯の痕。もちろん忘れてなどいない。幼く、未熟な魔法を使って必死に戦ったことも覚えている。
     フロイドは懐かしむ仕草でそこを指で辿ってから、続いて右の脇腹に手のひらを滑らせた。
    「それから、これも」
     そこには、肩口のそれとは比べ物にならないほどの酷い傷跡が残っていた。ケロイド状になった皮膚が大きく引き攣れていて、一見して痛々しい。
     当時の記憶が生々しく脳裏によみがえった。ここから内臓が体外に零れ出ていたのだ。長く伸びるはらわたを体内へと押し戻し、フロイドの傷口に自らの身体を巻き付けるようにして僕は夢中で海の底を目指して泳いだ。
     あの時、フロイドは死んでいてもおかしくなかった。魔法医に治療を受けてさえこれほどの傷痕が残っているのだ。
    「忘れられるわけがありません。あなたが僕を庇って人間に捕らえられた時の傷です」
    「うん。……オレのが生き残れる確率高いって思ったからね」
    「そういう事を考えるのは止めてほしいと以前から言っていたはずです。痛みはなくても、あなたは不死身ではないのですから」
     そう。フロイドは生まれつき痛覚という感覚が存在しない個体だった。
     まだ名前も知らなかった頃だ。フロイドは、大勢の兄弟の中で誰ともつるむ事をせず、いつも傷だらけでつかず離れず巣穴の周りを泳いでいた。どうして彼はあんなにもたくさんの傷を作っているのだろう。擦り傷や切り傷。噛み傷まであった。傷は見るからに深く、痛そうだった。何故母に魔法で治癒してもらわないのか。やっぱりあれはケンカの痕で、バツが悪いからだろうか。そう、興味深く見ていた僕に、兄弟のうちの誰かが言った。あれは痛覚が無い出来損ないのウツボだと。どうやら彼に噛み傷をつけた相手らしい。余程負けた事が悔しかったのか、あざ笑うようにすぐに死ぬとも重ねて言った。
     たくさんの卵から孵るタイプの人魚には、どこかに欠損や障害を持つ個体が紛れることが珍しくなかった。そしてその多くは兄弟が言う通り、海の中の厳しい生活環境になじめず、すぐに命をなくしていた。尾びれが短ければ、早く泳ぐことが出来ない。背びれがいびつならば方向転換に手間取る。痛覚が無い個体の場合は、反射が利かず逃げ遅れる。自然淘汰だ。あの兄弟が、すぐに死ぬと言っていた理由がこれだ。けれど、僕はそれを彼に当てはめる事は、どうしてもできないでいた。多くの兄弟が日一日と数を減らして行く中で、彼はいつもと変わらず、傷だらけで巣穴の周りを泳いでいたからだ。たくましく、悠然と。美しいとさえ思った。ともに生き延びるなら、彼が良い。彼の手を取ったのはそんな理由からだった。
     きっと僕はその時に、フロイドに恋をした。
    「あなたが生きていてよかった。心からそう思います」
     そして、これはのちに本人から直接聞いたのだが、フロイドには痛覚の代わりに恐ろしいほどの記憶力があった。一年前の今日の日の、潮の流れも覚えている。サメの群れが出没した日にち、時間、水温も。さらには第六感までが優れていて、それらが痛みの代わりにフロイドの身を守っていた。今思えば、ユニーク魔法もそうなのだろう。本能が、欠損した感覚を補うために、攻撃を弾く力を与えた。
     出来損ないなどでは決してない。むしろフロイドは、進化した個体なのだ。
    「まだ引き攣れる感覚が残ってますか?」
    「ううん。もう慣れたからかな、よくわかんね」
     フロイドは僕を庇って、投げられた銛をその身に受けた。大型の魚を捕るための打ち込み銛だ。
     フロイドの脇腹に手を伸ばしかけ、一度手を引っ込める。白いグローブが視界に映ったから。握っていたピアスごとグローブを外し、フロイドの傷跡に改めて手のひらを差し伸ばした。
     飛び出したはらわたの生ぬるい感触は、いまだこの手に残っていた。フロイドが銛ごと漁船に巻き取られて行く絶望感ももちろん覚えている。未だに、発作のように不安に襲われることもある。フロイドを失っていたかもしれない事実を思うと、内側から滲み出るような恐怖で胸がくるしくなるのだ。
