「ありがとう、明日はオレが作るからさ」
彼は水切りカゴから赤と白のマグカップを取り出す。赤いほうには牛乳、白いほうにはインスタントコーヒーの粉を振りかけ、ケトルのお湯を注いだ。
「そういえば、手は……」
「大丈夫だ。まだ少し痛むが、前より動くようになった」
彼の問いかけに右手を振って答えると、彼はテーブルの向かいに座り、私にコーヒーを差し出した。
私の右手の中心には、いつどこで付けたかも見当がつかない深い刺し傷があり、彼が樹脂で塗り固めたという。今は固定のため、その上から包帯が何重にも巻かれている。
「見せて……ヒビが目立たなくなればいいけど」
彼に言われるまま右手を差し出すと、それはそのまま彼の両手に包まれ、包帯越しに撫でられる。まるで割れ物を扱うかのような、温かくさわさわとした手つきに胸がむず痒くなり、堪らず目を閉じた。
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