愛されている自覚 本日、二年の校舎は大賑わいを極めていた。それもそのはず、二年の女生徒たちは調理実習がありそれにクッキーを作っていたという。そのせいか各学年に存在する美形と称される生徒たちのものに二年の女生徒たちが駆けつけていた。そして、昼休み二年の校舎で恋人である沖田の元へと行こうとしていた彼女は足踏みをしてしまう。
「すごい人…それに、総司さんの周りにも沢山の女の人が…」
ずきりと胸が痛み、総司のためにと持参した手作りのお弁当をぎゅう、と抱き抱える。
「…あれだけもらっていたら、きっと、いらないよね…」
そう決めつけると総司に会うこともなく二年校舎から去っていくのだった。
***
「はぁ〜〜…」
校舎裏にて沖田用のお弁当を床に置き、自分のお弁当の中身を口に運びながら何度目かになるため息を吐く。
「きっと総司さんは今頃あのクッキーを食べてるんだろうな…私なんか敵うわけないし…」
別れたくない。という気持ちが過ぎる。
自分から別れることはまずない、けれど沖田の気持ちが変わってしまうのは仕方がないと思ってしまいそしてまた大きくため息を吐く
「…別れたく、ないなぁ」
ぽつりと言葉を溢した時、焦った様子でやっと見つけたといった様子で沖田が姿を現した。
「君!…はぁ、こんなとこにいたんですか…」
ゼエハアと肩で息をした後沖田はしゃがみ込む。
「え、っと…総司さん?どうして…」
「どうしてって、君のせいじゃないですか!君が逃げ出すから…」
そう言ってむにむにと沖田は彼女の頬を摘む。
「い、いひゃいです…」
「痛くしてるんです!…何、僕から逃げてるんですか」
そう言う沖田の声色は寂しさの色が滲んでいた。
「そ、それは……」
「それは?」
「…クッキー、たくさんもらってたから…私が作ったお弁当なんていらないんじゃないかって思って…それで、」
「君、馬鹿ですか」
「あぅ」
沖田の脳天チョップに驚いたような顔をする彼女に深く沖田はため息を吐いた。
「何勝手に不安がってるんですか。というか君、僕に愛されてる自覚ありますか?」
「あい…してくれてるんですか…?」
「本当に馬鹿ですね…愛していなければ僕の唇を君に許したりなんてしませんよ。それにあのクッキーは押し付けられただけで食べてませんし、平助に渡しましたから」
「えっ、そうなんですか!?…私、てっきり…」
「……はぁ、で?君が僕のために作ったお弁当はこれですか?」
「え、は、はい…」
お弁当を開けると彼女が食べているものとまるっきり中身が一緒の彩り鮮やかなお弁当がそこにはあった。
「…食べさせてください」
「えっ、いいんですか…!?」
「いいんですよ。ほら、昼休みが終わらないうちに」
餌付けを待つ雛鳥のように口を開ける沖田の口へとそろりと箸で切り取ったハンバーグを運んでいく。
「ど、どうですか?」
「…美味しい、です」
「良かった!」
ぱっと笑う彼女を見てふっと沖田は笑みを深めた。
「やっと、笑いましたね」
「え…」
「あなたは怒ってる顔も驚いた顔も、泣いた顔もそれは面白くて好きなんですけど…やっぱり君は笑っていた方がいいですよ」
「…あ、ありがとうございます…」
「ん。わかったらさっさと食べさせてくださいよ」
「は、はい!」
そうしてすっかり食べ終えた沖田は美味しかったと言うように息を吐く。
「また作ってください。…君の作ったものなら、毎日でも食べてあげたっていいですから」
「…はい!」
そしてニコニコと無防備に笑う彼女に沖田はぐっと距離を近づけた。
「そ、総司さん…!?」
「君の機嫌をとってあげたんですから今度は僕の機嫌を取ってください」
「総司さんの機嫌、って…」
「君に逃げられて僕はすごく傷ついたんですよ?僕にこんな気持ちのままいろっていうんですか…?」
「そ、それは…」
「分かったら僕の機嫌を取るのに付き合ってください」
付き合うって一体、と問う前に沖田によって唇は塞がれていた。最初は触れ合うだけだった唇はどんどん深みを増していき、思わず息が漏れ出してしまう。
「…ドキドキ、してますか?」
「…それはもちろん」
「僕とキスしてるから?」
「総司さんとキスしてるのもそうですけど…いつ、誰か来るか分からない場所でするって言うのはその…」
と口籠る彼女にまた沖田は唇を重ねる。
「いいじゃないですか、見せつけてあげれば」
「見せつけるって…んっ、ふ…」
「…っ、僕はいつも思ってますよ。見せつけて僕だけの君だって知らしめたいと。」
「…そんなこと、思っていてくれたんですか」
「何ですか、悪いって言うんですか」
「ち、違います!その…ふふ、嬉しくて、それに…愛おしくて、総司さんが」
「僕が?」
「はい。それに大丈夫です、前世も今世もこれから先も、私の一番はずっと総司さんだけですから」
そう言って彼女は沖田の手を握る。
「本当、馬鹿ですね…」
そんなことを言いつつ嬉しげに頬を緩ませた沖田はそう言ってまた彼女の唇に口付けをする。そうして二人は昼休憩の終わりを告げる予鈴が鳴るまで、飽きることなく唇を合わせていたーー。
-了-