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    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
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    遠征選抜の説明会後のみずかみんぐとおーじちゃん♀(半同棲)

    #水王
    waterKing
    #ニョタ
    gnota

    「お風呂いただいたよ、ありがとう」と脱衣所から出てきた王子は、オーガニックコットンのパジャマに、色白の肌がより生えるオフホワイトのカーディガンを羽織り、頬やうなじを淡いバラ色に上気させて何とも愛らしい風情で、畳の上に座りこんで遠征試験に関しての要綱に目を通していた水上の背中に、もたれるようにして膝を抱えて腰を下ろした。
     柔らかい背中の感触と、ふんわりとまとった甘い香りにもすっかり馴れてしもうたな、と水上はぼんやりと思った。今は湯にぬくめられた温かさとシャンプーの匂いにも包まれているけれど。
    「ねえ、みずかみんぐ」
    「なんや、二番隊隊長」
    「そう、それさ」と王子は背中合わせのまま、水上の片腕に自らの片腕を絡ませた。
    「きみはてるてるやカシオに水上隊長って呼ばれるのかい?」
    「……さあ。別にどう呼ばれたいとか全然考えてへんかったわ。実際、生駒隊《うち》かて『生駒隊長』ちゃうて『イコさん』やし。自分とこはどうなん」
    「王子隊のこと? それとも臨時隊のほう?」
    「王子隊」
    「そう言えばぼくもそう呼ばれたことは身内からはないな。ハッパかけてくれる時の弓場さんとか、実況の時くらいだね」
    「せやったら特にどうこうもないやろ。どうせ十日ばっかのコトやんけ」
     そんなことが気になるんかい、王子隊長は、と揶揄するように口にしながらも、水上は体を入れ替えて、王子を抱きくるむようにしてあぐらの上へと招いた。
     そして濡れ髪をくるんでいたタオルを解き、いつものようにドライヤーを当てて、ブロンズ色の髪を乾かし始めた。髪をすく指の感触と、弱風に設定されて優しく撫でる温かい風に王子は瞼を伏せた。
    「ぼくが臨時隊長に指名されてなかったら、選んでくれた?」
    「どーやろなー」
     難題の詰将棋に行き当たったような顔で首をひねる恋人に、ぷう、と王子は頬をふくらませた。新世界のてっちり屋でこういうフグの提灯あったな、と思ったが、さすがに口に出すような愚は犯さない。
    「ぼくはきみの好みのタイプじゃないって言うのかい」
    「人聞きの悪い言葉を選びなや」
     ここまでしとったるのに、とふくらんだ頬をなだめるように水上は撫でる。少しかさついた長い指先で。
    「クジ運とどこのプールに分けられたかによってそんなん幾らでも左右されるもんやん。じぶんはどっちかっていうとオールラウンダーよりのアタッカーやろ。今回のチーム構成やったら、照屋ちゃんと同じプールにおったら、迷ったかもしれんのう」
    「迷った」
    「最終プールにはヒュースも香取ちゃんも木虎ちゃんもおったからな。それこそクジ次第、や」
     それに、と水上は少しだけ意地悪い笑いを浮かべた。
    「そっちかて、俺が一般隊員枠におったら選んどったか? 選ばんやろ。俺の機動やと文字通り足手まといや。王子隊長《・・》は足でかき回す戦術が身についとる。一週間だけの即席部隊でも、それやからこそいままで積んだ経験を活かせる方向で面子を、……ちゃうな、『足』を厳選しよった。俺の見立ては間違っとるか」
    「……んー、ライバルになる他隊長の見解にはノーコメントでぇす」
    「おいこら、そっちから振っときた話題やんけ。こすない?」
     眉をひそめた水上に、ふふ、と王子は朱唇に艶やかな笑みを含んだ。
    「だったらそれこそ、きみの言う通り、クジ運とプール分け次第だよ。確かに、どれだけ動けるかをぼくは重視するけど、それでもきみを顎で使うことが出来るとなればその快楽には抗えないかもしれないしね。多少の不具合や予定外はそれこそ戦術や戦略で調整するものだろ。むしろ縛りプレイのほうがゲームは面白い。……格下相手にきみたちだって駒を落とすみたいに」
    「ゲーム、なァ」
    「だって試験なんて命を取られるわけでなし、ぼくたちが手抜かりをしたせいで逃げたネイバーで一般人に被害が出るわけでなし。削られるのはプライドだけさ」
     けど、と王子はくるりと体を返して膝立ちになると、水上の顔を掌で手挟んで、ちゅっと軽く唇を触れさせた。
    「だからこそ侮られるのは御免だ。例え遊びでも手は抜かないよ」
    「分かっとる」