    「オレね、この二つの傷は忘れてねーけど、あとはほとんど覚えてねーの。痛いって感覚がねーと思い出も残んねえのかな? アズールとつるむようになってからは尚更でさ。ほら、アズールの魔法すげえじゃん? 小言もすげーけど。でも魔法医とかわんねー高度な治癒魔法かけてくれるからね。傷痕も痛覚も無いと怪我なんて無かったのと同じなんだよ」
     油をひっくり返した火傷の傷も、ナイフで骨が見えるほど指を削いだ怪我も、フロイドは全く覚えていない。痛くはない。恐怖が無い。だから記憶に焼き付かない。
    「痛いってどういう感覚かわかんなかった。腕や尾びれ食い破られてのたうち回ってる人魚とか、口から血の泡噴いて喚いてる兄弟とかいっぱい見て来たけどぜんぜんピンとこねーの。助けようとしてんのにすげー暴れて邪魔するし、んな叫ばなくても良くねってくらいうるせえし、痛覚ってむしろ効率悪くねとか思ってた。痛ぇから皆ビビッて怖がるんだろ? あーでも銛で串刺しにされてスリットに人間ちんぽいれられそうになった時はさすがにぞっとしたけどね」
    「……聞いてませんよ、そんな話」
     あはっとなんでもない事のように笑ったフロイドに、今さら僕は全身を戦慄かせた。
     あいつらはそんな事をするために人魚を捕えたというのか。フロイドを助けるのに必死で、何のために捕らえたのか意識していなかった。昔は人魚の肉に不老不死の力があるというでたらめが信じられていて、世界的な人権問題に発展した事もある。だからそういう類のものだと、助かった後で考えた。
    それなのに、フロイドが、そんなくだらない人間の性欲の捌け口として捕えられ、玩具のように扱われようとしていただなんて。時間差で殺意が込み上げた。怒りで目の前がどす黒く染まる。あんな乱暴な捕え方だったのだ、散々嬲って遊んだ後は、きっとゴミのように海に棄てるつもりでいた。
     当時漁船に乗っていた人間どもを、残らず八つ裂きにしてしまえばよかった。遅すぎる後悔だ。あいつらはちゃんと溺れ死んだだろうか。そうでなかったら今からでも殺してやりたい。指先から少しずつ命を齧り取るようなやり方で、痛めつけて殺したい。
     あの時僕は、海の魔女の生まれ変わりだと言われているタコの人魚の元へと全速力で泳いで行った。どんな対価でも払うと言って懇願し、内容も見ずに契約書にサインをした。フロイドを失う以上の恐ろしい事は無かったからだ。契約はすぐに履行され、瞬く間に巨大化した黒い魔女のタコ脚が、漁船を海中に引きずり込んだ。
     転覆した船からフロイドを救い出し、けれども惨いほどの傷口に、僕は泣き崩れる寸前だった。しかしそれは何よりも愚かな真似だと自分自身を叱咤して、必死に未熟な回復魔法を掛けながら、海の底へと二人一塊になって泳いで潜った。フロイドは力の限り抵抗をしたのだろう。銛が刺さっていた脇腹は裂け、おびただしい量の出血がフロイドの顔色を真っ白に変えていた。くすぐってえ、と意識を朦朧とさせながら笑うフロイドに、その時ばかりは僕は一緒に笑えなかった。
     ちなみに、あの時の彼女との契約は今現在も続いている。対価は、彼女の孫と友達になってほしいというものだった。けれど、おそらく契約などなくとも、僕と彼の関係は今と同じだっただろう。
     海の魔女の孫である彼もまた、僕たち兄弟から退屈を奪い去る、偉大な海の魔女だった。
    「んなこえー顔しなくても大丈夫だって。なんもされてねーよ。ジェイドが助けてくれたんじゃん。だから、やっぱオレがぶっ刺された方で良かったんだよ。オレがジェイドの立場だったら、一緒に船に飛び乗ってたもん。ジェイドと違って考え無しだからさ、きっと一緒にオモチャにされて、証拠隠滅のためにぶっ殺されて捨てられてた」
     フロイドが、怒りに震える僕の頬に手を当てた。やさしく、ゆっくりと、ぐずる稚魚をあやすに似て頬を手のひらで穏やかに撫でる。
     怒りを忘れたわけじゃない。でも、僕はフロイドの手の心地よさに目を閉じ感触を堪能した。
    「オレね、たのしかったんだ。ずっと楽しかった。ジェイドを選んで、一緒に生き残って、二人でムカつくチョウザメボコボコにして体中の鱗を引きはがしたり、アズールとつるむようになって、アズールとの契約の違反者を絞める遊びを始めたりしたの。すげえ面白かったよ。なあ、ジェイドも覚えてるだろ? 一時期ハマってた取り立ての遊び。ほら、沈没船でさ、オレらから逃げ切れたら対価はチャラってやつ。あれもめちゃくちゃ楽しかった。息止めて隠れてる違反者に気付かないふりして通り過ぎた後にさぁ、ビクビクしながら出てきたところで、ばあ♡ ってするやつ! 覚えてる?」
