しばらく実家に帰らせていただきます 珍しくケンカなんてしたらしい。どうしてオレが愚痴なんて聞いてやらなきゃいけないんだろうな、とは思うものの面白いものが見られそうだ、と観察を続けた。
「まなで…」
「俺は!」
ウツシの言葉を遮った声は大きく、けれど震えている。
「俺は確かに、貴方に比べればまだまだ子どもだし、世間知らずだし、頼りないですよ」
「まな…」
「でも!」
ぜえはあと息を荒げながら、それでも言いたいことは言い切ってしまおうという気概は感じられる。
「それでも、貴方は、俺の、夫で…俺は、貴方の妻、でしょう…」
俯いた顔は面の裏でどんな表情を浮かべているのか、窺い知ることは出来ないけれど、その小刻みに震える肩から察しはつく。
「…愛弟子、アル……あの、」
伸ばされた手が触れる前に、ばっと顔を上げて。
「歯、食いしばってください」
「えっ」
「口切っても知りませんよ」
振りかぶったその手のひらは指先が揃えられていて、ああ拳じゃないんだな、優しい子だとただ見守った。乾いたいい音が響き、呆然とひっぱたかれた頬を押さえて見つめるばかりのウツシにきっぱりと告げた、その言葉。
「しばらく実家に帰らせていただきます」
えっ!?と素っ頓狂な声を上げた年上の息子を振り返ることもせずに背を向ける、その腕に縋りつこうと伸ばされた指は遮ってやった。
「まあそういうことだから」
尚も追い掛けたそうにするその眼前に鼻先を突き出してやって、一応警告だけはしてやろう。
『雷狼竜如きが冰龍の翼に追いつけるだなんて思うなよ』
そんな!と絶望したように崩れ落ちるのを振り返りもせず、背には愛しい子を乗せて翼を持ち上げた。