     おのが腕《かいな》に抱くのは、麗姿だけに優れたただの少女ではなく、誰よりも誇り高い戦乙女《ヴァルキュリア》でもあった。その唇は、ワルハラへと集った勇者へと注がれる蜜酒のように甘く酔わせもする。水上のような人間ですらも、立場と、それこそなけなしの矜持さえなければ、魂の芯まで蠱惑されてしまいそうになるほどに。
     その柔らかな耳朶を指先でふにふにと弄びながら、反対側の耳元に水上は囁く。
    「おーじ、ピアスはせえへんのか」
    「何で急に? 前にぼくがピアスしようっかなって言ったら、見てるだけで痛そうだからイヤって言ったのはきみじゃん」
    「言うたけど、まさかそれでやめる思わんやん」
    「きみはぼくのことが意外と分かってないんだね。いや分かってないのは女心かな」
     お返しをするように王子は水上の左の耳たぶにやんわりと歯を立てる。
    「どうせなら一個のピアスを分け合おうよ。ぼくは右につける、君は左につける、どう?」
    「いやいやいやいや」
    「大丈夫、痛いのは一瞬だけだから」
    「したことあらへん奴がしれっと何言うとんねん」
    「あるよう、中学の時に、だけど」
    「マジ?」
    「マジでーす。六頴館高校の面接の前の日にね」
    「よ、よりによって」
     だから落とされたんだろーけどね、と笑って王子は水上の胸の中にぱふっと身を預けた。おかげでかどうかは分からないが、六頴館高に弾かれて、三門一高に悠々と合格した王子は水上とそこで巡り合うことになるわけなのだから、人間万事塞翁が馬とはよくも言ったものだ。
    「……行けるかどうかはさて置き、たぶん遠征には余計な私物《もん》、持ちこめへんやん」
    「だろーね」
    「けどまあちょっとした装身具くらいはお目こぼしされるやろと思って。……魔除けとかお守りになる言うやん。せやからおーじの生まれ石でな、その……俺に贈らせてくれるか」
    「……」
    「おーじ?」
     王子は無言だった。けれどその代わりに水上の背中に腕を回し、その手にぎゅっと力をこめた。
    「……あかん?」
    「あかんわけないじゃん! けど、みずかみんぐらしくもないこと急に言うんだもん。吹き出しそうになったよ、もう!」
    「はーいはい、笑ってください。幾らでも」
    「好きだよ、みずかみんぐ」
    「……知っとる」
    「きみは?」
    「分かってること言わせなや」
    「けど聞きたいんだ、ぼくは」
    「……」
     きらきらの碧翠の瞳が、英雄の放つ弓矢のように水上の双眸を射抜いて小揺るぎもしようとしなかった。
    「……いや、だから、それは」
    「……聞かせてよ、敏志」
     王子が水上を下の名前で呼ぶことは滅多になく、あるとしたら、それは体を重ねた忘我の時くらいだ。それをあえて交渉のワードとして持ち出してきたくせに、そのおもざしは無邪気な幼子めいてすらあって。
     ほんまこの姫さんは強情でかなんわ! 肚裡《とり》で半ば悲鳴を上げて、水上はそのくびれた、と言うよりは自然に引きしまったしなやかな腰をぐいと引き寄せ。
    「……!」
    「好きや」
     低く、喉に絡んだ声で囁くや否や、愛の言葉を紡いだ唇は、王子の柔らかで愛らしい唇に触れた。しばらく唇の温度と弾力を楽しむように重ねられたそれは、やがて融け合うように浸食し、そしてどちらからともなく交互に忍び入れ、引き、追いかけ、すがり、むつみ合う。せっかく丁寧にほぐされて乾かされた髪にさしいれた指がかき乱すことすら、官能に繋がり、接吻の合間にもれる王子の吐息は酔いの熱を伴うものだった。
     吐息も体液も何度となく味わい、混ぜ合わされてきたものだけれど、それでも交わすたびにもっともっととねだり、その果てを惜しむ恋人たちの口づけだった。言の葉などよりもひたすらに雄弁な。
    「どおや?」
     終《つい》を選んだのは水上からだった。それでも引き離すことを僅かに惜しむように、つい、と親指が濡れた王子の唇と、とろりと熟んだまなじりを撫でた。
    「うん、及第点、かな」
     ごちそうさま、と王子はにっこりと応じて、餌を貰った猫みたいにぺろりと舌で唇を舐めてみせた。
    「でも、やっぱりみずかみんぐと一緒の部隊になってみたかったなあ」
    「せやけどな、正直、試験が閉鎖環境試験だけやったらじぶんはなるべく避ける」
    「は?」
    「一週間、退屈はせえへんだろーけどな。ただ、触れとうなるかもしれんやん。こまいのもおるしさすがにあかんて。そないの、例えば万が一見られたらカシオに寝首かかれてまうわ」
     樫尾からすれば聡明で文武両道、とびっきりの高嶺の花でいて欲しい大事な隊長が水上「如き」に絡まっているのがどうにも釈然としてないらしい。それくらいは薄々察している。
    「けど、長時間戦闘訓練なら選ぶで」
    「なるほど。そのココロは?」
