伊達メガネの話「……」
雑誌の撮影のため俺の後にスタジオに入ってきた黒崎が、俺の姿を見た瞬間動きを止めた。
目を限界まで見開き固まっている。まるで信じられないものを見てしまったみたいだった。
「あぁ? なんだよ」
「……」
睨んでみても反応は返ってこない。また、どうして硬直しているのか検討もつかない。
よくよく見たら固まっている理由が分かるだろうかと、伊達眼鏡に手をかけた。撮影の小道具でかけていた眼鏡。それを外せば、引っかかっていた糸が解けたみたいに黒崎が急に動き出した。
「……んんっ、すまない。なんでもない」
咳払いをした後も、マゼンダ色の目を逸らしたまま。
「いや、なんでもねぇってことねぇだろ」
「なんでもない!」
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