まだ一日目です居心地のよい和室。
障子で区切られた向こうには寝室としてローベッドが置かれ、景色が一望できるベランダには檜でできたチェアと露天風呂が設置されている。
温泉旅館だ。
会社が有給を取れとうるさいので、山姥切と三日月は平日ど真ん中に三泊四日の温泉旅行デートをしに来ていた。
きょうはその初日で、先ほど宿に着いたばかりだ。
荷物を置いてひと息ついたら温泉街を散策したり、観光したり、温泉に入ったりしようと話していたのだが。
「うああぁあぁあんっ、や、山姥切ぃ……!」
そんな穏やかな空間に悲壮な三日月の声が響いた。
お手洗いに、とトイレへ立った彼女が半べそで戻ってきたので、山姥切は茶を淹れる手を止めて駆け寄る。
「どうした?」
「あ、ぁう……き、きてしまった……月のものが……」
くすん、と涙ぐんでささやかれたつぶやきに、山姥切はああ、と納得した。
たしかにそろそろ三日月は生理だったな、としれっと彼女の月経周期を把握している山姥切は大して驚いた様子もない。
同棲をしているので相手の周期を早々に覚えてしまっただけだ。
「せっかく山姥切と温泉に来たのに……これでは入れないではないかぁ……」
しかし、三日月の方は相当ショックだったようで、下腹に手を添えたまま膝の力が抜けて座り込んでしまう。
「……パンツも汚してしまったし、ナプキンだって用意してこなかったし……」
楽しい計画を中断して、あれやこれやを買いに行かないといけない。
憂鬱なこわねでがっくりとうなだれる三日月に山姥切は方をすくめた。
そうして、自分の荷物をごそごそと探ると中型のポーチを取り出す。
「そら、使ったらいい」
「えっ!」
目の前に差し出されたレースが使われた可愛らしいポーチに驚きつつも受け取り、チャックを開ければ中には新品のサニタリーショーツと生理用品が詰められていた。
「や、山姥切……!」
「あんたが、そろそろ生理になるだろうな、と思って……」
「山姥切〜っ!」
とんでもなく出来た恋人へ三日月は嬉しくて思わず抱きつく。
その直後、どろ、と膣口から這い出てきたぬめった感触を覚えて慌ててトイレへ引き返した。
三日月の生理による体調不良はなかったので、そのあとは予定通り温泉街を楽しみ、道中の足湯に浸かり、暗くなってきたので早々と旅館へ戻る。
部屋に用意された夕飯へ舌鼓を打ちながら少しばかりアルコールに酔った。
そしていざ風呂に入ろうと腰を上げたころ、三日月が寂しそうに眉を下げる。
彼女は寝巻の浴衣を片手に山姥切の背中を押した。
「……山姥切は露天風呂を楽しんでくるといい」
「あんたは入らないのか?」
山姥切が首をかしげれば、三日月は困ったように笑う。
「いや、ほら、いくら個室の露天風呂とはいえ、さすがに湯を汚すのは気が引けるなあ……」
「ああ、そうか……」
だから俺はシャワーに、と言いかける三日月の目の前で山姥切はポーチを開けた。
内ポケットを探ると目当てのものを見つけて取り出す。
「これなら生理でも心配なく風呂に入れるぞ」
細長い個包装を渡されて三日月は不思議そうな顔をした。
思わず天井の明かりに透かすように持ち上げる。
「これは、なんだ?」
初めて見るのか、三日月がパチパチと瞬きをする。
「タンポンだ」
「たんぽん……?」
聞き慣れない名前に首が曲がった。
「生理用品のひとつだ」
「ほお、こんな小さなものがあるのだな。……して、どうやって使う?」
「膣の中へ入れる」
「なっ……中っ!?」
淡々と説明をする山姥切の言葉に、生まれて初めてタンポンの知識を与えられる三日月は戸惑う。
説明が終わったころにはタンポンの小袋を両の指で握りながら小刻みに首を横に振っていた。
「む、無理だ、こわい、こんなの入れられない」
山姥切へ突き返そうとするのを押し返される。
「怖くない。いつも俺の指を三本も四本も入れてるだろ」
「だ、だって、それは……や、山姥切だから……!」
肉体的な関係を持っている山姥切以外のものを入れたことがない三日月にとって、無機物を入れることは恐怖だった。
