約束 「う……ん?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返し目を覚ます。よく見ればそこはτの私の部屋だった。起き上がろうとすれば近くにいたらしいリーゼが嬉しそうな、泣きそうな顔をして声を上げた。
「ユウキ!目を覚ましたノ!?」
「う、うん…えっと、私…?」
「研究所から伊吹に連れ戻されてτに戻って来たんだヨ」
「伊吹が…」
そう言えば私を抱きかかえながらBloomsと話していた時のことを思い出す。
「それで私はどうして…」
「伊吹から聞いたんだけど、ユウキ…研究者に囚われて研究材料にされてたんだって?すごい超能力を持ってるとかで。それで、散々使い潰されていたからかなり疲労がたまっていたみたいで…皆が言うにはすぐに塞がるみたいだけど注射痕とかすごいんだからネ!?今は包帯で隠してるけど…」
「そう、だよね…でも、塞がるみたいでよかった」
ほっと息を吐くと「よくないヨ!」とリーゼに怒られてしまう。
「すっっっごく心配したんだからネ!?それに、ユウキは三日も寝たきりだったんだから!」
「三日も!?」
「そうだヨ~!もうっ、今回の事で私、研究者のこと嫌いになったかも…」
「あはは…」
それは仕方がないと苦笑いをするとそうだ!と声を出してリーゼは立ち上がった。
「私、伊吹たちにユウキが目を覚ましたこと言ってくる!あと、何か食べるよね?久しぶりだから…お粥とかでいい?」
「うん、リーゼのお粥楽しみにしてる」
「うん、まかせて!」
パタパタと走って出ていくリーゼを見送ってそしてまた布団の中に潜り込む。三日も経っているなんて思わなかったな…とか、伊吹に助けてもらった時のことを思い出して、少し…顔を赤くさせているとバタバタと騒がしい足音と共に【彼】が現れた。
「ユウキ!」
「い、伊吹…」
あの時のことを思い出していたばかりだったからどうも気まずかった私だったけどそんな私を気にせず伊吹は私に抱きついた。
「!?」
「よかった…君が目を覚まして……リョウから、疲れていただけだから回復のために眠っているだけだってそう言われていたんだけど…いつになっても目を覚まさないから、僕…」
感情に乏しかった伊吹が私のことで泣いていた。そのことがすごく嬉しくなって私の胸を締め付ける。
「でも、目を覚ました」
「え」
「私、ちゃんと目を覚ましたよ。だから大丈夫。それと…伊吹、助けてくれてありがとう」
そう言うと伊吹は身体を離したあとぽかんとした顔をしたあと涙を拭ってそして笑った。
「うん、そうだね…君は目を覚ました。それに、助けたことは別にいいよ。僕がしたくてしたことだったから」
「それでも言いたいの、ありがとう。伊吹」
「君は…案外義理堅いんだね。でも、嬉しい…君を助けてよかったと実感できるから。――どういたしまして、ユウキ」
そうやって笑う伊吹はとても人間らしくてそんな成長を続ける伊吹が更に愛おしくなった。
***
そして皆がひとしきりやってきた後、お粥を作ってきたリーゼがやってきて。そして、そして――何故か私は伊吹に食べさせてもらっていた。
(リーゼってば!)
あとは二人で~、なんて変な気を使った伊吹に子供じみた怒りを覚えながら伊吹に食べさせられながらお粥を食べる。
「美味しい?ユウキ」
「うん、美味しい…」
「よかった。実はね、このお粥…僕も作るのちょっとだけ手伝ったんだ」
「そうなの!?」
「うん。と言っても卵を割って溶くだとか火加減を見るとかその程度だけど…味付けは完全にリーゼだしね」
「それでもすごいよ!でもどうして?」
「…君のために、出来ることをしたかったんだ。リーゼに言われてやってみたけど…君がそうやって美味しいって笑ってくれるなら、悪くないかもしれないな」
「…だったら、私の怪我…?が治ったら一緒に料理しようか。なんでもいいよ、お菓子とか一緒に作っても楽しいかもしれないし…」
「いいの?」
「うん、私が伊吹と料理したいから。だから、私のしたいことでもあるから…だめ、かな?」
「ううん、だめじゃない。僕もしたい…だから、僕からもお願いするよ」
「うん、じゃあ伊吹。ゆびきりしよう、小指を出して」
「う、うん?」
戸惑った様子で小指を差し出す伊吹の小指に自身の小指を絡める。
「!」
ゆびきりの歌を初めて聞いたように目を丸くさせながら伊吹は聞いていた。
「これで、【一緒に料理をする】ってのは約束したからね」
「…約束するときの歌なの?今の」
「うん、そうだけど…」
「なんだか物騒な歌なんだね。でも…気に入った。君が歌っているからかな」
ふふ、と嬉しそうに伊吹が笑う。そして約束を交わすとちゃんと治そうという気持ちを強く持つことが出来て、リーゼと伊吹が作ったお粥をぺろりと食べ終えることができたのだった。
-Fin-