    「ええ、覚えています。失禁していましたね。僕達から逃れられるわけがないのに、どうして逃げ切れるなんて愚かな希望を抱いたのでしょう」
    「ねー。バカだよねぇ。あれさ、またしよーよ。陸でもできそーじゃん? このガッコー広いし、きっとできるって」
    「ええ、そうですね。とても楽しみです」
     へへ、と稚魚のような無邪気な笑顔をフロイドが見せる。未だにマウントポジションのままだった。起き上がろうとして、けれどそれをやんわりと手で制止され、起きる事を諦めた。
     フロイドは僕に何を伝えるつもりなのだろう。思い出を楽しそうに語る様子は、まるで別れを切り出す恋人のようで、少し怖い。僕達は兄弟で、恋人同士などではないのに。けれど今は、むしろそれが救いだ。恋人と違って、兄弟は他人にはなれないから。
    「陸に来てからも、尾びれの半分しかねーくせにぜんぜん自由になんなかった短けぇ脚が、だんだん自由に動かせるようになってったのもわくわくした。入学してからずーっと前寮長の前で猫かぶってたアズールが、いきなり手のひらひっくり返して決闘申し込んで秒で寮長ぶっ飛ばしたのもすげー笑った。アズールがオクタヴィネルの寮長になって、すぐにモストロ・ラウンジを寮内に作って、海ん中じゃ考えらんなかったいろんな料理を食べたり作ったりしたのも楽しかった。ラウンジの仕事、オレ結構好きなんだ。掃除とか倉庫整理とかは気分じゃねーとちょーメンドクセーけど、でも、オレがオレの好きなように作ったパスタとかピッツァとかドルチェとかを、ジェイドとアズールが喜んで食べてくれるのはすげー嬉しい。もちろん、寮生やお客さんもだけど。だから持ち場は厨房が多いけどさ、でもオレ、ジェイドと一緒にホールに出んのも嫌いじゃねえんだ。なんかさー、かっこいーなって思うんだよね。ジェイドが」
    「……僕が、ですか」
     心臓を直接揺さぶられたみたいだった。フロイドが、ホールでの僕の姿を思い浮かべながら本物の僕を見下ろしている。うっとりと夢を見るような表情に見えるのは、僕の気のせいだろうか。先ほどの早とちりもあったせいか、俄かには信じがたい。
    「うん。ジェイドが一番かっこいーの。背筋真っ直ぐ伸ばしながらラウンジの中を泳ぐみたいに歩いてて、ライトやシャンデリアのいろんな色のキラキラが、全部ジェイドの発光体に見える。すげえきれいだなーって、あーやっぱジェイドかっこいいなーって思うんだ。そんで、それをオレだけじゃなくって他の寮生とかお客とかにもかっこいいって言われてんの聞くとすげー気分が上がるんだ。でしょお? って思う。思ってた。思ってたはずなんだ」
     言葉を止め、フロイドが僕の顔の横を指さした。
    「…………その耳飾り、つけんの?」
    「え? ……ああ、そうですね」
     唐突に変わった話題に、我に返るように現実に戻される。フロイドとの会話では良くあることだ。手のひらからこぼしたピアスを思い出し、考える。いや、普段つけるつもりなど毛頭無い。けれど三日後に、モーゼスの自宅まで魔法薬を届ける予定があった。
     以前アメリア・クロムウェルとのメールで、僕の耳飾りについてたずねられた時、兄弟とお揃いの、とても思い入れのあるものだと答えた事がある。この世でたった一対だけの、僕達兄弟が手ずから加工した耳飾りだと。他に代えのきかないそれは、その通り僕とフロイドのように思う。だから僕は毎朝、フロイドの一部を身に着けるような気分で耳飾を付けているのだけれど、それに対する彼女の返信は『今度私のとお揃いにしてよ』という我が目を疑うものだった。
     今の話を聞いていなかったのだろうか。どうしたらそんな言葉が出てくるのか、唖然とした。しかしあの性格だ。三日後にこれを耳につけて行かなかったら、面倒なことになりそうだ。
    「今度、たぶん」
    「そっか。…………あのねジェイド。オレ、今日もたのしかった。ジェイドはいなかったし忙しかったけど、でも久しぶりのホールでいろんなお客さんと喋ったり、笑ったり、記念写真撮ったりしたんだ。一枚千五百マドルのポラロイドのやつ。オレねぇ、けっこういっぱい撮ったんだよ」
