Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ntyo_create

    @ntyo_create

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    ntyo_create

    ☆quiet follow

    テスト期間の源唯ちゃん

    #スタオケ
    #源唯
    yuanwei
    #鷲上源一郎
    genichiroWashigami

    WARM or HOT 夏の日差しが落ち着き、窓から通り抜ける風がひんやりと感じられ始める今日この頃。スターライトオーケストラの面々を待ち受けるものは勿論、中間考査である。「赤点があった場合は追試を合格するまで課外活動禁止」との学校側からのお達しがあり、篠森先生から目をつけられている者は、先日個別に呼び出しを受け念を押された。その中の一人が朝日奈である。

     夜の十一時を回った頃、源一郎の部屋の机では、唯がわなわなと古典文法と戦っていた。その横で源一郎はベッドに腰掛け、生物の教科書を眺めている。一時間ほど前に源一郎は唯からのヘルプコールを受け、已む無く自室へ招いたのだ。本来なら男子寮への女子の入館は認められていないが、コンミスたる唯が万が一にも赤点を取ってしまうことの方がオーケストラとしては打撃があると考えた故の結論である。もし誰かに知られてしまったとしても、この状況を説明すればきっと理解を得られるはずだ。
    「……源一郎先生、これ……」
    「ああ、どこが分からないんだ」
    「……全部です」
     チーンという効果音と共に、唯が分かりやすく項垂れる。源一郎は優しく、「大丈夫だ、ゆっくりやろう」と声を掛け、文法書に手をかけた。すると突然
     ――くしゅんっ
     唯が小さくくしゃみをしたのだ。
    「朝日奈、寒かっただろうか。」
     唯の服装は夏の暑い頃と変わらず薄着だ。これでは体が冷えてしまったとしても当然のことだろう。
    「うーん、ちょっと寒いかも。」
    「君が嫌でなければ俺の服を貸そうか。」
    「いいの?ありがとう。」
     唯の返事を聞いた源一郎はすっと立ち上がると、クローゼットへ向かい、ハンガーにかかっていた黒のカーディガンを手に取った。閉じていたボタンを手際よく外すと、机に向かう唯の背中へふわりと被せた。
    「お借りします。」
     一回りも二回りも大きい源一郎の服に袖を通す。着丈は腰を完全に覆う長さで、袖は何度折り返しても余るくらいだ。それ以上に気になるのは、鼻腔を擽る源一郎の香り。源一郎の部屋に入った時点で感じていたが、体に纏った瞬間、一層強くなる。まるで彼に後ろからすっぽりと包み込まれ、熱が伝わるはずもないのに温められているようだ。
    「少し席を外す。すぐに戻るから、分からない問題があったら目印をつけておいてくれ。」
     源一郎の声に我に帰った唯は、「わかった。行ってらっしゃい。」と返事をして部屋を出ていく彼を見送る。そして難解の古語に再び立ち向かった。


    ――


     源一郎は食堂へ向かうと、鍋に牛乳と砂糖を入れ、沸かし始めた。
    ――朝日奈は小さいな。
     シャープペンシルを握る右手も、ぶつぶつと古典単語を唱える唇も、そして自分の服で覆われていた背中も。自分の体格が人並み以上だということには十分気付いていたが、男子校では見ることのなかった華奢な身体にどぎまぎしてしまう。もちろん、それは相手が彼女だからという前提だ。
     牛乳がふつふつとしてくると、ガスの火を止め、大きめのマグカップに注ぐ。そして慣れた手付きで鍋をスポンジでさっと洗い元の場所へ戻すと、カップを持って自室へと向かった。


    ――


     源一郎が部屋に戻ると、唯は机に突っ伏していた。近寄ってみると、彼女からすーすーという呼吸が聞こえる。源一郎は「間に合わなかったか」と呟くと、熱を持ったマグカップを机の上に置いた。
     朝日奈、と声を掛けようとしたが、やめることにした。気持ち良さそうに眠りに落ちている女性を起こすのは気が引けてしまう。それに、勉強なら夜に根を詰めるよりも朝早く起きてからやった方が遥かに効率的だ。
     源一郎は椅子を回し唯の身体を支えると、そのまま腕の中へ収め、自分のベッドに寝かせた。長い睫毛が動くことはなく、寝息を立て続けている。
     そっと唯の頭を撫で、「おやすみ」と一声。
     彼女の身体に優しく布団を掛けると照明を落とした。自分はベッドに入ることはせず床に座り、ベッドに背中をもたれて源一郎も瞳を閉じた。


    ――


     唯は目を覚ますと、違和感に気付きぱっと起き上がった。ここは自分の部屋ではない。そうだ、昨日源一郎に勉強を教えてもらっていたが、気付いたら寝てしまったのだ。机の上に置かれた時計に目をやると、時計は朝5時40分を指していた。慌ててベッドを降りようとすると、足元で源一郎が静かに眠っていた。
    ――やってしまった。
     唯は焦りながら「源一郎、ごめん」と彼の肩を叩く。
    「……朝日奈。おはよう。よく眠れただろうか。」
     薄く目を開いた源一郎が、血色のよい唯の顔を見ると口元を緩めた。
    「ベッド借りちゃってほんとごめん。今からでも寝れる?」
     源一郎も時計を確認すると、「ああ、20分くらい寝るかな」とベッドへ上がった。そして大きな図体を横たえると、すぐに寝息を立て始めた。
     唯は直前まで自分がくるまっていた布団を源一郎に掛け、「おやすみ」と呟くと、勉強を再開させようと机に向かった。その時、自分の筆跡が残るプリントの横にマグカップが置かれていることに気がついた。中を覗くとなみなみと白の液体が注がれている。瞬時に源一郎が用意してくれたものだと唯は悟った。
     カップを持ち上げ一口つける。冷たい、が、甘くて美味しい。きっと源一郎が冷えてしまった自分の身体を暖めるためにわざわざ淹れに行ってくれたのだろう。ベッドで眠る、自分よりも遥かに大きな身体に視線を送ると、唯は「ありがとう」と声を漏らした。そして、よし、と立ち上がると、マグカップを持ち食堂へ向かった。


    ――


     唯は食堂につくと電子レンジにマグカップをいれ、あたためのボタンを押した。待っている間に何か源一郎にお返し出来ないかと冷蔵庫のドアを開ける。朝食は用意してあるし、かといって茶や珈琲を淹れたとしても、源一郎が起きてくる頃には冷めてしまっているかもしれない。うーんと頭を悩ませていると、足音が聞こえてきた。
    「コンミス、今日は早いのね。おはよう。」
     香坂がやってきてすぐに、唯の着ている服に目をやる。
    「あら、その服?」
     唯は香坂に指された黒のカーディガンを見てハッとした。ボタンのつき方から男物であることは明らかだ。何よりも唯が着るとワンピースくらいの丈になってしまうこの大きさ。思い当たる人物は一人しかいない。
    「あっ……!これは……!」
    「ふふっ……何も聞かないでおくわね。」
     別に何かあったわけじゃないです!と唯は顔を熱くさせる。その様子に香坂は再びクスクスと笑みを浮かべた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺👍💖💖💖💖💖💕💕💕💕🌋🌋🌋🌋💖💖💖👏👏☺😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works