めっちゃ書きかけの王盗 ランタンの薄い灯りが、空洞内の岩肌を柔らかく照らしている。
まるで若木のような爽やかな温かさを感じる黄土色の壁、炎のゆらめきに人影が映し出されていた。穏やかな間延びした空間で紙を捲る微かな音が、まるで精霊の織りなす木霊のようだ。
男はどこか夢を見ているかのようなぼんやりする思考で、視線だけを巡らせて辺りを見回すと、影の主に目を留めた。己の一番新しい記憶にある人物、亜麻色の髪の青年だ。岩肌に背を預け、手にした本を真剣な表情で見つめているその人物は、先程月明かりの下で見た時よりも随分と違った印象を受けた。ナイフのように冷たく尖っていた眼差しは、新緑の森の柔らかな木漏れ日を集めたように穏和なエメラルドで、亡霊のように青白く光っていたその肌は、ランタンの赤い光も手伝ってほんのり桃色が宿り健康的に艶めいている。
1877