    「ええ、訊きました。フロイドは人気者ですからね、アズールも御機嫌でしたよ」
     余程楽しかったのかフロイドが表情を変え、にこにことしながら語り出した。褒めて、という事なのかもしれない。そうであってもそうでなくても、僕がフロイドを褒めない理由は何もない。
    「それからさぁ、ハロウィーンの時の小魚ちゃん覚えてる? スタンプの場所がわかんなくて、オレがジェイドのとこまで案内してあげた女の子。その子が両親と一緒に店に来てくれてさぁ、あの時はありがとうっつってオレにビスコッティプレゼントしてくれたんだぁ。ママと一緒に作ったんだって。すごくね? あとでジェイドも一緒に食べよ」
    「それは嬉しいですね。美味しい紅茶を淹れましょう」
    「他にもねー、前回来てくれた変なお客さんがまた来たよ。持参したトマトケチャップで、えーと、モエモエキュン? とかってオレに言わせてパスタにケチャップでハートマーク描いてほしがる、いっつも汗だくのお客さん。ちゃんと味付いてんだからケチャップ掛ける必要ねーっつってんのにさー、味覚障害かなんかかな? そいつ写真もいっぱい撮ってったよぉ。オレと二人で半分ずつ手でハートマーク作ってさあ、そんなんで喜んでんの。バカじゃんって言っても否定しねぇし、それどころかきもちわりぃ声だして笑うの。すっげえウケた」
    「…………次は出禁にしましょうか」
    「は? なんで?」
    「なんでもです」
    「そうそう、小エビちゃん達も限定のドルチェ食いに来てたよぉ。小エビちゃんと、アザラシちゃんと、カニちゃんとサバちゃん。記念写真もさぁ、あいつら全員で撮るっつーからめちゃくちゃぎゅうぎゅう詰めの写真になってさー、つかなんでわざわざ金払ってオレと写真撮んの? ふつーに毎日会ってんじゃん? 写真も撮りたきゃ撮れんじゃん? だからバカじゃねーのって言ったらさ、あそっかとか今さら言うんだぜ。あいつら四人もいて誰もそれに気付かねーっておかしくね? バカだバカだって思ってたけど、やっぱあいつらってすっげえ頭ワリィよねぇ」
    「ふふ。ええ、そうですね。楽しかったようでなによりです」
    「ウン! すっげえ楽しかったぁ。厨房も好きだけど、こんなに楽しいならイベントの時はホールでもいいかもぉって思ってた。そう思ってたら、呼び止められて……それを手渡された」
    「……耳飾りのことですか?」
    「そう」
     フロイドが打って変わって表情を無くし、シーツの上のピアスを指さした。たった今まで上機嫌で今日の出来事を語っていたのに。
     ああ、そうか。違うんだ。今までの、まるで脈絡の無かったようなとびとびの会話は、全部これにつながっていたのだ。最初から、全部。これ、とフロイドが僕にピアスを手渡した時から。
    「あなたがジェイのご兄弟? って。オレのこと、上から下まで値踏みする目でじろじろ見て、ギラギラの耳飾りを自分の耳から外して取って、これあなたからジェイに渡しておいてもらえるかしら、って。それから、ごめんなさいね、って。血液の色した唇で言って、オレに、わらった」
     その瞬間が、まるで見てきたように僕の脳内で再生された。
     あろうことか彼女は、フロイドに対してマウントを取ったのだ。
     フロイドが、何かを言おうとして口を開き、しかし言葉にはできずに口を閉じる。かわいそうに、混乱しているのだ。当然だ。こんな、女の嫌なところを練って固めて凝縮したような感情をぶつけられた事など、彼は一度だって無いのだから。
     沈黙が、フロイドの動揺をあらわしていた。海の底から登る気泡の音が、窓の外からかすかに聞こえる。長くはない。けれども短くも無い沈黙をようやく破り、フロイドが戸惑いながら声を聞かせた。
    「……………………それ、つけたらヤダ」
     うつむき、零すように、フロイドが普段は決して言わない類の言葉を言った。フロイド自身、自分の発言に戸惑っているのがわかった。ふと血の匂いを覚えてフロイドを覗き込めば、噛みしめた下唇に赤い血液が滲んでいた。僕は、ほとんど条件反射で右手を上げてフロイドの唇に指で触れた。ト、トン、と二回そこを叩く。合図だ。痛覚の無い彼に傷を自覚させるため、いつの間にか二人の間に出来上がっていたものだった。
