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    ogata

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    ogata

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    ほんのり匂わせ程度の風降。プロポーズの日ネタ。

    ##風降

    約束 ひょんなことから、表参道のカフェで待ち合わせをすることになった。
     待ち合わせ相手の指定だったので否やもないのだが、コーヒーだけ頼んで用が済んだらすぐ出るつもりが、待ち合わせ相手との話が済んだ後、風見のスマートフォンに着信が入った。
    (その場で五分待機、後いつもの場所)
     上司からのメッセージは呆れるほど素っ気ない。次の予定があるからと席を立った相手に、支払いはこちらでする旨を告げてしばらくその場に留まることになった。
     場所柄、若い女性の利用客が多いのは如何ともしがたい。
     街路樹の緑を揺らして六月の涼やかな風が通り抜けた。幸い私服での活動中だったため、思ったほど周囲から浮いてはいないらしい。

     リンゴーン

     突然、鐘の音と拍手とともに、壁だと思い込んでいた扉が開かれ、白いチャペルと新郎新婦と二人を祝う参列者が現れた。客としても通行人としてもこの場を利用することが滅多になかったため、度肝を抜かれたことは言うまでもない。
     雲一つ無い晴天に、幸せそうな二人がライスシャワーを潜って階段を降りながら人々に祝福されている。結婚式の参列者だけでなく、カフェの利用客もその光景を笑顔で見守っていた。
     実に見映えのするふたりだった。同僚や友人の結婚式に参列したことがないわけではなく、新郎新婦、特に新婦はその日誰よりも美しく見えると言って相違ない。だが、この日の新婦はまるで洋画にでも出てくるかのような、長身でスタイルもよく美しい、褐色の美女だった。
     こんな風に祝われて、好きな人と最良の日を迎えられることを、きっと幸せと呼ぶのだろう。結婚したことのない風見は、好きな人と契約上の家族になる価値について、きっと正確には理解していないのだけれど。
     だがふとその笑顔に、ほんの少し違和感を覚えた。新婦は艶やかな金髪をしなやかに結い上げ、花冠を被っていた。美しい褐色の肌は長いベールとレースの袖に覆われている。
     周囲に手を振りながら、風見の姿を見つけた新婦は、朗らかに笑って手を振った。
     小さい頭、長い手足。モデルか何かなのだろう、と思い込んでいた。
     ウエディングドレスを纏った美しい人の身のこなしを、笑い皺を、風見は見たことがあった。いや、知っていたのだと気づいた。
     新婦が悪戯がうまくいった子供のように嬉しそうな顔をしたその時、会場に一発の銃声が響いた。

     式が中断した後、まばゆいばかりの美しい新婦だった彼はいつもの風見の上司の顔に戻り、何事もなかったかのように、風見との待ち合わせによく使う喫茶店に現れた。
     彼に驚かされたのは一度や二度ではないし、説明もなく警察組織ごと欺かれることもしばしばだから、若干不本意ながらも風見はその状況に慣れている。三つの顔を持つ降谷は時として変装をして大衆に紛れることもある。だが、それは風見とは上司と部下でもなければ仲間でもない世界での出来事であるから、風見が彼の変装技術を目にすることは多くない。
    「実は、さる人物に頼まれて、断れなくてね」
     誰とどんな取引が発生するとウエディングドレス姿で結婚式を挙げる羽目になるのだ。素直にそう口にすると、降谷はくつくつと口の中で笑みを転がした。
    「種明かしをすると、あの式場にいたのは対象以外殆どがサクラだった。まあ大がかりな茶番だな。まさか対象が銃まで持ち出すとは思わなかったが」
    「エアガンだったようですね。怪我人が出なかったので安心しました。それにしても、ゼロにサクラとは……」
    「まあそれは偶然なんだけどな」
     銃を撃った人間はすぐに逮捕され、式はそのまま中断された。騒然とする式場を抜け出して、降谷は自分の服に着替え、予め準備した交代要員とかわり、警察が到着するまでに抜け出してきたのだという。
    「組織絡み……ではありませんよね、さすがに」
    「ああ、どちらかといえば探偵絡みだ。丁度、君は今日面会があっただろう。だから飛田君を呼びつけるのも忍びなくてね。君があのカフェで面会するようにして、僕の晴れ姿でも見てもらおうかと思って」
     なんでそんなことしたんだ、と、言えるものなら言いたかったが仕方がない。
    「途中までは、本当に素敵な機会に巡り会ったのかと思っていましたよ……」
    「あのくらいの偽装は誰にでもできる。結婚式前の新婦の多くは、努力を重ねて本番を迎えると聞くし、スタイリストは様々な技術を使って美しく見えるよう装わせるからな。まあ、僕はプロではないし、今日は自分でやったから君にもバレてしまったが」
    「いえ……降谷さんだとわかっても、やっぱり綺麗でした。明らかに何かしらの企てに巻き込まれているとは思いましたが」
    「なかなか優秀だな、風見」
    「それはそれとして、もしかしたら、これは部下としての……右腕としての贔屓目なのかもしれませんが」
     少し新郎が羨ましかったです、と言うと、降谷は目を見開いてから急に真顔になって、すぐに口元を自分の掌で覆った。
    「それはどうも。じゃあ、僕がもし結婚したいと思ったら」
     その時は誰よりも先に君に言うよ、と降谷は照れ臭そうに目を逸らした。
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    ・中夜

    DONEジュン茨ワンライ【ドレスアップ】

    王道クリスマスに浮かれるジュンくんと、同じく王道クリスマスに浮かれる茨さんの話。


    ※茨さんはアイドルじゃないときもメンズメイクをすることがあると思っています。顔面が効きそうな商談とか、何かの催し物にお呼ばれしたときとか…。なぜなら目的のためなら手段を選ばない人だから。
    雪に咲く華の、それはそれは朱きこと 綺麗な姿はいつも見ている。
     ファンデーションの上からまた何かの粉を叩いて普段からスベスベしている肌をより一層煌めかせ、目元にはジャケットに合わせたほんのりの青と、大きな瞳を引き締めるさりげないグレー。ばさばさ音を立てそうな睫毛は軽く流れを整えるだけでクルンと天を向き、仕上げにリップクリームをん〜ま…っと塗り込めば光の粒がぷるぷる弾けた。
    「……で? さっきからなんなんですか。鬱陶しい」
    「え〜。や、綺麗だなー…って」
    「は?」
    「なんでキレるんすか……」
    「いえ別に怒ってはいませんけど」
    「えぇ……。それにしちゃあ言葉の圧が強いっすよぉ〜?」
     共演者の女の人が持ち歩いているものよりはだいぶ小さなメイクポーチ、ポーチというよりは小銭入れにも見えるサイズのそれをポイッとハンドバッグに放り込んで、着込んだコートのボタンを留めながら茨は片眉を持ち上げた。
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