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    nanana

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    アンタが恋愛的に気になるをうっかり言い間違えた男の話。

    #雷コウ
    ##ハンセム

    春の嵐が告げる(雷コウ) 厚手のコートを羽織っていても身をすくめて歩かねばならないほどの寒さはこの頃めっきり少なくなった。特に今日は風は冷たいとは言え降り注ぐ日光が温かい。ずっと必需品だった手袋を置いてコウは福岡から広島の地へと飛び出した。歩く街のあちこちで春の匂いがする。
     柔らかな陽の光を浴びながら辿り着いた広島本部の会議室。会議開始時間ギリギリにたどり着いたものだからそこには残りのHEADが三人そろっていると思っていたのに人影は一つしかい。窓際の一際日の当たる席に机に突っ伏すようにして眠っていた金色の頭がドアの開いた音に反応をして顔を上げる。
     男は寝起きのぼんやりとした表情のまま眉を寄せる。この男が自分を嫌っているのは知っているがそこまで露骨に態度を変えなくてもいいのでは、とは思うもののこのわかりやすさは実はそこまで嫌いではない。他の人たちは、と聞くよりも先に男が眠そうに口を開いた。
    「嘉間良さんは飛行機が少し遅れるらしいから会議は三十分開始時間を遅らせるって。んで利狂さんはそれまで別室で別件片付けてる」
     それだけ早口で告げて、くあ、と隠すこともなく大きな欠伸をした男は大きく伸びをしてまた机に突っ伏す。暖房もついていないというのにこの室内は春の日差しのせいで温かい。眠くなるのはわからなくもないけれど会議室でその恰好は少々はしたないのではないだろうか、そう口にしようとしてやめた。会議も始まっていないしどうせまた小言が多いと不機嫌になられるだけだ。それに不眠症の自分にとっては少し羨ましい。
     会議ができるように四角形になるように並べられた机。一番奥の窓際の席に男は寝ている。正面に座るのも何かおかしくて、悩んだ末男の右側の机に腰掛けた。余った時間を無駄にするのもよくないと持ってきた鞄からノートパソコンを取り出して臨床心理士の方の仕事を片付けていく。
     カタカタとキーボードをたたく音だけが響く室内に響いていた。窓から差し込む穏やかな日差しと昼下がりのどこか気怠い空気。それが妙に心地よくて居心地がいい。自動販売機で珈琲でも買ってこようかとパソコンから視線を上げた瞬間、こちらを見つめていた視線に気が付いた。
     視線を向ける二つの青い瞳。それはまだ半分夢の中のようで、いつも見せるこちらを射抜くような強さはどこにもない。さながら冬眠から目覚めたばかりの動物のようでどこか可愛らしくもある。
     韓国から帰ってきてからこの男の雰囲気が少し変わったように思う。そのころ丁度自分の心境にも変化があったものだから周りも違って見えるのだと思っていたのだけれどもどうやら違ったようだ。
     他人を拒絶するように張りつめていたものがなくなった。それから目の前の人物を通り越してここにはいないはずの誰かに視線を合わせることがなくなった。それはきっと彼にとっても、彼のチームにとっても良いことだというのは夜鳴の皆の顔を見ていればわかる。だてに臨床心理士をしていない。
    「……何かこちらに用かな?」
     問いは一秒、二秒――少し遅れてようやく彼の脳内に届いたらしい。ワンテンポもツーテンポも遅れて男が口を開く。
    「用はねぇけど」
    「けど?」
    「本当にアンタ顔だけはいいよな」
    「それはどうも」
    「別にお世辞言ってるわけじゃねぇけど」
    「今更君にそんなことを言われたところで何か裏があるとしか思えないだろう」
    「そんなんじゃねぇわ、あーなんて言ったらいい?えっと、あれだ、この間アンタでヌイた」
     うららかな春の日。こんな気持ちのいい日に男の口から飛び出てきた言葉に思わずひっくり返りそうになった。聞き間違えようにもこの静かな部屋でどうやったら間違えられるというのか。
     ぐらりと眩暈がして椅子から滑り落ちそうになる。一体この男は何を言ってるのだろうか。何を言ったのかわかっているのだろうか。寝ぼけているにしてもたちが悪すぎる。
    「あー、悪い。言葉を間違えた。今の言い方は流石に気持ち悪ぃわ……」
    「あ、そう、そうか。私も動揺しすぎてしまったな。その、ヌイた、とか、その、冗談だろう。和食君、冗談は言っても良いことと悪いことが――」
    「いや、冗談じゃねぇけど」
     ガツンと頭を後頭部から殴られたような、というのはこのことを言うのだろう。はくはくと何かを紡ごうと口を何度も開くというのに言葉だけが出てこない。そんなこちらの様子を見て気まずそうに男は視線をさ迷わせる。
    「俺だってアンタなんかで――」
     言葉は最後まで紡がれなかった。会議室の扉が開いて遅れていた二人が入ってくる。部屋の中の異様な空気に気が付いたのは利狂だけだっただろう。流はいつもの様子で気にすることもない。固まったまま動けない二人を交互に見て、利狂はふむと顎に手を当てた。
    「取り込み中だったみたいだがすまない、時間が押しているので会議を始めさせてもらおう」
     その後、会議が始まっても終わってもどんな顔をすればいいのかわからなくて男の方を見ることができなかった。
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    nanana

    DONE付き合ってない雷コウ。
    次に会った時には、プレゼントされたのだというもっとよく似合うグレーがかった青のマフラーが巻かれていてどうしてか腹立たしかった。
    吐き出した冬を噛む(雷コウ) 以上で終了だ、と男が持っていた資料を机でトントンとまとめながら告げた時、窓の外には白い雪がちらついていた。数年に一度と言われる寒波は、地元である高知にも、今現在訪れている福岡にも珍しく雪をもたらしている。それがどこか新鮮で少しだけ窓の外をぼんやりと眺める。男もつられたように同じように視線を向けた。
    「雪か、どうりで寒いわけだな」
     二人きりの福岡支部の会議室。ちょうど職員の帰り時間なのだろう、廊下の方からも賑やかな声がする。
    「こんな日にわざわざ福岡まで来てくれた礼だ。もつ鍋でもご馳走しよう」
     こんな日に、というのはダブルミーニングだ。一つはこんな大寒波の訪れる日に、という意味で、もう一つはクリスマスイブにという意味だ。雷我がこの日を選んだことに深い意味はない。たまたま都合のよかった日にちを指定したらそれがクリスマスイブだっただけの話だ。夜鳴のメンバーと予定したパーティの日付は明日だったからクリスマスにはイブという文化があるのを忘れていたせいかもしれない。
    2302

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