     フロイドが、粗雑に自らの唇を手の甲で拭う。感情がぐちゃぐちゃなのだろう。自分でも、どうしていいのかわからないのだ。
    「……わかりました。フロイドが嫌なら、僕はこれを付けません」
    「ッだよ、わかんなよ! 突然こんなわけわかんねーこと言われて、素直に納得してんじゃねーよ!」
    「では、どうしたらいいんですか」
    「オレだってわかんねーよ! だって仕事なんだろ、これ!? アズールに言われたんだよなあ!? あの雌の機嫌損ねんなって! 気に入られて弱み聞き出せって! わかってんだよ、そんなことくらい! オレだって王とか呼ばれて得意気になってるあのオッサンの屈辱に歪む顔すげーみてぇし、二号店だって楽しみなんだよ! 人間も、人魚も来れるアルベルゴにするんでしょ!? そんな店きいたことねーってすげーわくわくしてんのに、してるはずなのに、なんで、オレ、こんなくだらねえことでイライラしなきゃなんねえの? なんで!? あいつ、あの雌、真っ赤な口でジェイドのことジェイって呼んで、オレだってそんな呼び方したことねーのに、したくねえけど! しかも、ごめんなさいねって、なに!? わらって、オレに? なにが? なにがごめんなの!? オレからジェイドのこと奪う気でいるってこと!? できるわけねえじゃん!! バカじゃねーの!? できるわけ、ねぇよな? ジェイドは誰のものにもなんねーよな? な? あの雌に本気になったりしねーよな? 遊びだよな? オレ、ねえ、なんか………………へんなんだ」
     フロイドが自らの左胸ぎゅうっと掴んだ。皮膚に強く爪を立て、僅かに肉が抉れて血が滲む。
     痛覚が無いフロイドは、時おり自傷のような行為をする。本人にそのつもりは無いのだろうが、僕はいつもそれを止めさせていた。けれど、たった今だけは、僕はただ信じられない思いでフロイドの苦しそうな顔を見上げていた。
     呼吸が出来ない魚のように、フロイドが、はっ、と喘ぐに似た息を吐いた。
    「ジェイドが誰かのものになるってかんがえたら、胸んとこがぎゅううってなる……。誰かに強い力で、心臓をにぎられてるみたいに………………」
     フロイドが、皮膚を抉る力を抜いた。改めて自分以外の誰かにこの違和感を伝えようと思ったのだろう。縋るように僕を見ながら、広げた手のひらを胸に置いた。
     水掻きの無い、ヒトの手のひら。僕のものよりも少し節が目立っている。それが、ト、トンッ、と胸の中心を二度叩いた。
    「…………いたいよ、ジェイド」
    「フロイド、あなた……胸が、痛むのですか」
    「これが、痛み? みんなこんなもん抱えて生きてんの? どうやって生きてられんの? すげえ、つらい。ジェイドがオレの側からいなくなっちゃうって思ったら、あの雌と番になるんだっておもったら、痛くて、いたくて…………いきができないッ」
     は、は、とフロイドの呼吸が短く、早くなる。本当に息ができていないみたいだった。なきそうな顔で、縋る相手が世界中にたった一人、僕だけしかいないみたいに。その痛みの原因の張本人であろう相手に。
    「こわい……。こわいよ、ジェイド。オレ、怖い……。痛覚がこんなにこわいなんて、知らなかった。ジェイドがオレじゃなくて、あの雌を選んだら、オレの心臓きっと破裂する。ぐちゃぐちゃに潰れて、いっぱいいっぱい血が出て、きっと止まんない。腹に穴開けられて、内臓がはみ出しても痛くなかったのに……なんで、こんなことで、…………胸が」
     ぼたりと涙が僕の胸に滴った。それは一粒だけじゃなく、あとからあとから、なんども僕に滴った。
    「むねがっ、いたい……!」
    「フロイド……。あなたは、僕が好きなんですか? お気に入りの玩具を誰かに取られるからではなく? 僕は、あの……自惚れてもいいのでしょうか」
    「わがっ、だいっ……! わがんねえ、よおっ! おもぢゃ、どられるどっ、ごっ、こんっ、こんなっ、心臓、いだぐなんのッ!? おれ、もぅ、……いきがっ……! ひっ、ひぅっ……ぅぐぅっ…………、じぇ、どおっ……! だれかのものに、なっぢゃ、や、やだあああああああああああ! うえええええええええええええええーーー」