たまらずタンポンを押し返してくる山姥切の手へすがりつく。
「や、山姥切は、使ったことはあるのか……?」
これ、と言ってタンポンの包みを揺らせば山姥切は当然といった顔でうなずいた。
「ああ、学生から使っているがずいぶん勝手がいいぞ。生理でも水泳ができるし、量の多い二日目でも小さいナプキンでいれるから肌ストレスも少ない。夜に使えば漏れや布団を汚す心配もいらないしな」
「そ、そうなのか……」
いままでの人生で生理のたびに悩まされていたことがすんなりと解決されそうなことを言われて、三日月の視線がタンポンへ向く。
経血の量はそこそこ多い方だ。
三日目まではドバドバ血が出るし、寝ている時にシーツどころかマットレスまで汚したことも少なくない。
お気に入りのスカートやズボンもダメにしたこともあるし、なんならシミがひどくて上着で隠しながら帰宅したこともある。
内腿と膣に力を入れていたものの、風呂に入っている間に血が流れ出てお風呂の湯を赤く染めたことも何度か経験した。
「ぁ、ぅ……」
「俺もあんたと一緒に露天風呂、しかも個室についてるから人目を気にせず過ごせるのを、楽しみにしていた……」
「ぇ、ぁ……ず、ずるい……俺だって……」
悩み出した三日月の膝がもじ、と擦れたのを見て、山姥切はさらりと言う。
「俺が入れてやろうか」
「えっ、あ……!」
迷う指先からするりと筒が抜かれ、山姥切が三日月の背後へ回った。
着ていたワンピースの裾がするすると肌をなで上げる。
「怖いなら見るな。入っているのは俺の指だと思えばいい」
耳裏で響く女性としてはかなり低めのアルトがなだめるようにささやいた。
そわり、と膝上から太腿をなぞった指がショーツにかかる。
「あっ! だめ! ま、まだ汚いっ! トイレに行ったし、血だって……!」
「ああ、いっぱい吸ってるな」
すり、と指の腹が鼠蹊部をなでて、侵入を拒むように擦り合う内腿の上にできた隙間へ忍んだ。
ショーツ越しの土手肉は体温の代わりに経血をたっぷり含んだナプキンの感触を指に伝える。
コットンがもっちりとするほど股に当てられていたナプキンを数回なでこすって山姥切はたくし上げた服の裾をウエストの飾りベルトへ差し込んだ。
両手を自由にして今度こそ三日月のショーツを引き下ろす。
「や、やだっ! やだあっ山姥切、みな、見ないでくれぇ……!」
これ以上の羞恥はないと、顔だけでなく耳も首筋も真っ赤に染めた三日月が逃げるように抱えた浴衣へ顔を押しつけた。
ふるふると肩が震えている。
加虐心があおられるのを感じながらも山姥切は穏やかに「大丈夫、大丈夫」と繰り返した。
じわじわと足を開かせ、のろのろとショーツを引き下ろす。
「……ぁ」
真っ赤に染まった重たいコットンの表面からむわん、と体温で温められた経血とわずかなおしっこの匂いが混ざって蒸れたかぐわしい匂いが香った。
三日月の鼻に届くそれは当然、真後ろに立つ山姥切にも伝わるだろう。
「ぁ、ぁ、ゃ……」
いくら恋人でも、汚物を目に触れさせて、匂いを嗅がれるなんて、普通じゃない。
しかし、山姥切は変わらず平然とした様子で、震える三日月の下腹をなでると指を土手肉へ滑らせる。
ひくん、と三日月の体が揺れた。
ビニールの包装を開ける音が小さく響く。
「大丈夫」
三日月が反応をするたび山姥切の声が気持ちをなだめていった。
くぱ、と肉を左右に開かれて、中央の奥にひっそりと息づく膣口に何かが触れる。
「ひっ」
ぬり、ぬりゅ、と小さな肉ビラをなでるつるりとした感触に肩がすくむと、山姥切の唇が耳裏へ口付けを落とした。
「大丈夫、俺に任せてくれ」
「ぁ、ぃ……」
三日月の呼吸が細く息を吐く瞬間に合わせて、添えられていた先端がぬくくくくっ、と入り込む。
途中、先端が膣襞にひっかけてしまったのか、こにゅ、こりりっと柔らかく引っ掻かれる感触がして三日月はびくんと腰を跳ね上げた。
内腿が必要以上にキュッと締まるので、山姥切の手が優しくなでて力を抜かせる。
「もう少しだからな、入れたら一緒に風呂に入ろう」
