ちゅうちゅう🚬🪓がマッサージとかする話 part3 痛みに耐えるような苦顔が一変し、今は困惑と安堵とが曖昧に混ざったような顔をしている。ロージャ自身、自分の表情が分からなくなっていた。なんせ初めて経験した刺激から解放されるや否や、これもまた未経験の気持ちよさを与えられたのだから。
良秀はロージャの戸惑いの意味を察した。我が意を得たり――そのような気分になりつつも慎重に続けていく。問いただすというよりは分かり切ったことを確認するといったような口調で、ロージャに声をかけた。
「黙ってないで答えろ。これは良いんだな?」
「…………」
「おい」
「……もう少し、上」
「俺は位置じゃなくて力加減の……はぁ、まあいい」
ロージャにとって意外なことに、良秀はさらにいくつか質問を重ね、位置を微調整していく。ロージャはますます驚いてしまう。彼女とて、まさか本当にリクエストに応じてもらえるとは思っていなかった。素直に答えるのが癪だったから、苦し紛れに困らせてやろうと思っただけだったというのに。
ちょうど良い位置を探り当てられ、思わずロージャは深い心地良さに感じ入りそうになる。多くの活動時間を甲冑姿で過ごし規律的な所作と生活を続けていたせいか、あるいはこの店に捕らわれてから運動量が激減したせいか。どちらにせよ、長い間日常的に同じ姿勢を取り続けたことで酷く凝り固まっていた彼女の筋肉には、見よう見まねのマッサージであろうとも抜群に効果があった。
しかし、堕ちても彼女はN社の異端審問官である。
忌むべき異端追従者の手によって癒されるなど、屈辱以外のなにものでもない――そのことに思い至るや否や、彼女は勢いよく唇を強く噛んだ。
ぶち、ごり、と。肉と歯のぶつかる音がごく間近で響く。血の臭いが鼻腔に広がる。なにより、鈍くも無視できないこの痛みが彼女に矜持を忘れさせない。
「おい……あまり傷をつけるなよ」
その様子を見た良秀が苛立ったように言った。あたかも自分の所有物を害されたことが不快で仕方がない、という調子で。それでも声色の根底には、ロージャの挫けぬ反抗心を歓迎するような仄甘い響きがあるのだが。
ロージャは臆さず冷え切った目で良秀を睨む。変わらない態度を受け、良秀は策を講じることにした。
少し考えたあと彼女はタオルを手に取る。そしてロージャの顔に触れた。
「あ・か・て・か(相変わらず手間をかけさせる)。」
何をするつもり――ロージャがそれを尋ねることは叶わなかった。なぜならば、言葉を発する前にその口を塞がれたから。
良秀はロージャの口を無理やり開かせ、持っていたタオルをねじ込んだ。
「――む、うっ……!?」
吐き出そうとする暇は与えない。頭を持ち上げてタオルを一周させ、後頭部で結んで固定する。その鮮やかな手並みは普段の調理の下準備を想起させる。黙って眺めていたグレゴールが思わず「おー」と間の抜けた声で感嘆したほどだ。
「フーッ! む"ぅーッ! んう"ッ!」
一方良秀は、塞がれた口で憤怒に唸るロージャを「煩い」と一蹴した。そして笑って告げる。
「安心しろ、今日は大人しくしてりゃ良くしてやる」
その言葉を皮切りにして、マッサージが再開された。