     まるで稚魚だ。痛むのか、フロイドは再び胸に爪を立て、喉を晒して声を上げた。自らの感情を包み隠さず、全てをさらけ出しながら、痛みを涙に変えている。自分には決してできない素直な真似に、羨望すら覚えてしまう。
     どうしよう。こんなことを聞かせたら怒られてしまうだろうか。フロイドの痛みが、とてもうれしい。大きな大きな泣き声が、僕への愛の言葉に聞こえる。
    「フロイド、フロイド泣かないで、お願いです。誰かのものになんてなりません。フロイド、僕は……ああ、もう」
     慰めようとして伸ばす手を振り払われる。怖いのだろう。感じたことの無い痛みがあるのだ。癇癪を起こすフロイドの手を強く掴んで引っ張って、力任せに体勢を入れ替えた。
     噛り付くような口付けに、想像していたような甘さはなかった。少しだけ混じる血の味が、海での僕らを思い出させた。
     触れるだけのキスに、それでも十分驚いたのだろう。途端にフロイドが全身の力をふっと抜いた。兄弟でするスキンシップじゃない。また早とちりなのかもしれない。けれど泣きながら、こんなにも純粋な愛情を伝えられて、僕ももう自分自身を止められなかった。
    「な、んで……キス」
    「僕もあなたが好きだからです。こういう意味で。フロイドのことが好きなんです。もう、ずっと前からです。もしかしたら、傷だらけのあなたを選んだときからかもしれない」
    「………………最初っからじゃん」
     シーツにやわらかい髪を散らして、大人しくなったフロイドが僕に組み敷かれている。ず、とはなを啜り、もう涙は止まったようだ。言葉を肯定するように微笑んで見せれば、つられたのかフロイドも涙目で、あは、とわらった。
    「一目惚れというやつでしょうか」
    「同じような顔のやつばっかなのに?」
    「きっかけは好奇心だったのかもしれません。でも、あなただけが他の兄弟とは違って見えました。僕にとっては最初から、あなただけが特別でした。それは今も変わっていません」
     シーツの上、散ったフロイドの髪の中から光るピアスを拾い上げ、彼の前にぶら下げる。それから、頭の中で組み立てた魔法式を発動させ、ぱきりとそれを破壊した。
    「フロイドはどうなんでしょうか。僕は、僕をずっとあなたのお気に入りの玩具か何かだと思っていました。でもそれは間違いだったんですね。フロイドも僕と同じような感情を僕に抱いていてくれたんですよね。……僕、自惚れますよ? いいんですね? 違うなら、今すぐ否定してください」
    「オレのこと痛くできるのなんて、ジェイド以外にだれもいない。……いないんだから、自惚れろよぉ」
     フロイドが僕の首に腕を伸ばした。大きく口を開きながら、僕を力任せに引き寄せる。
     二度目のキスは、やっぱり血液の味がした。懐かしい故郷の海に想いを馳せ、今度こそ舌を絡めて深い愛情を伝え合う。
    「いたいのはつらい。でも、いたいから、オレはジェイドが好きだってわかったよ」
    「嬉しいです、フロイド。……僕も、あなたが愛しくて、たった今も胸が痛い」
    「あは。じゃあ、おんなじだ」
     愛しさが胸の内側から溢れてくる。胸の中がいっぱいで、限界で、僕も胸が破裂してしまいそうだった。首から外れた手を取って、両手の指を絡ませる。
     幼い頃、僕はこの手を選んで握った。大切な片割れと、僕は今でも共にいる。これから先も、手放す事は決してない。
    「……ジェイドと一緒なら、いたいのも悪くないや」
     まなじりの涙をぬぐいもせず、フロイドがこどものような顔で僕にわらった。



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    Replies from the creator

    nico

    INFOジェイフロ小説アンソロのサンプルです。NRC時代の冒頭部分と、25歳になってからの彼ら部分を少々追加しました。冒頭しんみりめいてますが、しんみりしてるのは最初だけで内容はラブコメだと思ってます。ハッピーハッピーハッピーエンドなジェイフロです。
    余談ですがあまりの文字数の多さに主催のしののさんに泣き付きました……!
