まだ一日目です居心地のよい和室。
障子で区切られた向こうには寝室としてローベッドが置かれ、景色が一望できるベランダには檜でできたチェアと露天風呂が設置されている。
温泉旅館だ。
会社が有給を取れとうるさいので、山姥切と三日月は平日ど真ん中に三泊四日の温泉旅行デートをしに来ていた。
きょうはその初日で、先ほど宿に着いたばかりだ。
荷物を置いてひと息ついたら温泉街を散策したり、観光したり、温泉に入ったりしようと話していたのだが。
「うああぁあぁあんっ、や、山姥切ぃ……!」
そんな穏やかな空間に悲壮な三日月の声が響いた。
お手洗いに、とトイレへ立った彼女が半べそで戻ってきたので、山姥切は茶を淹れる手を止めて駆け寄る。
「どうした?」
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