月夜のワルツ 「ふふ!ビラール、早く早くっ!」
「まて、ルル。そうはしゃぐな」
「ふふ、だって…っ!」
そう、先刻まで立食パーティー。会合の場にて緊張していたり各国の要人いたり全属性であるルルは奇異の目に晒されていて萎縮したり居心地が悪かったのだろう。湖を見つけたルルは子供のように無邪気な顔をしてドレスのままパンプスを脱ぎ捨て湖へと飛び込み私を夜のダンスへと誘った。
「『レーナ・アクア!水しぶきよ、私の周りを跳ねて踊って!』」
ルルの魔法につられるように月に照らされた水はルルの周りを舞い踊る。全てが幻想的で美しく思わず見とれてしまう私をリアンが背を押した。
「何を惚けているの。あなたの姫君があそこで待っているでしょうに」
「…リアン、」
リアンに言われルルの方を見るとルルはこちらを手招きしており私はゆっくりと歩を進めルルの手を取った。
「『レーナ・アクア。水よ、踊れ、舞え、私と我が美しき妻に水の祝福を。』」
「わぁっ!ふふ、綺麗ね、すごく」
お前の方が、なんてキザったらしい言葉は出てこず私は黙ってその手を強く引き、その手の甲に口づけを落とした。
「美しき姫、私と今宵…踊ってくれますか?」
「ふふ、ええっ!もちろん!」
花のように笑顔を咲かせるルルの了承に嬉しくなりながら月夜の中ワルツを踊った。ぱしゃぱしゃと弾ける水の音が心地よく、素足で踊るのもまた気持ちよかった。
「お前がそうやって笑ってくれると私も救われるよ」
「え?」
「さっきはどうも息苦しそうだったからな…」
「う…慣れたいとは思っているのよ?でもどうにも慣れなくて…それに私はその…」
「全属性の魔法士という前例がないものだから。興味を抱かれるのは当然なことだろう」
だから私はひとときも離れずそばにいるのだが。
「…うん、でもその実験動物になったような気持ちになっちゃって…ごめんね」
「謝らなくていい。それにそう感じるのは真実だろう」
現実彼らはルルのこと私の妻、そして世にも珍しい全属性の魔法士としか見ていないだろうから。だがそれはまた私にとって好都合というものだった…だってーー。
「ビラール?」
突然の口付けに驚いたようにルルは目を丸くさせる。それに私は小さく笑う。
「いや、我が妻は相変わらず愛おしいなと愛を感じていたところだ」
「…本当?」
「嘘ではない」
全を見抜く瞳でくすくすとルルは笑う。
「私はルルのものだからな。その逆もあるということだ」
その言葉に全てを理解したルルは困ったように、けれど嬉しそうに笑った。
「心配しなくても私はずっとビラールのものよ?」
「分かっていてもなお、不安なのだ。弱い男心を分かってくれ」
困ったように笑うとまた口付けを交わす。そして私たちは体が悲鳴を上げるまで踊り続けていた。
『二人の世界なのはいいことだけれど、目立っているの分かっているのかしら…』
集まりすぎた水の精霊たち、そして楽しそうに踊る主とその妻。その様子を見てリアンは息を吐く。
「まあ、楽しそうだから良しとしましょうか」
そう言ってリアンは目を細め祝福の雪を降らせたーー。
-Fin-