「ゔ、うぅ〜……」
ほう、と三日月が息をついたのを見計らってタンポンの角度を調整した山姥切はゆっくりと押し込んだ。
膣の肉壁がじわじわ、と割り開かれる。
細いと言っても山姥切の小指一本分はありそうな太さだ。
処女膜が破れたり、体に負担になったりする大きさではないが違和感がある。
自分の股の所で山姥切ががさごそと手を動かすと、息をついた。
同時に、肉壁を再びなでられる。
「〜〜〜〜っ、」
まだなにかあるのかと眉を寄せた三日月だったが、ぬぽん、とタンポンの殻が抜け出るとそれだけだった。
入れる時にあった腹の中の違和感をなく、たしかに山姥切の小指サイズのものが中に入っているはずなのに不思議でしょうがない。
「お、終わったのか……?」
おそるおそる三日月が尋ねれば、山姥切は指先を真っ赤にしながらうなずく。
「ああ。痛いとか違和感とか、気分が悪いとかあるか?」
「い、いや……ない……が」
山姥切が真っ赤に汚れた筒を捨てている間、終わったことによる安堵で興味がまさったのか三日月は自分のスカートの中をのぞき見た。
ちょろん。
「っ!?」
ぴったりと閉じた血まみれのおまんこからネズミのしっぽのような紐が垂れていて驚く。
「や、山姥切……ひ、紐が……!?」
「それは抜く時に使うからそのままにしてくれ」
言うが早いか、ゴミの処理をし終えた山姥切の綺麗になった指が紐の先を絡め取った。
抜けない程度にくい、と引かれて三日月が慌てる。
「やうっ」
「うん、大丈夫そうだな。紐は防水だから風呂はもちろん、このままおしっこしても平気だぞ」
「んなっ!? そ、そんなこと、し、しない!」
三日月が真っ赤になって言い返すころには下着をゆるく直されてベランダへ促された。
軽く握った拳でポカポカと山姥切の肩や背中を叩いて反論しようとする三日月を小さく笑ってうまくかわし、手際よく風呂に入る支度をする。
チェアに着ていた服や浴衣を置いていそいそと手桶で湯をすくった。
「うっ、さすがに夜はちと寒いな……」
「背中もかけてやるから、かがんでくれ」
「あい」
素直に膝を折って身を縮める三日月のなめらかな背中へ山姥切が湯をかける。
ざあざあと体を洗い流してもらっている間、三日月はひとりとても感動していた。
常の風呂では考えられないほど、こんなに動いても股から血が出てこないのだ。
タンポン、おぬし、できるな…!
指に触れた紐の存在にだけ違和感を覚えつつ、さっと体をなで洗えば山姥切が「先に入っていろ」と言って今度は自分の体を洗い始める。
その言葉へ素直に従ってそろりと湯船をまたいだ。
足先からじわわ、と熱い温度に包まれる。
まずは湯船の縁に腰かけて足湯をし、ゆっくりと湯に慣らして体を沈めていった。
「ほわぁぁあぁぁ〜……」
とろけた息をつく三日月の姿にくすりと笑いながら、その隣へ頭から湯をかぶった山姥切が静かに水面を揺らして入ってくる。
「心地いいな……」
彼女も三日月ほどではないが感嘆の息をついて体の力を抜いた。
風呂の中にある段差に腰を落ち着かせて半身浴をすれば、湯の温度と夜風の温度がちょうどよく、一日の疲れを癒していく。
経血が出てこないことに安堵した分、ゆるゆると体を伸ばして風呂を楽しむ三日月は無防備だ。
いつもは家でも裸を見せるのは抵抗があると言うのにいまは隠すことなどせずに座っている。
慎ましやかだがきちんと起伏のあるちぶさが湯の中で揺れた。
色はついているが透明度の高い源泉掛け流しの水面の向こうには色づいてぷっくりと膨れた乳首も乳輪も見える。
こて、と山姥切が三日月の肩へ頭を寄せた。
「うん? どうした?」
三日月も同じように首を傾ければ、頬に金髪が柔らかく擦れる。
「……すまん、えっちしたくなった」
「は、はあぁああっっ!?」
気難しそうに眉を寄せる山姥切へ、三日月は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
兎にも角にも無事に露天風呂だけでなくデートを満喫することができた二人だった。