私の知らぬ彼 「かっ、……わいい!」
思わずそう声を漏らしたティファリアにそうでしょう、そうでしょうとザフォラの側近が満足気に頷く。
クルトラに来て、ザフォラの側近がティファリアを案内をしたのはザフォラの家でも、仕事場でもなくザフォラの幼い頃の写真が閉じられた数多くのアルバムが貯蔵されている書庫だった。
「ザフォラもこんなにあどけない時期があったのね…」
「今でこそザフォラ様は顔つきは鋭く、口も悪いですが幼い頃はそれはもう真面目で素直な子でしたから。そしてお父上をとても尊敬していました」
ザフォラの話でもよく出てくる父親、彼に会ってみたかったと思わないではないが写真として残る幼いザフォラと父親の笑顔が収められた姿に関係は良好で合ったことが伺える。
「…でも、どうしてここに案内してくれたの?」
「それは、知って欲しかったからです」
何を?と首を傾げるティファリアに側近は苦笑を浮かべる。
「ザフォラ様はクルトラに戻ってきてからずっとクルトラの再興のために尽力してこられて…正直、このように女性を連れてこられるとは思っていませんでした。ザフォラ様はその…心を開かれるのに時間を有するお方でしょう?ですから、お見合い相手でも見つけなければいけないのではと思っていましたがそれは見当違いでした。ザフォラ様はあなたに会えない間もずっとあなたのことを想っていましたから」
「…ザフォラが?」
「はい。あなたからの手紙を読むときの優しい顔と言ったら…」
そう言って思い出すように穏やかな笑みを浮かべる側近の言葉にティファリアの頬は赤く染まる。
「ティファリア様、どうかお願いします。ザフォラ様のことを何卒…」
そう告げる側近の手を握るとティファリアは笑いかける。
「任せてください、私がザフォラのこと幸せにして見せますから!」
そう宣言した時、不愉快そうなザフォラの声がティファリアの耳に届く。
「…そういうのは普通、女が言うものじゃないだろ、バカ」
「ざ、ザフォラ!?え、えっとこれは…」
アルバムを見ていたことから青ざめるティファリアだったが長い付き合いだからかザフォラは側近によることだと知っており、側近にくいかかる。
「何で見せた」
「ザフォラ様のことを知っておいて欲しかったので」
「こんな小さい頃のことなんて知らなくていい」
「そうでしょうか?ティファリア様は喜んでいましたよ?」
「ーー…お前、」
「ふふ」
ギリ、ときつくザフォラが睨み返してもどこ吹く風。彼は笑みを浮かべるだけで重たくザフォラは息を吐いた。
「ざ、ザフォラ…!」
そんなザフォラに駆け寄るティファリア。
「その、私だけ勝手に見るだなんて不公平だったわよね」
「は」
「今度私の小さい頃の写真持ってくるわ」
「でしたら取りに行かせましょう」
「いいの?」
「ええ」
「じゃあ、お願いするわ!…ふふ、こうしたらザフォラも私の小さい頃の写真も見られるし不公平じゃないわよね?」
「ち、ちが…っ」
「…違うの?」
すぐさま否定の言葉が出てきてしまったが、見たくないのかと問われれば答えはノーであり、最終的に消え入りそうな声で「…違わない」と答えるしかなく、一際大きく側近は笑いその頭にはザフォラのゲンコツがお見舞いされるのだった。
-Fin-