トライアンドエラー「だ、…………抱きしめても、いい、ですか……?」
サテツ君の手が、宙を掴むような状態で固まっていた。目は真っ直ぐこちらを見ているが、これではまるで紙相撲の力士だ。彼が何を躊躇しているのか、全くわからない俺様ではないけれども。
「なんだ、さっさと抱きしめろ」
今日はどうも寒くてかなわん、と言えば、おずおずと壊れ物に触れるような仕草で背を抱かれた。酷くもどかしい、何の圧も感じないのに熱い掌。
「……君の力は、弱いものを傷つけたりしない」
「……こ、子供なら、手加減できます、でも」
言い淀む声が、肩口で震えた。
「あなたは、子供じゃない……から、抱き潰してしまいそうで、怖いんです」
……おい、ベソをかくな。俺様のフォローが台無しになるだろうが。
彼の小癪な広い背中に腕を回して、筋骨隆々としたそこを指で辿る。背丈はそう変わらないのに、こうして抱き合うと嫌でもわかる。俺様の貧相な身体なんぞ、確かに枯れ枝みたいなものかもしれない。
「……なら、加減しろ。加減を覚えろ」
慣れろ。
そう言って、腕に力を込める。トライアンドエラーはあって然るべきだ。むかつくことに、人生なんざエラーばっかりだ。
「先が思いやられるな」
「っ、はい……」
彼の耳朶がカァッと赤く染るのが見えて、おかしくて笑ってしまった。