    「なにするか分からん奴、敵にするより味方に囲っといたほうがなんぼかマシや」
    「あのね……」
    「褒めとる。先の先まで手筋が読める奴なんて敵にしても味方にしてもおもろないやん」
    「ん、ん-……喜んでいいのか迷うね」
    「褒めてんから喜んどき」
     はぁい、と王子はどこかしら舌足らずに答えて、水上の首筋に顔を埋めた。
    「こら、くすぐったい。って齧ったらあかん。いやだから舐めてええとも言うとらんし」
    「なんで」
    「……」
    「なんでダメ?」
    「……あー、もう少ししたら俺、行かなあかんから。防衛任務、生駒隊で」
    「今日の今日で? 防衛任務?」
     おん、と水上は頷く。
    「遠征選抜試験が始まれば俺らは殆ど任務につけへんやろ。十日近くも、B級下位の部隊と審査しとらん時のA級だけに任せることになるやん。だからせめてこの三日の間だけでも、詰めれるだけ詰めれるようにイコさんに言うてん。幸い隠岐も海もマリオちゃんもええ言うてくれたんでな」
    「そっか……そうだね。そこまで考えが回らなかった」
     目端が利くのは盤面にだけではない。それが王子の自慢のダーリンだ。表向きは決して愛想がいいわけでもないし、むしろ取っつきにくいところがある。あれのどこがいいの、などと聞かれることもあるけれど、その分かりにくいところが何よりのお気に入りだった。めんどくさくて厄介で、そのくせ、人の痛みや疵には聡くて、優しい。自分はひとりで抱え込みたがるくせに。
     王子は水上の匂いを目いっぱい吸い込んでから、軽やかに立ち上がった。
    「だったらぼくも実家に帰らせていただきます。着替えなくっちゃ」
    「言い方!」
    「だってどうせ試験でしばらく本当に戻れなくなるんだし、一応、親に説明しとかないとね」
     王子はそそくさとカーディガンから腕を抜いて、水上の頭の上にかぶせた。
    「今夜は無理に帰らんでもええやん。俺が帰るまで布団、あっためといてくれとったら嬉しいし」
    「湯たんぽでも代行できるほど安い女じゃないよ、ぼくは」
     パジャマの上も脱げば、当然下は下着もつけていない。色と形が絶品の双丘がぷるん、と披露されるが、十代の性欲ゲージが振り切れてるはずの水上といえば、呆れた顔で見上げるだけだ。そのすました顔をはさんでくれようか、と王子とて一瞬思う。
    「ぼくのところも明日から入れるだけ入れられるか、みんなに相談しなくちゃならないでしょ。……きみたちには引けも遅れも取ってたまるもんか。弓場隊を抜いた以上、次の標的は生駒隊なんだからね」
    「おう、やってみい」
     この変則的なスケジュール下では、ランク戦《それ》がいつになるかは分からないけれど。まして、遠征に向かった近界でどうにもならない事態にだってなるかもしれない。こちらに戻れなくなるほどの。それでも今更引くような真似は、水上も、そして王子とて選ぶはずもない。
     だから、水上は王子の手を引いて、その指先にうやうやしく口づけた。
     トリガーを握り、弧月をスコーピオンを携え、ハウンドを放ち、そして自分も他者も守る盾を備える勇ましく健気な白い手に。
    「楽しみにしとるで」
     もしかしたらいつかその薬指に互いを結う輪の代わりに、温度と想いを飾るかのように。
     それはこちらの台詞だよ、と王子は彼女だけにできる、花よりも可憐に、そして物騒なくらいにふてぶてしく微笑で応えた。
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    DONE遠征選抜の説明会後のみずかみんぐとおーじちゃん♀(半同棲)「お風呂いただいたよ、ありがとう」と脱衣所から出てきた王子は、オーガニックコットンのパジャマに、色白の肌がより生えるオフホワイトのカーディガンを羽織り、頬やうなじを淡いバラ色に上気させて何とも愛らしい風情で、畳の上に座りこんで遠征試験に関しての要綱に目を通していた水上の背中に、もたれるようにして膝を抱えて腰を下ろした。
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    「ねえ、みずかみんぐ」
    「なんや、二番隊隊長」
    「そう、それさ」と王子は背中合わせのまま、水上の片腕に自らの片腕を絡ませた。
    「きみはてるてるやカシオに水上隊長って呼ばれるのかい?」
    「……さあ。別にどう呼ばれたいとか全然考えてへんかったわ。実際、生駒隊《うち》かて『生駒隊長』ちゃうて『イコさん』やし。自分とこはどうなん」
    「王子隊のこと? それとも臨時隊のほう?」
    「王子隊」
    「そう言えばぼくもそう呼ばれたことは身内からはないな。ハッパかけてくれる時の弓場さんとか、実況の時くらいだね」
    「せやっ 5021