    ふゆのおわりにうたう唄 息が白い。
     海の中では見られない現象を面白く思いながら、オレは出来たばかりの魔法薬を雲がかかる空にかざした。虹色に輝く半透明の液体が、ガラス瓶の中で揺らいでいる。なにとはなしに左右に振れば、それは美しく光りながらたぽたぽと瓶の中でたゆたった。
    「キラキラじゃん」
     まるで他人事のようなつぶやきが白く変わって空気に溶ける。外廊下に隣接している学園の裏庭。流れる吐息に誘われて目を向ければ、そこは一面真っ白な新雪に覆われていた。
     寒さのせいか、庭に人の気配は全くない。まっすぐ歩いていた外廊下から、裏庭へと向きを変える。芝生の上に落ちた雪が、平らな革靴の底で圧縮される感覚があった。もう少し積もったら、滑って転んでしまいそうだ。そんなことを考えながら、オレはうっすらと雪がかぶったスチールのベンチを、ゴム手袋をしたままの手でぞんざいに払った。脚を伸ばして腰かけて、灰色の空を大きく仰ぐ。
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    nico

    DONE痛みなんて今まで一度も感じたことは無かったのに、🐬に恋して初めて痛みを知ることになった🦈のジェイフロです。uraさんのフリー素材『痛覚の無いフロイド』からお題をいただきました!ありがとうございます!
    ⚠️名前と存在感があるモブがいます
    ⚠️ちょっとだけ内臓がデロっと出ます
    ⚠️あちこちに捏造が散りばめられています
    いたくしてもいいから これ、と言いながらフロイドが僕の手のひらに何かを乗せた。銀色のアクセサリーのようなもの。ラウンジから帰ってきたばかりの、まだグローブをはめたままの左手で、僕はそれを摘まみ上げた。
     プラチナのロングピアスだ。見覚えのあるブランドのロゴマークがチェーンに繋がれてぶら下がっている。
    「落とし物ですか?」
    「ちがう」
     シャンデリアの明かりを受け、白銀の光がチラチラと僕の目を何度も刺す。よく見ればアルファベットのロゴにはびっしりと小さなダイヤモンドが埋め込まれていて、それがやかましく光を反射させていた。
     それなりに高価なものなのだろう。一代で財を成した家の人間が喜んで身に付けていそうな、いかにもというタイプのジュエリーだ。成り上がりの金持ちは、デザインなどよりハイブランドのロゴマークに強い魅力を覚えるらしい。とてもじゃないが僕に付ける勇気はない。
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    ジン(R18の方)

    DONEジェイフロです

    お疲れジェイドにフロイドが料理を作ってあげるお話
    なんて事のない日常な感じです

    ※オリジナル寮生割とでます
    ※しゃべります
    ジェイドが疲れてる。
     副寮長の仕事とアズールから降りてくる仕事、モストロラウンジの給仕と事務処理、それに加えて何やらクラスでも仕事を頼まれたらしく、話し合いや業者への連絡などが立て込んでいた。
     普通に考えて疲れていないわけがない。
     もちろんほぼ同じスケジュールのアズールも疲れているのだが、ジェイドとフロイドの2人がかりで仕事を奪い寝かしつけているのでまだ睡眠が確保されている。
     まぁそれもあって更にジェイドの睡眠や食事休憩が削られているわけだが。
    (うーーーーん。最後の手段に出るか)
     アズールに対してもあの手この手を使って休憩を取らせていたフロイドだったが、むしろアズールよりも片割れの方がこういう時は面倒くさいのを知っている。
     一緒に寝ようよと誘えば乗るが、寝るの意味が違ってしまい抱き潰されて気を失った後で仕事を片付けているのを知っている。
     ならば抱かれている間の時間を食事と睡眠に当てて欲しい物なのだが、それも癒しなのだと言われてしまうと 全く構われないのも嫌なのがあって強く拒否できない。
     が、結果として寝る時間を奪っているので、そろそろ閨事に持ち込まれない様に気をつけな 6656