私だけを見てくれなきゃ嫌 「帰ってやろうかしら…」
そう言ってご主人様は強い目で人間の女たちに囲まれる五右衛門を強く睨みつけた。
『雷でも撃ちますか?ご主人様』
「心配には及ばないわ、Hari」
心配してくれてありがとう、と言ってご主人様は僕の頭を撫でると不敵な笑みを浮かべたまま渦中へと進んでいく。
そしてーー……、
「いや俺は……」
「いい身分じゃない、石川五右衛門」
「え、お嬢っ…!?って、うわっ!?」
鞭を華麗に扱い五右衛門の足に引っ掛け自分の方へと転ばせ、そして五右衛門の唇をご主人様は奪う。
「なっ……〜〜〜」
恋する少女のように五右衛門の顔は赤く染まる。まるで苺や鬼灯のようだ。
「ごめんなさい、この男は私のものなの。あなたたちにはあげれないわ、残念だけど他の男を当たってくれる?」
勝気な笑顔だった。そう言いのけてみせたあとご主人様はすたすたと歩いて行き僕はその背中を追いかけ、五右衛門もまた着いてくる。
「待ってくれ凛!」
「知らない」
「知らないはないだろう?はは、本当…あんたって最高だな」
「囲まれてさぞ気分が良かったことでしょうね」
「なわけあるか。俺の一番はずっとあんただよ、凛」
その言葉にぴたりと足を止めるとゆっくりご主人様は五右衛門の方を向く。
「…嫉妬深くて、自信がなくて、ごめんなさい」
「なんで謝るんだ?」
「だってこんな心の狭い女…」
「俺は嬉しいよ。惚れた女に嫉妬してもらえるなんて…男として最上の喜びだ」
「…他の女に目移りなんてしないで」
「したことない」
「…私だけ愛してくれる?」
「これからも、これまでもずっと凛だけを愛してる」
「…しょうがないからわらび餅で手を打ってあげる」
「仰せのままに」
「…もう、」
そう言って二人は今度は手を繋いで仲睦まじく歩いていく。やれやれ、と僕はため息を吐くとそっとカメラ機能をオンにするのだった。
-了-