    palco_WT

    MAIKING婚姻届けやから大事なひとに一筆もらう小話で、どないなっとん?と大学のラウンジで久々に顔を合わせた隊長に、茶のみ話のように振られ、ぼちぼちでんな、と水上はお約束のフレーズをとりあえず返した。
    「本籍地が大阪《むこう》なんですわ。なんで戸籍謄本を取り寄せ中です。ふたりだけのことなのに、色々とめんどくさいっていうんが正直なところですわ」
    「おまえと王子やったら籍なんてどうせもええと言い出しそうやけどな」
    「同じことをおーじにも言われましたわ。形だけのことならどうでもかまへんですけど、不便なこともようありますからそのあたりは。……どうせだから、ついでに本籍もこっちにしたろ思いまして」
    「ほうほう。とうとう自分もこっちに骨ぇ埋める気になったか」
     そうかそうかとしみじみと、そして嬉しそうに頷く生駒にほろりと笑みをこぼしながら、
    「で、ここで会えたが百年目、というわけちゃいますが、実は今日待ち合わせしてまでイコさんにお願いしたいのが、これなんですわ」
    と水上がさしだしたのは婚姻届けだった。
    「何、おまえ、俺と籍入れたいん?」
    「あんたならそういうボケはさむと思いましたよ。証人、お願いしてええですか」
    「俺でええの?」と彼は自分を指さして 950

