薄いカーテンを貫く白い光にフリスクは諦めて目を開いた。デザインは可愛いが遮光性をもっと考えるべきだったなと寝ぼけた頭で考える。
一人暮らしのフリスクの部屋だ。親善大使の仕事の事情もあって街の中心部へのアクセスが良く、かつセキュリティがしっかりしている。
これで家具も上質なものを揃えればさぞゴージャスな部屋になったことだろうが、そこはなにせ年頃のフリスクの趣味だ。
よく言えば賑やか、悪く言えば雑然としている。
見慣れたキルトのベッドカバー、窓辺の棚に小さな観葉植物の鉢、壁にはメタトンのポスター、アルフィーからもらったみゅうみゅうのフィギュアはパピルスからもらった赤いミニチュアオープンカーの隣。
そんないつも通りのフリスクの生活空間にひとつ、異質なものがあった。
「え」
投げ出した腕の先でフリスクの手を包む、骨の手。
何も身につけていない素肌の背中に感じる硬い感触は、おそらく彼の身体で。
骨の手、骨の身体、加えて頸のあたりに感じる寝息。
恐る恐る、そっと振り向いて確認して…
「(なんでサンズがここに!?!?)」
思わず叫びそうになった喉に思い切り力を込めて堪えた。
そして気がつく。自分もおかしい。
いつも寝る時に来ているパジャマ代わりの部屋着どころか、下着すら身につけていない。スースーする。
「(なんで裸!?なんでサンズ!?え!?今は朝!?昨日は…)」
昨晩の記憶を振り返り、フリスクは頭を抱えたくなったが、実際のところは微動だにせず頭痛に耐えただけだ。
頭痛、そう、昨晩はお酒を飲んだのだ。サンズと。
地上のグリルビーの店で、いつも通り夕食を済ませた後、ちょっとだけのつもりで。
それがなんだか随分と楽しかったことを覚えている。楽しさのまま、サンズとスーパーマーケットに寄って、安いおつまみと安酒を買って、そして、この部屋に。
会話は断片的に覚えている。何故自分が裸なのかも、あの後サンズとどうしたのかも、時間経過とともにじわじわと脳裏に蘇ってきた。
「(身に覚えがありすぎる…)」
安酒をあれこれ混ぜて飲んでしまったのが悪かったのだろう。軽く二日酔いだ。
「…あれ!?今何時!?」
「ふがっ」
ガバリと身を起こすと、背中にくっついていたサンズが間抜けな声を上げた。
トリエルが趣味で始めたというトールペイントが施された可愛らしい壁掛け時計を見上げてフリスクは頭痛もめまいも忘れて飛び上がる。
「あと10分しかないじゃん!!」
今日の講義は絶対に休めない。フリスクは今度こそ悲鳴をあげてバスルームに飛び込んだ。
3分で全身洗い上げて流し、必死に髪の毛にドライヤーを吹き付ける。髪を伸ばしてみてはといろんな人に勧められてきたが、こんな時は本当に短いヘアスタイルにしておいて良かったと思う。
日焼け止めを雑に塗って、化粧はリップのみ。
「サンズ!私もう出るから!」
「んあ?」
「鍵貸すから帰る時閉めて出て!鍵はママ…じゃなくてグリルビーに預けて!それじゃあね!」
愛用しているバッグを引っ掴み、スニーカーの踵を踏んだままフリスクは外に飛び出した。走ればいつものバスの次のバスには乗れるはずだ。
そうして走って走って辿り着いたバス停には、人っこ一人、モンスターひとりもいなかった。いつも朝のこの時間はそこそこの長い列が出来ているのがお決まりで、今日は座席に座ることはできないなと覚悟を決めてきたというのに。
額の汗をハンカチで拭って、すっかり息も整う頃になってもバスは来ない。おかしい。
木漏れ日がチラチラと足元に複雑な模様を作って、朝の少し涼しい風が爽やかだ。だけどおかしい。
携帯の液晶と、バスの時刻表を睨み比べていると、ポンと肩を叩かれた。
「休日ダイヤだからじゃないか?」
いつもの青いパーカー姿。片手を上げたサンズがのんびりとそこにいた。