君と久遠の夢をみる〜プロローグ〜
夜霧が立ち込める、鬱蒼とした森の奥。
ひっそりとした佇まいの小屋から、竪琴が紡ぎだすやわらかな音色が流れて、夜闇に広がっていく。
薄い藤色の翅をもつ小さな生き物が、その優しい旋律に惹かれたかのように、ひらひらと飛んで小屋の窓へと降り立った。
演奏が途切れるのを待って、その生き物は奏者へと話しかけた。
「こんばんは、お兄さん」
「誰だ」
竪琴を抱いた男――――ラン・ワンジーが、短く誰何する。
「シェンシェンだよ!」
シェンシェンと名乗った夜の来訪者は、窓枠からぴょんと跳びあがって、竪琴の上に座った。
――――それは、小さな妖精だった。
大きさは、手のひらに載るくらい。ふんわりとひらめく桃色のケープをまとって、首元には赤いリボンを結んでいる。まるで少女のような風貌だが、悪戯めいた笑顔は少年のようにも見える。
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