    palco_WT

    MOURNINGさよなら大好きなひと

    三門市を出ていく水上と残されるおーじちゃん♀
    プロットとして手を入れていたんですが、書き上げる棋力じゃないや気力がなさそうなので。
     うっすらと予感みたいなものはあった。
     イコさんが大学卒業と同時に実家へと戻り、当然ながら生駒隊が解散することになって―水上隊として再編するかという話もあったがそれは当人が断り、現在はオッキーと海くんは別の隊に所属して生駒隊で磨いたその腕を存分にふるっている―、遠からず彼もこの街から去ることになるのではないかという予感。
     当たらなくても良かったのに、と王子は、すまん、と膝を正して畳に額をこすりつけるようにして土下座をする赤茶けたブロッコリーをただ見やるしかできなかった。
     水上もボーダーを辞めて、三門市を出ていくのだと言う。まるでかつての隊長の背を追うように。
     トリオンの減衰なんていう、ごくごくあり触れたつまらない理由で。
    「使いものにならへん駒は駒台にかて不相応や」

    →ちょっと前に時間戻る。
     王子隊作戦室:作戦会議が終わって。
    「ぼくとみずかみんぐってどういう関係に見える?」
    「どういう関係も何も恋人同士だろ」
     麗しの隊長の問いに、何を今更とばかりに呆れたというよりは怪訝そうに蔵内は告げた。
     一週間の大半を彼の部屋で暮らし、キスやハグをしている姿もキャンパスで見かけてい 2210

    palco_WT

    MEMO水王ちゃん♀一泊二日フェリーの旅ドラの音は出航の合図ではなく、出航時間が近づいたので船客と乗組員以外は船から降りろという意味だと聞く。聞きなれないその音が響いた数分後、控えめで上品な案内の声が改めて港から経つことを知らせた。
     奮発しただけあって、自分の古びたアパートなどよりも遥かにたっぷりとした広さと居心地の良さで出迎えてくれたスイートルームの客室の設備を確認していた水上は、手首の時計をちらと確認した。予定時間より三分遅れだ。
    「出航だって、みずかみんぐ」
     アナウンスを耳にした王子はぱっと顔を輝かせ、良人たる水上の袖をじゃれる仔猫がひっかくようにくいくいと引いた。
    「どうせなら港を離れるところを外で観ようよ」
    「外がええなら、そこからプライベートバルコニーに出れるで? スイートの特典やで」
    「もう、きみってばそういうんじゃなくてさ! いいからほら、さっさとカードキー持って」
     水上が扉の内側に挿したカードキーを手に取るのを確かめてから王子は、問答無用とばかりにその腕に自らの腕を絡めると、引きずるように船室を出て行った。はしゃぐ王子にこれだけは、と水上は手荷物の中からマフラーを何とか掴んで、その首と頭をぐるぐると巻 1390

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    MOURNING初のイコプリSS。大半が十九歳。関西弁は空気で読んでください。 付き合ってからと言うもの、王子は事あるごとに生駒に好きを伝えたがる。
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    「うーん、何でもないよ。ただ言いたいだけ」
    「それなら、ええ」
     にこにこといつもと変わらない笑顔を張り付けて、王子は生駒に言う。生駒は、本当にそうなら問題ないな、と頷いた。
     
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     生駒から経緯を聞いていた弓場は、片眉を器用に持ち上げて嫌そうな表情をした。
    「そうや」
     生駒はいつもと変わらない表情で弓場の問いに答えた。
     日差しの気持ちよい午後、ボーダーのラウンジの一角に何故か十九歳組が集まり、何故か近況はどうなのかと言う事になり、何故か、王子と付き合っている生駒の悩み相談が開始された。
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    「いや、何回も続くと生駒も鬱陶しいんじゃないのか?」
     嵐山の問いに柿崎が答える。
    「いや、そんなんないな」
     生駒は、当たり前だと言うように柿崎の言葉を否定した。
    「ないのかよ」
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