岸吉 死と似た温度のまどろみから醒めると、吉田ヒロフミはベッドの上にひとりきりだった。
もう一度シーツと同化したい気持ちを振り払い、乱れた髪を手櫛で直しながら身を起こす。比較的築年数の浅いこのマンションの一室は、一年中暑くも寒くもなく保たれている。つまりは今、吉田の裸の背中を不快に湿らせる汗は空調の不備によるものではなく、ここ数時間の吉田の振る舞いのせいであったし、つまりは岸辺のせいでもあった。完全なる当事者であるはずなのに、事が済んだら言葉の一つもかけずにさっさと寝室から立ち去り、今は恐らくベランダで煙草を吸っているはずの家主を少しだけ恨めしく思った。が、さしたる重みもなく過ぎっただけのその感情は、強く主張を始めた喉の渇きにあっさりと優先順位を取って代わられた。
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