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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    palco_WT

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    倫《つい》ならず

    弓王の続き。かんゆば・かんとのベースの弓場←外岡。

    すまねェ、遅くなったァ!と弓場が作戦室の扉を勢いよく開くと、案の定、中には隊員三名がすべて防衛巡回任務を控えて待機していた。
     だが、弓場の姿を見て、温かい飲み物が入ってるのか両手で紙コップを包み込んでいた帯島が隊長を迎えるようにすかさず立ち上がる。
    「遅くなんてないッス。いつも通りの三十分前っス」
    「……そうか」と弓場は壁の時計を見やってから、手首の時計を確かめる。十分以上遅れている時計の針はじっと見ていると、時折痙攣するようにその動きを弛ませていた。
     そう言えばここ二日ほど構ってやっていなかったことに気づいて、弓場は針の位置を進めてからリューズを巻いた。
    「今時手巻きか。ソーラー電波にしとけ、ソーラー電波に。壊れねぇ限り生涯駆動するだろーが」
    「貰いものなんだ、あれこれ注文つけるわけにもいかねェんだ、仕方ねェーだろ」
     へえ、とののがそんな弓場の手首を覗き込む。
    「……もしかして高くないか、これ」
    「タグ・ホイヤーとか言ってたが」
    「高ぇやつ!」
     時計に触れるのもおこがましいと言いたげに、後ろに飛びのいたののに、帯島が「高いんスか?」と目をしぱしぱさせながら尋ねる。
    「親父が一時期腕時計に凝ってて、パンフ見せてもらったことあるけど、安くてもこれくらいはする」
     ののの掌が両方とも広げられる。
    「……十万円ですか」と外岡はうへえと言いたげな反応を見せる。
    「しかも、弓場のソレ、クオーツじゃなくて機械式だろ、もっとする」
     するのか、と弓場は改めて手首の腕時計を見下ろして呟く。
    「大学の入学祝いとか、ですか。太っ腹っスね」
    「いや、そういうわけじゃァねェんだが……」
     あいつ、とんでもねェーもん寄越しやがったな、と弓場はそっと文字盤を指先で撫でながらも眉をひそめると、ひっそりと呟いた。そのひそやかな声を、果たして外岡だけが耳にしていた。


     任務が終わり、ロッカーの中に置いておいた腕時計を手に取ってじっと見下ろしている換装を解いた弓場の背中に、外岡の言葉が投げかけられる。
    「神田さんからの贈り物ですか。もしかして」
     夜遅くの任務上がりで今から帰宅というわけにもいかず、弓場達の女性ふたりはすでにカプセルホテル程度の設備でもある仮眠室にそれぞれ休みに行ってしまった。
    「何で、分かる」
     弓場の遠回しな肯定に、外岡は「やっぱり」と返す。
    「だって、弓場さん、腕時計なんて今までしてなかったじゃないですか。だからきっと神田さんが置き土産にしてったんだろうなって」
    「知ったようなコトを……」
     掌で顔の下半分を撫でながら、多少表情を選びかねた風情で応じる弓場の背中に、外岡はとすっと顔を埋めるようにして触れさせた。
    「……さっき、王子先輩の匂いがしました。クリーンのウォームコットン。もう薄れちゃいましたけど」
    「……」
    「ウォームコットンって、アクアシャボンのホワイトコットンに似てますけど、王子先輩らしいですよね。高価だけど、ホンモノを選んでる。学生なんて金がないから、安いし手に入りやすいほうで妥協する奴も多いのに」
    「……犬か、おめェーは」
    「犬だったらとっくに弓場さんに飛びついて、撫でてもらいながら、顔でも舐めながらきゃんきゃん甘えてるっすけど。それとも、そうしたらおれも王子先輩みたいに可愛がってくれます?」
    「何言ってやがんだ」
     と弓場は背中にくっついている外岡を引き剥がすと、その余り肉づきのよくない頬を撫でるのと叩くの間ほどの強さで手の甲を触れさせた。
    「おめェは神田の愛玩犬《いぬっころ》だろ。あいつが九州から戻ってくるまで、おとなしくハチ公してろ」
    「だって弓場さんには、神田さんのニオイがしますもん。懐きたくもなりますよ」
     外岡はつま先立ちして背伸びすると、弓場の頭を抱え込んで、その唇に自分の唇を押し当てた。
    「……っ、何しやがる」
    「つれないなぁ。神田さんに抱かれた者同士じゃないですか」
    「外岡、おめェー……何考えてやがる」
    「だから、王子先輩と同じコト、ですよ。おれじゃいけませんか?」
    「いけねえもなにも、おめェーは神田の……」
    「だって弓場さんって、神田さんが初めてのオトコでしょ」
     苦虫を噛み潰す、とは言い慣わすが、だとしたら両手に鷲掴みにしたくらいの苦虫を口の中に押し込まれたと言わんばかりの弓場の顔つきではあった。かけらも悪びれもせず、飄々とした外岡の表情とは対照的に。
    「あの人にどんな風に仕込まれたか、少し興味あるんですよね」
     弓場の二の腕にすがるように伸ばされたその手を払うことも出来ず、目の前にいる部下をただ見ることしか出来ず。
    「言うにことかいてえらい言い草だな、オイ」
    「そうしたら、神田さんと間接的にシてる気分になれるかもしれないし。おれだって少しは淋しいんすよ」
    「それでそうなる理屈が理解しがてェんだ」
    「戻ってこない人に操を立てても仕方ないでしょ」
    「ンなわけねェだろ。何年先か知ったことじゃねェーが、向こうの大学を出て、経験と実績と積んだらいずれは三門《ここ》に戻ってくるってェ腹の裡じゃなかったのか、あいつは」
    「だって戻ってくるのは弓場さんのトコですもん。おれじゃぁない。でもそれでいいんです。そんなのおれはとっくに覚悟してるし、了解してることです。卑下もしてなければ、同情されたいわけでもない。ただ、……そうですね、ただの好奇心です。それ以上でもそれ以下でもない。おかしいですかね、弓場さん」
     たちこめた雲でくすんだ冬の空の黎明みたいな色の髪の若者は、感情の発露のとぼしい瞳を問いかけるみたいにぱちぱちと何度かまばたたかせながら、弓場を見上げる。
     外岡の双眸に映る自分と対峙するような、そんな錯覚を弓場は覚えながら。
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